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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
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第五十一話 タヒぬ餃子

 網戸を洗った。

 風呂を洗った。

 掃除機をかけた。

 窓を拭いた。

 壁を磨いた。

 桟を綺麗にした。

 トイレを掃除した。

 排水溝を掃除した。

 電気を換えた。

 買い出しに行った。



 ■



「いやあ、すまないわね。なんか色々させちゃって。お礼に杏子あげる」


「ありがとうございます保留します」


「うんうん保留しちゃって。保険でもなんでもいいや。オナ○ットくらいにならしてもいいから」


「なに言ってるんですかお母様」


「杏子物覚えだけは良いから、たぶんカ

 フェラ

 テとかも上手くなるんじゃない? 知らんけど」


「なに言ってるんですかお母様」


 謎に台詞を改行させた流堂さんの肩を、揉んでいる俺。現在時刻十九時過ぎ。


 あれから──洗濯物畳みから、大量の雑務をこなした俺。全て流堂さんのリクエストである。


 別に断ってもよかったんだけど、むしろこんなに次々と頼まれるとは思ってなかったし、途中からかなり断りたかったんだけど。


 でも……女性二人暮らしというのもあるし、伊巫さんの晩ご飯の支度を待つ間、というのもあったし。


 なんだかんだ自分に口実をつけて、家事に邁進してしまった俺であった。


 結構えらくね、俺?

 普通、初めて来たお宅にここまでしないよね?

 というか、要求する流堂さんも流堂さんだけど。

 一介の男子高校生に何大量に注文してんだって話。


 ……まあ、昼ご飯と、誘われて了承したこれからの夜ご飯も、二食分の飯の恩義だと思えばいいか。


 それに俺も午後のお勉強会で長い事座っていたこともあり、身体を動かすにはちょうどよかったのだ。


 伊巫さん家庭訪問。お勉強会という当初の目的はさほど描写することもなく終わりを告げ、俺の家事猛攻編が始まった。そして終わった。


「……伊巫さん何作るんだろうな」


 風呂とかトイレとか玄関とかを移動する際、チラッと見えた光景。彼女はなんかジャイ○ンシチューみたいな紫色のサイケデリック溶体を、鍋でぐるぐるグツグツ撹拌していた。


 セミの抜け殻とか入っているヤツ。を、キッチンにてそれはそれは丁寧な手つきでねりねり混ぜ混ぜ。


 ……what?


 俺は即座に見るのをやめた。クレバーな頭脳は、全力で目を背けようと判断。


 六畳1Rは伊巫さんの魔改造によって1Kとなっているので、俺は移動の際以外、彼女の調理風景もしくは恐怖の儀式を、見ずに済んだ。


 が。


 視界の端に、ユニコーンみたいな角の生えた紫色と灰色が混じったみたいな体毛の不思議な小ネズミが二匹ほど、その鍋の中にぶっこまれているのが映った。


 ネズミたちはぐったりと動かないで、伊巫さん特製謎シチューに、おたまでぐるぐるされていた。


 だから、俺は実に晩ご飯が楽しみで楽しみで仕方なかった。


 もしかしたら天国とか見えるかもしれない。

 今さっきノートに遺言書を書かせていただきました。

 遺言書って、数学のノートでも有効なのかなあ?


 あと、俺が今肩揉んでる流堂さんも、なんかさっきからブツブツお経みたいのを唱えている。


 皆仲良く、タヒぬ時は一緒だ。流堂さんも覚悟を決めている。俺も逃げない覚悟で。


「……」


「……」


 二人は、伊巫さんが逃げようとしたら羽交い締めにしてでもてめえの創ったモノを喰わせようと暗黙の結託。


 そして、悪魔はやってくる。



 ■



「藤見くん。牛乳とトマトジュースどっちがいい?」


「……トマトジュース」


「ノンアル」


「わかったわ」


 俺と(聞かれてもいない)流堂さんの意志を、総括伊巫さん。どうやらメシを作り終えたらしい。例の魔改造壁も消滅し、1Kは無事1Rへとその空間回帰を遂げた。


 時刻は十九時十九分。

 それが三人のタヒ亡時刻とならないことを祈って。


 ──乾杯。


「南無三ッ」


 俺はそんなことを叫びつつ、その餃子を一つ口へと運んだ。


 そう──『餃子』だった。


 先ほどまでのジャイ○ンシチューはなんだったの? ってなくらい完璧に完成した綺麗な餃子。が、おおよそ百二十個ほど皿に盛られて、元気よくちゃぶ台へとちゅどーん!


 伊巫さんご満悦。会心の出来といった表情。まあ、いつもと同様、その顔は限りなく無表情に近いものだったけれど。


 伊巫さん一家は無表情キャラらしい。あと、淡々と台詞を喋る。これはお母様である流堂さんにも共通した性質だった。


 だから、その流堂さんの声もまた淡々としていて。


「あらおいしい。杏子錬金術(お料理)上手くなったのね」


「うん」


 コクリと頷く伊巫さん。箸で餃子を口へと一つ運び、ぱくり。


 俺、伊巫さん、流堂さん。ちゃぶ台とその上にちゅどーんした大皿を囲む三人は、三人とも餃子を食していた。そのとてもとても美味しい餃子を。


 特別、食べたらウルトラハッピーになるとか脳みそクールダウンになるとか、そういうこともなく。


 普通に普通に普通の餃子だった。

 むしろかなり美味しい。専門店レベル。

 少なくとも、JKが作れる領域ではないだろう。


 お母様も非常に料理が上手だったが、その血統書つきの伊巫さんも、お料理上手い設定なのだろうか?


 あと聞き捨てならないルビが振られていたことは、しかし華麗にスルー。


 錬金術師伊巫さんとかなんだよそれ?

