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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
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第四十六話 ふたりの恋はコピペのように

 伊巫先輩は魔法使いである。


 高校二年生で、女の子で、茶髪で、クールビューティーで、ぼっちで、何考えてんのかわかんなくて、でも割とドジで。


 そして俺の妄想オ○ペット。


 ──それが、彼女の役職である。


「……なにか不快なことを言われた気がするわ」


「とんでもないとんでもない」


 俺は手をヒラヒラ振りふり。パイプ椅子に着席している彼女へと爽やかなスマイルを贈った。


 放課後。


 あの狂った体育祭から三日後。月曜は振替休日だったから、今日は火曜。そして来週の水曜日には一学期中間試験を控えている。あと八日だ。


 俺と伊巫さんはここ、離れ校舎の部室にてお勉強会をしていた。


 部屋の中のホワイトボードには『歴史研究同好会(仮)』と書いてある。やはりまだ同好会設定らしい。


 部員集めの件は、一体どこへ飛んだのだろうか。まあ半年くらい猶予があるみたいなことを言っていたし、現在は放置でいいだろう。


 と、伊巫さんの茶髪が揺れる。


「今回は日常回ね。最近結構長いのやってたから。グダグダ行きましょう」


「まだ展開決まってないんですね」


 まあいい。俺も最近ここ三日ほど追加開催の体育祭で、主に下半身の気力が疲れているのだ。


 ナニをやっていたかって? ザッツライ。


 さすがに一日三発はキツイな。妄想オナ○ットの伊巫さんが懸命に働いてくれたのはありがたかったけど。顔面に白いのぶっかけながらボンテージで息も絶え絶えに、でも頑張って動いてくれたのは健気でクソ萌えたけど。


「なにか不快なことを言われた気g」


「とんでもないとんでもない」


 俺は手をヒラヒラ振りふり、伊巫さんの台詞を遮りつつ。再びシャーペンを持ち、机のノートに英文を走らせる。


 お勉強会。今現在、例の部室備品の会議机に、俺と伊巫さんは向かい合った形で座っている。もちろん、同じく備品のパイプ椅子に腰掛けて。


 窓には薄手のカーテンが柔らかくひらめき、五月の暖かな風を示している。夕方の穏やかに差し込む円光と空気が、その女子の、少し外ハネな短髪をくすぐるように撫ぜた。


「……」


 黙っていると、本当に絵になる人だ。透き通るような肌と、整った鼻筋が、キリッとした目と相まって、荘厳な感性を思い起こさせる。


 彼女の指先は滑らかな動きで、まっさらな紙面におびただしい数式を連ねていた。


 俺は英語。伊巫さんは数学を復習しているようだ。学年が違うから、学習する範囲も違う。じゃあなんで一緒に勉強するの? 勉強会の意味ある? とも思う。


 だから必然、教え合う的なシーンは一切ない。「ココの問が解けたらココを触らせたげる♡」とか、「もしあなたが私に点数で勝てたら、○○○してあげる♡」とかもない。


 ……まあそもそも同学年だったとしても、伊巫さんはそんなこと言わないか。


 静寂が漂う。割と普通に真面目な勉強会だ。というか、ただ二人が一緒の空間にいるだけで、別個に自習している感じ。マジで何のイベントも起こらない。


「伊巫さん。これなんて読むんですか?」


「……my pen is is big」


「……チッ」


 スペースいれやがったか。せっかく動詞重複させたのに。俺は舌打ちしながら、上げていたノートを机に置く。


 少しアイスブレイク的なタイムを取ってもいいんじゃないかな? と考慮した俺は、秒針とカーテンの衣擦れしか起こらないこの空間に、一石を投じることを決意。


 よくある会話で盛り上がろう。ついでに勉強の復習にでもなればいい。心優しい俺の言葉が伊巫さんへと問いかける。


「甲申事変で親日派の独立党に所属し漢城旬報の創刊発行に協力した人物は?」


「金 玉均」


 またスペースいれやがったか。どんどんいこう。今度はスペースが入る余地がないやつで攻めてみる。


「インカ帝国の初代皇帝で素晴らしき礎という意の名を持つ人物は?」


「……」


「おやおや? わかんないんですか? 仕方ありませんね、サービス問題です。

 かつてそのインカ帝国の首都として栄え、へそという意を持つ小王国の名称は?」


「く……」


 答えを言いかけたのか、悔しさの息を漏らしたのか、茶髪女子生徒はそんな声をあげた。いずれにせよ不正解だ。


 伊巫さんは割と馬鹿なのかもしれない。なんかクールビューティーだしぼっちだし頭良い印象があったけれど、蓋を開けてみたらそうでもないことが判明した。


 伊巫さん頭弱々説。ちょっと問題がベタ過ぎたかな。さらにさらに攻めてみよう。


「6は英語で?」


「……シックス」


 ノートに書いていた数字を指差すと、今度はちゃんと答えた。幼稚園生でもわかる問題だ。脳みそチューリップ組の伊巫さんにも答えられるように、俺がちゃんと配慮した。


「これなんて読むんです? 字汚いですね」


「……エックス」


 お次は彼女のノートを指してみた。大量の数式がまんべんなく綴られ、もはやページ全体が真っ黒になったノート。その中から該当の代数を探し当て、俺は尋ねた。


 別に字はそんなに汚くない。むしろめちゃ達筆。でも、いちゃもんつけてみた。ぺージが数字で埋め尽くされて、マックロクロスケで読みづらいのは確かなのだから。


「あ、ごめんなさい聞いてませんでした。これなんて読むんでしたっけ?」


「……シックス」


「こっちは?」


「……エックス」


 俺は交互に指差していく。俺のノート、伊巫さんのノート。書かれている文字はそれぞれシャーペンの跡。同じ空間、同じ紙媒体、同じ炭素の粒子を追いかける俺の流暢な指は、学生の真面目な勉学の紙面上を踊りだす。


