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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
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第三十九話 グダグダ

「なあ藤見はん」


「なんですか蓑路先輩」


「取り引きせな」


「……取り引き?」


 応援席。俺は午後の競技をぼんやりとして見ていた。同じくぼんやりと見ている男。隣にいる。


 蓑路だ。例の、『学校ガイドブック(裏)』上層部、構成員の一人。先ほど俺と伊巫さんの事件現場を目撃した、吉井ともう一方、その一人。


 男蓑路は言う。ちなみにこの人は三年生で俺と二学年も上の先輩だ。そのあまり威厳のないエセ関西弁先輩が、珍しくテンションの低い声で、俺に提案した。まあ、珍しいとか言うほどまだ接触機会が多いわけでもないが。


「ワイは伊巫杏子のハレンチコスチュームを秘匿にする。そやから、藤見はんもワイらのことは黙っといてほしい」


「……ほほう」


 俺は『ほほう』と唸ったが、内心では『ん?』となっていた。


 『ワイらのこと』? 何なんだ、それは。


 思い当たる節が全然なかった。重鎮っぽく言ってみたのも、単なるカッコつけというか。ピンと来ない交渉を、しかし交渉は交渉だから、本能的に舐められないような態度を取ったまでだった。


「まさかあんさんがそこまで見抜いておったとはなあ……ワイらのミッションを。それを踏まえると、先週体育館の倉庫でワイらを見つけたあの行動も、警告だったということかいな。

 全く、一本……いや、百本くらい取られましたわ」


「うむ。まあ」


 俺はとりあえず肯定しておく。なんかよくわからんが、尊敬されているらしい。全くよくわからないが。


 と、蓑路がずい、と俺に向き直る。


「頼む。この通りや。先公に言うのだけは堪忍してくれい。それと、追加条件もやる。これを」


「……インスタントカメラ?」


「せや。あんさんも必要じゃろう?」


「ん? この体育祭って、撮影禁止じゃありませんでしたか?」


「無論。絶対秘密に決まっとるやないの」


「……うむ」


 本当に話が見えない。とりあえず頷いとく俺。

 男蓑路はなぜか俺にインスタントカメラを進呈した。小振りの、撮ったその場で写真を印刷できるアレだ。


 と、再び蓑路が口を開く。上体を完全にこちらへと向け、若干平身低頭気味で、尊敬の眼差しだ。


「王子。すげえよ王子。まさか伊巫はんとそこまで進展しておったとはな。それに、あれは何プレイだ? イヌ着ぐるみ二人三脚プレイ? 体育倉庫ボンテージプレイ?」


「へ? え、えっと……」


「ほうかほうか、ほな、どないしよか。斎藤に言うて候補外してもらわなあかんか? そしたら、六雲はんにも連絡入れな。ああ、王子はんの意見を聞いときたいな。やっぱ、伊巫はレーンから外しとくか?」


「う、うん?」


 グイグイ来る蓑路先輩。俺はまた曖昧な返事しかできない。


 なんか色々あり過ぎる。それと、伊巫さんはあの後ショックで今でも体育倉庫で一人休んでいる(ちょっと出てって、一人にして、とのこと)。

 つまり、俺はこんがらがってきた。整理しよう。


・ボンテージ伊巫さんと俺の絡みを、蓑路と吉井に見られた。


・こいつらはなにか教師にバレてはいけないような企みをしている。


・俺にその企みが露見した、と思い込んでいる(話の流れ的に推測俺、なぜかはわからない)。


・伊巫さんと俺の件を黙る&謎のチェキを渡す代わりに、自分たちの悪事を内密にしてほしい。


 ──と、いったところか。


「『ううん』? ほう、答えは否と申すか藤見はん。さすがやね、さすが! 男やで!

 ほんま、伊巫はんはこの会の目玉やねん。果たせなかったら、ワテらの面目が終わりや。あの子に票入れとった輩、結構多いんやで?