 魔法使い設定で充分だろ……。


「まあでも餃子オンリーってのはちょっとね。野菜もちゃんと食べるのよ?」


「うん」


「……?」


 注意する流堂さんに、軽く首肯の伊巫さん。と、疑問符の俺。()()()()に襲われた。


 『野菜もちゃんと食べるのよ?』──


 どこかで聞いたような台詞。しかし、それがいつ、どこでだったのかもわからず。思い出せない。


 流堂さん。彼女の声、言葉。

 仕草。顔。風貌。雰囲気。


 ……なにかが思い出そうとしている。

 なにを忘れているのか、わからない。


 俺は幼少の頃に、この台詞を聞いたことがある?

 それも、とても懐かしいような、温かいような……。


 そういえば、流堂さんと今日初めて玄関で会った時も、なんだか初対面のような気がしなかった。


 やけに気が合うし。伊巫さんの件で、意気投合しまくってるし。それに、どこか懐かしく温かい面影がある。


 彼女の外見、若すぎる見た目。伊巫さんと似ていない黒髪。を、バンスクリップで後ろにまとめた、大人っぽい仕上がり。


 流堂さん。その名前の響きも。

 伊巫さん。その名前の響きは、でも……。


「ん? どうしたの幾太くん。杏子の餃子マズかった?」


「いえ……伊巫さんの餃子おいしいです。白くてもちもちしてて張りがあって若くてジューシーで肉肉しくて」


「そうね。杏子の餃子ツルツルで肉厚でむっちりしてて迸るように熱いぬめりがほどよく口内を蹂躙するように」


「そうですよね流堂さん。このヒダヒダなんてすごく形いいですものね。伊巫さんの餃子」


「ね。肉襞少し色が濃いけどでも可愛い感じの濃厚で濃密でそこから滴るお汁は肉沼の源泉から溢れもはや噎せ返るような。杏子の餃子」


「ですよね。下の方ちょっと黒いけど舐めたら苦いけどそこがむしろ唆るというかこのキツめの匂いもいい感じにくせになるというか。伊巫さんの餃子」


「その熱いスリットの隙間から堪えきれなくなった肉の悲鳴は嫋々として咽び泣くまさに濡れ濡れの彼女の蒸れた果実ごとわななき白い身体を油塗れにギットギトに波打たせるようにそれは野獣じみたスメル」


「流堂さんそこまで言ったらアカンですよ。伊巫さんも女の子なんですから」


「そうね幾太くん。杏子のココも女の子だものね」


「そうですよ流堂さん。伊巫さんも女の子なんです。優しく食べてあげましょう?」


「……なんなのあんたら? 普通に食べろよクズ共が……」


 蔑む伊巫さん。その目はバッチシ意気投合済みの俺と流堂さんへと。まさに腐れ豚を見るような眼つき。ありがとうございました。


 流堂さんに話しかけられて、先ほどまでの考えが再び記憶の彼方へと押しやられた俺。餃子を食べ進める。


 ちゃぶ台を120度挟んで右隣にいる伊巫さん。は、二人を見下す目を離しつつ、さっき俺が注いであげたコップの白い俺のミルクをその舌と喉で丁寧にごっくんする。


 いやまあ牛乳そのものだけど。なんの変哲もないけど。


 白いのごっくん伊巫さん。俺は赤いのペロペロ。トマトジュースですよ、ええ。


 ごっくん上手伊巫さんは、気を取り直すように先ほどの錬金術の会話に戻る。


「そんなに美味しく食べていただいて、まあ光栄ね。とりあえず炭素と水さえ入っていればなんとかなると知ったわ」


「杏子あんた齧歯類入れてないわよね? 爬虫類までにしとけって、言うの忘れてたけど」


「……入れてないわ」


「ならいいのよーうふふ♡」


 ♡マークつけてても無表情淡々とお母様。知らぬが仏とはこのことだ。


 俺は内心で「嘘つけ!」とちゃぶ台の右隣の先輩JKを睨む。普通にネズミとか入ってただろ。


 が、華麗にスルー伊巫さん。


 読心術使えるだろう無視してんじゃねえよ。このボクサーパンツ女が。色気ナッシング。しょんべん垂れ。


 あーあーションベンくせーなあ、ったく誰の臭い?


 そうかそうか伊巫さんか。あーこの人本当くせーなあ。ガキンチョガキンチョ。灰色ボクサーパンツお酢チーズヨーグルトトベラ。


「キッ」


「おおう……」


 再び猛獣の睨み伊巫さん。なんだか朝のトイレとか昼のお勉強会でもそうだったが、今日は妙に剣幕がすごい。


「な、なんか今日の伊巫さん威圧感? がすごいですね……」


「ん? 幾太くんもそう思う?」


 ちゃぶ台左側の流堂さんにヒソヒソ尋ねる。と、共感をもらえた。お母様も娘の不機嫌を察知していたらしい。


 たしかに、伊巫さんは今日一日中機嫌が悪かった。なんかずっとカリカリしていた感じ。まあ抑えようと自分でも努力していたみたいだけど。


 でも、オーラというか。イライラカリカリオーラを常に纏っている気がする。


 ……俺の気の所為? とか思っていると、


「あ、杏子もうそろ生理?」


 流堂さんのちゅどーん。とんでもない爆弾発言。もちろんご飯中。流堂さん以外、つまり俺と伊巫さんの箸がポトリと落ちる。


 にわかに「カァアアアアア」と赤くなる伊巫さん。図星かな? だとしたらわかりやす過ぎるけど。昼間勉強した参考書より分かりやすい。


 と、ほっぺ真っ赤伊巫さんはスタスタと、シンキングし精密な推理を完結させた俺の前へ歩行。


 パンッ。

 頬を叩かれた。 


 ……何故俺?

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