「シックス、エックス、シックス、エックス」


 伊巫さんの淡々とした声が夕暮れの部室に響く。俺の視線誘導は止まらない。指は高速で二つのノート間を忙しく駆け巡る。


 俺のノート、伊巫さんのノート。

 俺のノート、伊巫さんのノート。


「シックス、エックス、シックス、エックス」


 俺、伊巫さん。俺、伊巫さん。

 俺、伊巫さん。俺、伊巫さん。


「シックス、エックス、シックス、エックス」


 俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫俺伊巫。


「シックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックスシックスエックス」


 俺、俺。


「セッ……」


 ノートを見ていた伊巫さんの瞳がこちらへ上昇。そのにわかに紅潮し始めた顔と見開かれた目に、保健体育は優秀であると確認。


 これは今度のテストが期待できそうだ。俺の口角が痛いほど上がっているのがわかる。ついでに息子も「呼んだ?」とばかりに隆起。


 ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 いつの間にか机の下から出現した乗馬鞭(マジカルステッキ)により、頭部を襲撃された俺。パイプ椅子から転がり落ち、床へとフ○キラーを喰らったゴキちゃんよろしくもんどり打つ。


 沈降。ち○こが沈降。素晴らしい地学の実演だった。ありがとうございました。


「中間考査だから保健体育のテストはないわ」


 伊巫さんは腕を組み、地面の俺を見下した。その顔は冷静ぶって見えて、実は耳まで紅潮の色が消えていなかったり。


 簡単に引っかかる伊巫さんも伊巫さんだと思うのだけれど。なにげにあなたノリいいですよね。とても俺好みだ。いい感じに調教されてきているな。


 腕を組んでいる伊巫さん。それが、胸を強調するポーズだとも知らずに。


「はっ」


 さっと、何かに気づき、腕を背後に回した伊巫さん。たぶんまた読心術だろう。でも腕を背中側にやったことで、さらにその胸が張られて黒いブレザーからはちきれんばかりに。


「……!」


 と、後ろを向いてしまった伊巫さん。しかしそのプリティなお尻がこちらへとローアングルで見せつけるようになっているとも。


 おおっと、身体がプルプル震えているな?

 俯いて肘を抱きかかえるようなポーズだな?


 ハッハッハ。貧弱貧弱ゥ!


 まあでも、先ほどの問題で正解にたどり着いたようだから、よしとしよう。


 俺+伊巫さん=セッ○○


 この世にこれほど単純明快で真実に近い問題もないだろう。脳みそチューリップ組の伊巫さんでもわかるたし算だ。


 ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!

 ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!

 ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 三連チャンで来た。

 ちょっと怒っちゃったみたい?

 女ごころってわかんねえなあ。


 沈降した俺のち○こは第二象限へと旅立った。もはや凹んで窪んで女の子にトランスフォー厶したと言っても過言ではない。


「ひいい、ぴぎいいいいい」


 再び床へともんどり打つ下等生物の俺。腐った豚のほうがまだ救いようがある生き様である。


 なんかまた死にそうなくらい痛い。でもこれで、毎度打った痕が一切残らないのだから不思議。


 と、あまりにも痛がる俺の動きに、さすがに慈悲を覚えたのだろうか。伊巫さんは女神のような声で俺を慰めるように覗く。


「大丈夫おっぱい揉む?」


「あーちょっとお願いしてもいいっすかね」


「じゃ、ねんねこしゃっしゃれ」


「はい」


 俺は言われるがままに寝っ転がった。というか元から寝っ転がっていたけれど。


 ……?


 あれ、なんだろう。なにか変な会話をした気がする。肩揉むって言ったよね? まさかおっぱいとか言ってなかったよね? 聞き間違いだよね?


 まあ肩だとしても、脈絡ないけど。元から考えていた台詞を、めちゃくちゃに文に接着(コピペ)した筆者の怠惰さが窺える。


「目ェ潰って」


「漢字が怖いです」


「瞑って」


「……」


 瞑った。周囲で何か音が聞こえる。まるで、パイプ椅子を引きずってこちらへ運ぶような。


 と、仰向けに転がった俺の腹に軽量な気配。


 なぜか脚でグイグイと俺の胸板を踏んできた伊巫さん。言うまでもなく土足ローファーである。


 彼女は現在進行形で、パイプ椅子に腰掛けて、その御御足で俺の腹部をグリグリしていた。


 ……?


 あれ、なんだろう。なにか変な動作をしている気がする。


 踏んでる? 俺を? 伊巫さんが?


 ……な、なぜ?


「私が上だからね」


「はい?」


「最近あなた調子乗ってるから。原点回帰というか、ね。私が上だから。私が上だから」


「……はい?」


「ちなみに藤見くん一年であたし二年でしょ? で、あたし去年の過去問持ってるの。よかったらそれ見にうち来る?」


「え?」


「次の土曜日。家に誰もいないの」


「…………………………………………え?」

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