 いやあ、よかったよかった。王子も話ができる奴やな。ほな、楽しみましょか。打ち上げにはあんさんも参加せな!」


「……う、うむ」


 バシバシと背中を叩かれ、呆然俺。とりあえず肯定作戦続行。なんか一部否定とも取られたらしいが。ものっすごく喜んでいる蓑路。ウキウキだ。全く話が掴めない。


 なんかこの人嫌いだ。ガツガツ来る。まるで、初期の頃の俺みたいだ。


 と、ここで蓑路が言った言葉が、俺の脳内で反芻される。


『伊巫杏子を──秘匿にする』?


 伊巫さんの強烈露出コスチューム。お腹丸出し、お尻ほぼ見え、胸の谷間衝撃、くびれ激エロ、脚きれい黒光りボンテージ。


 ──を、『秘匿』?


 俺は考察する。その言葉の意味を。節々まで隅々まで復唱し、検証する。


 秘匿にするとは言ったが、忘れると言ったわけじゃない。

 忘れるわけじゃない。忘れはしない。あの激エロコスチュームを。


 つまり。


 伊巫さんがオカズにされてしまう。絶対にされる。俺だったらそうする。というかそうした。嫌だ。そんなの嫌だ。


 怒涛の思考回路が俺の脳内で伝播される。瞬間と衝撃。鮮明に思い出される。光景。


 そうだ。伊巫さんは見られた。俺以外の男二人に、その露わな肢体、お腹、お尻、胸を見られたのだ。それも、あの変態コスの状態で。


 やべえ。やばい。戦慄。

 事態の深刻さが、やっと俺にも実感されてくる。


「み、蓑路先輩……」


「ん? どないした王子?」


 ニコニコ笑顔のホックホクで振り向く蓑路。もう話は終わったと言わんばかりに、応援席から立ち去ろうとしていた。それと、呼び名が例の『王子』に戻っている。


 俺は状況がわからないままに、このままではいけないと思った。伊巫さんの衣装。忘れてほしい。完膚なきまでに、記憶の底から永遠に葬り去ってほしい。


 が、他人の意思など、意識など操れない。俺は、上手い言葉が出てこない。


 ああ、時間が戻ればいいのに。

 あの時、体育倉庫にいなければよかったのに……。


「えっと……やっぱ、何でもないです」


「? そか。じゃあ、また後でな、王子!」


「……あ」


 蓑路は去ってしまった。取り残された俺。情けなくて、伊巫さんに申し訳なくて、どうしたらいいかわからなくて、言葉が出てこなかった。


「そうだ……伊巫先輩」


 と、俺は独りごちる。伊巫さんはまだ体育倉庫で蹲っているだろう。一人にしてと言われたから、そして俺も思考停止していたから置いてきた。


 が、今のあの人の状態で、放置する方が危ない気がする。なんで俺はそのまま出ていってしまったのだろう。なんで、俺なんかよりも、ずっと傷心中の彼女を、ひとりきりにしてしまったのだろう。


 俺は駆け出す。後悔を速さに変えて。例の彼女がいるはずの体育倉庫へと、全速力でダッシュする。


「──伊巫さん!」



 ■



 果たして彼女は、いた。

 その体育倉庫、例の陸上用マットに寝っ転がっていた。


 というか、寝ていた。普通に睡眠を取っていたのである。


「い、伊巫さん!? 何やっとるんですか!?」


 俺はめちゃくちゃびっくりした。ついさっきそのエロプロポーションエロボディを他人の男に見せつけたというのに、なぜまた無防備にシエスタできる?


 ば、馬鹿なのか? やはりこの人は馬鹿なのか?


