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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
52/59

第五十話 ただのお喋り

 伊巫さんのパンツ。

 伊巫さんのパンツ。

 伊巫さんのパンツ。


「……」


「あ、それ二、三枚持ってっていいわよ」


「なに言ってるんですかお母様」


「杏子色気ないのよね。『見せる相手がいないから別にいい』とか言ってるしさ。ちょっと躾けてやってくんない?」


「だから何をゆうとるんですかあなた様は?」


 俺は手元に掲げたる『灰色の天使(おぱんつ)』の模様を見る。無地だ。そして、なぜにボクサーパンツのような形状をしている?


 スポブラの時から重々承知していたことだが、やはり伊巫さん。彼女はラクな、機能性重視らしい。


 下着も、実に履きやすく軽量で動きやすいブツを選択していらっしゃる。ボクサーパンツの灰色を、俺は大して感慨深くもない目で見送り……畳んだ。


「ありがとね、色々やってくれて。いやあ、二人が家事やってくれるから助かっちゃう。やっと人生一息つけるわ、今日が最後の晩餐かしら?」


「はあ……まだまだ若いじゃないですか」


「あらやだ嬉しい。今年で34よ♪」


「へえーそうなんですか」


 俺は今、洗濯物を畳んでいる。そして傍ら、ちゃぶ台に落ち着いた流堂さんは、ほっと一息ついてコーヒーを飲んでいる。


 例のステンレスマドラー(マジカルステッキ)でカップ内をクルクルと撹拌させながら。その見るからに若い美貌をふう、と赤らめさせて。



 ■



 〜五分前〜


 夕方。


 流堂さんが帰宅し、バルコニーに干していた洗濯物を取り込む段取りとなり。


「手伝いますよ」


 名乗り出た俺。そして伊巫さんはなんと、


「じゃあ、私が晩ご飯を作るわ」


「な……!?」


 驚愕、絶句、天変地異の流堂さん。


「やばいわ幾太くん。杏子がご飯作るとか言ってるわ。ちょっと世界終わる前に杏子と今ここでセッ○○して孫の顔見せてくんない?」


「なに言ってるんですかお母様」


「あばばばば」


 バイブレーションお母様。相当伊巫さんが料理するのが恐ろしいらしい。そしてその本人はムッとした顔。とても心外そうに。


「なによ……私が料理するのが、そんなに不服なの?」


「いえ。いいのよ。揚げ物だけはやらないでね。いいのよ。全裸でも」


「全裸はやんないから」


「「チッ」」


「なんで二人とも舌打ちしてるの……?」


 という会話があって、伊巫さんキッチンgo。もちろん全裸でも裸エプロンでもなく。普通に先ほどまでと同様、ピンクのお花のパジャマちゃん。


 そして──出現した壁。


 キッチンと居間空間を分けるように、謎の白い壁が、床からニョキニョキっと生えてきた。


「な、なんじゃーこりゃ!?」


「ああ、杏子の魔法よ」


「便利過ぎますね、魔法……」


 解説流堂さん。どうやら、伊巫さんの魔法により六畳1Rが1Kに物件変更されたらしく。


 部屋はかなり狭く感じるようになったが、実に機能的なマジカルパぅワーだった。


 すげえな、もうなんでもアリかよ。

 部屋が変形しちゃったよ、まったく……。



 ■



 〜現在〜


 で、分かたれし居間とキッチン。


 キッチンには伊巫さん、晩ご飯を目下制作中。こちらからはその調理風景は見えない。

 居間には俺、洗濯物取り込む&畳み中。


 無論、他人の(しかも女性二人暮らしの)家の洗濯物には、そういうそういったハプニングもつきもので。


 冒頭に戻る──伊巫さんのパンツ×3


「ん? 流堂さん……34歳?」


「ええそうよ」


「……伊巫さん17歳?」


「ええそうよ」


「……」


 単純な引き算クエスチョン。それにそこそこの違和感を感じてしまう俺。


 どうりで見るからに若々しいと思った。だって見た目、二十代後半くらいの綺麗な女性だもん。普通に経産婦とは思えないビジュアルしているもん。


 そういえば、流堂さんのビジュアル説明をしていなかったな。俺は洗濯物を畳みつつ、そのコーヒーをお飲みになられている流麗なお母様の全身を眺める。


