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第五話 青春の叫び(廊下で)

「伊巫先輩ッ!」


「あら。藤見ちゃんじゃない。休日挟んだから、四日ぶりね」


 伊巫さんが振り返る。

 教材を持って、廊下を歩く足を止めながら。教室移動中らしい。


「ちゃんって……初めて主人公が呼ばれた名前が女子呼ばわりですか? まあ、今は俺女子なんですけど……」


 そう。女子だ。俺は今、伊巫さんの魔法で女の子になっているのだ。


「目下の課題はそれです。単刀直入に言いましょう……」


 そして俺は、大きく息を吸って、叫ぶ。


「俺を、男に戻してください!」


「はあ……」


 案の定、彼女はめんどくさそうなため息を吐いた。


「部員勧誘は?」


「はい。あのあとも四、五人話し掛けてみたんですけど、やっぱし断られました。入学から二週間くらい経ったんで、もう大体みんな決めちゃってて。兼部で、幽霊部員でもいいから、とも誘ったんですけど、なんか忙しいみたくて……」


「そりゃそうね。うちの高校、ここいらでも屈指の部活奨励校だから。けっこう力入れてるみたいよ。バレーボールとか鉄道模型とかディジュリドゥとか」


「そうだったんすか。初耳です……それと!」


 意気消沈する心になんとか喝を入れるように続ける。

 ……つか、ディジュリドゥってなんだ?


「それと、女の子ってもんのすごーーーーーーーく、めんどいです!」


「あら言っちゃった」


「なんなんですか、あの激痛は!? それに、風呂上がりなんて軽く殺人事件ですよ! これなんてホラゲー? それだけじゃありません。女子って『トゥルットゥルー』じゃないんですか!? あんなに生えてくるんですか? 二、三日で脚とかすげえですよ!」


「まあ、若いからね。個人差もあるんじゃない? あなたの理想がどうなのか知らないけど」


「先輩も剃ってるんですか!?」


「……そういうことあんまし訊いちゃ駄目よ」


「あと、フツーに風呂に×××とか浮いてますよ! ×××とかもかゆいし!」


「まあ、そのくらいで」


「ああ~~もう! 知りたくなかったこんなこと!」


「女性幻想、強いわねー」


「お気になさらずッ。ぼくは純粋なんですッ」


「あら言っちゃった」


「とにかくッ」


 俺は猛スピードでまくし立てた言葉を切り、一旦落ち着いた。

 深呼吸をする。


「自分勝手なことはわかってるんです。伊巫先輩に……いや、他の人にもご迷惑をおかけしたことは重々承知です。……でもッ」


 伊巫さんの瞳が紅く光って、こちらを見る。


「でも……でも」


 その眼の色に圧し潰されて、うまく言葉が出ない。

 なにか、言いたいことがあった。

 伝えたいことが、あったのに……ッ。


「でも……」


 俯き、声が沈まる。


「なに」


 ハッと、顔を上げた。

 ……声を、上げる。


「そ、そうだ!」


「……」


()()()()()()()()ですよ、先輩ッ!」


「………………………………は?」


「そう、そうなんです。接触面積の問題です。いや、圧力分散と言ったほうがいいか……女の子じゃ、出来ないことがあるんです! それは、オッパイを揉むことですッ!」


「……いや、できるでしょ」


「いいえ、できません! 『触る』ではなく、『揉む』なのです。『触る』は女の子にもできますが、『揉む』のほうは男にしかできません! なぜならば、男性の手のひらと女性の手のひらのサイズでは、けっこうな差があります。われわれは普段女の子のオッパイを揉むとき、通常、手のひら全体で揉むでしょう? つまり、より大きなオッパイの存在を享受するには、男のおっきな手でないと、効果的ではないのです! よって、そのオッパイを手中に収むるに──『揉む』という高次的な行為には、男の身体じゃないといかんのですッ!」


「……よくわからないのだけど、その理論でいくと、より平均的に手のひらが小さいとされる女性のほうが、同量のサイズの胸でも、より大きく感じられるんじゃないかしら?」


「──ッ!? ……つまり、男のおっきいのじゃないと、その……おっきなオッパイを存分に楽しめないのです! それに……オッパイに限った話じゃありません。大腿部、臀部、上腕部、腹部、大転子──いずれにしても、よりおっきなほうが、接触面積が広がり、一度のタッチでより広範囲を狙えるというか……そう! 圧力分散により、より広く、柔らかく感ぜられるのでありますッ!」


「はあ……よくもまあ、そんなでたらめ屁理屈がスラスラ出てくるものね。あたしちょっと感動しないわ」


「してよ!」


「は?」


「……シテクダサイ(小声)」


「……はあ」


 と、伊巫さんはため息をついた。


「あなたさっき『他人にも迷惑をかけた』って言ったわね」


「はい、部活の勧誘など……」


「それ、今」


「……はい?」


「周り見なさい」


「へ」


 見る。そう、ここは廊下だった。

 生徒たちがジロジロとこちらを見ていた。


「おっぱい?」


「あの人、今おっぱいって言った?」


 そこの女子が、俺を見てヒソヒソと話し合っている。


「あ」


「ふう。私まで関わってるとは思われたくないわね」


「す、スミマセン……」


 俺は周りにペコペコと謝る。


「まあいいわ。ちょっと」


「へ?」


 伊巫さんがちょいちょいと手招きする。


「な、なんでござんしょう……?」


「放課後、部室で待ってるわ」


「はい?」


 伊巫さんは、その赤い瞳孔でにやりと笑った。


「……いいこと、しましょう?」



 ■



「なんでいきなり叫んだの」


「なんか青春っぽい感じですか」


「うざいわ」

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