「ん……藤見くん。おはよう」


「おはようじゃねえぞ馬鹿野郎。なんでその格好のまま寝てるんだよ。睡眠っちゃってるんだよ。ガードしろよガード、まさか俺以外にあれ以来入ってきたやついねえよな? 体育倉庫という公の場でそんなハレンチなコスで普通に寝やがるなんて、てめえぶっ転がすぞ」


「……結界は張ってるんだけどね。なんであなたが来ちゃうのよ」


「あ? 結界? 先輩まじ何言ってんすか頭お菓子ですか、この──」


 バキッ。


 何か踏んだ。そして壊れる音。


 俺が、未だボンテージ衣装で寝ていた伊巫さんに近づいた時だ。足元を見る。


 イヌ着ぐるみだった。そのファスナー部分を布越しに踏んづけたらしい。一瞬ヒヤッとして、その衣装を見遣る。持ち上げ、確認する。


 ……ぶっ壊れていた。

 見事に、その細密で脆弱な金属部分が、木っ端微塵に砕け散っていた。

 というのは冗談で、普通に壊れただけだ。根っこのところと、チャックに噛み合っている脚(?)の部分が、変に捻れていた。


 つまり、ファスナーの機能もろとも、完全に崩壊したということを示していた。


「……あ」


「あーあ、やっちゃった」


「いいや違うんすよ故意じゃないですすみません、というか伊巫さんその格好、じゃなくてこれじゃあ残りの競技どうしましょう、ってああもう、言う事が定まらない、どうなってんだ今回のプロット! テンポ悪過ぎ!」


「総括するわね。あられもない姿を見られた伊巫杏子。内密協定を結んだ藤見幾太くん。再び体育倉庫に戻ると、私こと伊巫が何も反省せずにボンテージそのままの格好で寝ていた。と、ブチ切れた藤見が伊巫に歩み寄ろうとしたその時、床に落ちていた着ぐるみを踏んでしまう。

 壊れたファスナー。これじゃあお外に出られないわどうしよう?」


「ありがとうございます」


 そう、着ぐるみが無ければ伊巫さんはボンテージのままうろつく羽目になってしまう、異論は認めん。展開は進む。


「先輩、どうするんですか!? もう着ぐるみ着れない(イコール)伊巫さんボンテージ続投ですよ! こっから先の競技、どうするんですか!?」


「壊したのはあなただけどね。あと寝てたのは、結界を重複させてエネルギーを大幅に使ったから。疲れちゃったのよ。ま、そのおかげであれ以来誰も絶対に来なくなったけれど、この体育倉庫に。しかし、元々誰が結界張ってたのかしら? 二重回路って結構難しいのよ……」


「何言ってるかわかりません。伊巫さんどうします? やっぱこれ入らないっすよね。棄権します? しましょう」


「早いわよ展開が……」


 俺は伊巫さんのよくわからない解説を脳内ですっ飛ばし、イヌ着ぐるみの残骸を彼女へと着せた。試みた。


 が、残念。もう完全にぶっ壊れている。背中チャックが閉まらない=伊巫さんボンテージ永遠継続。

 安全ピン等で留めればいいじゃない&そもそも仮想競争なんて辞めてボンテージ脱いで体育着になればいいじゃない発言は華麗にスルーする。展開進む。


「いいえ。棄権は──しないわ」


「は!?」


「棄権はしません。私はこのまま、次の競技に出ます」


「な……!?」


 俺は絶句した。何を言い出しているんだ、この女子生徒は。ボンテージで競技続行? 正気か?


 いや、正気じゃない。この人はそういう人だ。そういう、不注意すら超えて、何も考えていないどころか、すこぶる馬鹿な人間なのである。なのであった。


「伊巫さん! 何言ってんですか、何やろうとしてんですか。そんな格好のまま競技出場なんて、俺が──」


 『許しませんよ』。


 と、言おうとした。が、そこで気づく。

 俺がなぜ、伊巫さんを縛る権利があるのだろう?

 俺が、彼女の出場権利を剥奪する、その権利も無い?


「じゃ、あたし行くわね」


「は!? え、ちょっと伊巫先輩!?」


 と、俺が止める間もなく。

 彼女は行ってしまった。屋外校庭に、その激エロコスチュームのまま、扉を開けて出ていってしまった。


 そして、事件は起こる。


 伊巫さん全校生徒ボンテージ露出事件。

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