 白黒ボーダーのシンプルなハイネック。割とぴっちりしているが、スリムでスタイルのいい彼女には、とてつもなく似合っている。


 下は薄色デニムの長ズボン。全体的にカジュアルな雰囲気を纏いつつ、スタイリッシュに決めていた。


 だから、その格好がなおさら、びっくりするような若さを演出しているのだ。これでキャップでも被ったら、それこそ本当、十代くらいの若女子に見えるくらいに。


「こ、これは伊巫さんが将来有望だな……」


「あんたらさー、SMプレイでもやってんの?」


「ふぇ?」


 俺が素晴らしい血脈(DNA)に思いを馳せていると、唐突に切り出した流堂さん。俺は伊巫さんの洗濯物(灰色スポブラ)を取り落としてしまう。


「こないだ杏子が胸に縄痕付けてきた時。何事かと思ったわよ。まー若いことはいいことだと思うけどさ。もっとソフトなのにしときなよ。首輪とか調教とかアナ○○○○とか自宅全裸散歩とか」


「……ああ」


 俺は思い出す──縄痕。


 理布がつけた、縛った縄の痕。伊巫さん、魔女の罪、その清算、裁きの時間。


 体育館。今からほぼ一ヶ月前の出来事だ。


 俺は流堂さんに向き直る。たぶん、その表情はいいものではない。情けないが、俺は怒りを我慢できていない顔をしていると思う。


「それは俺ではないです。縄は、伊巫さんの痛みは……でも、救えなかった俺の……」


 うつむく。自分が情けない。言葉が上手く紡げないこともそうだし、なにより。言われるまでずっと忘れていただろうから。


 さらに思い返して見れば、体育祭の時にはすでに消えていた痕だった。媚薬の時ではまだ残っていたけれど。


 あの赤い痕。どうやら、一週間くらいで消えていたらしい。ずっと残るものでなかったのは、ホッとした。けれど、俺は何もできない。できなかった。


「まあ、別に杏子がどんなハードプレイしようが好きにしなって感じ? だけどね」


「……」


「まさか露出とか窒息とかぶっかけとかやってないでしょうね?」


「……!」


 そ、それは……。

 ……やりました。

 でも、不可抗力です!

 あとぶっかけは合法なやつですッ。


「はは……おいおいマジかよ。杏子も隅に置けないわね……」


 読心術を使えるわけではない流堂さんは、しかし俺の切実な思考をその表情からくみ取ったらしい。完全に冤罪な気もするが。


 その会話はそこで終了。再びコーヒーに口をつける流堂さん。二人分の洗濯物を畳み終えた俺。なにげに伊巫さんの下着類が五十パーセントくらいを占めていた。


 それと、さっきの流堂さんの年齢問題は、ひとまず置いておくことにする。色々なご家庭とか、事情とかがあるのだと思う。


 父親がいないのとか、この比較的広いとも言い難い家庭環境とかとも、関連があるだろうから。


「ん?」


 と、俺はその洗濯物の一つに気づく。


 伊巫さんの靴下。先ほどまでの風景、彼女の格好も思い出す。お勉強会で座っていた、伊巫さんの。


 その足。たしか靴下を履いていた。


「あ……」


 これも察する。縄痕の話で思いついたこと。マキビシダイブだ。あの時の傷痕。


 その棘の上を苦行僧の如く歩行した女子の、足裏にも残っているのだろう。


 だから、靴下だ。もしかしたら、昼間の彼女が起きた時。トイレから出てきた際の「向こう向け」台詞も、その意味を孕んでいたのかもしれない。


 歩いたら、足裏が見えてしまうから。必死に隠す伊巫さん。サイハイもそうだし、今日一日中長袖長ズボンのパジャマだったのも、そんな理由だろうか?


 というのはしかし、穿ち過ぎかな?

 まあ、これ以上考えるのも無粋だろう。


 無粋で邪推。本人のことは本人。今の流堂さんの言葉に倣うわけでもないけれど。


 でも、俺は伊巫さんがどんな選択をしようが、全部それでいいと思う。くさい台詞でも、そう自然に思ってしまうのだから仕方ない。


「そうだ、幾太くん」


 と、傍らのちゃぶ台前に鎮座する流堂さんが手を叩いた。現在時刻は十七時半過ぎ。


 ぽん、と乾いたクラップ音が一つ、六畳1R(伊巫さんの魔改造により1K)の居間内へと響く。


「ついでに網戸とかも洗ってくんない?」

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