第四話 アレ
避けては通れないんですよ。
けして私の趣味じゃないんですよ。
「…………」
「なに?」
「…………(入部断られました……)」
「愛は言葉じゃないと伝わらないわ」
「……月が綺麗ですね」
「天文学には興味ないので」
「うわあああ!」
振られた!
親父にも振られたことないのに!
「っつか伊巫先輩、読心術使えるんだから察してくださいよ!」
放課後。
例の部室(同好会室?)である。
「そうね。クラスの地味目の女の子にアタックしたらあっさり振られたのね」
「そうなんですよー……いや違います! 入部を断られただけですッ」
「打たれ弱いわね。そりゃ相手にも都合ってもんがあるじゃない」
「そうなんですけど……」
いや、誠にその通りである。
しかし、女の子とほぼ会話すらしたことのない俺にとって、ちょっとしたことでも拒否を示されるというのは割とダメージがあったのだ。
シャイなんですよ、俺。
「当たり前のことよ。そんなことでクヨクヨしてはいけないわ。一発で駄目なら、二発なの。二発でも駄目なら、第三ラウンドか、また別日に、ってね」
「単位が若干気になりますけど……」
「ものの三発でグロッキーかよシケてんな」
「急に何キャラですか?」
「で? 友達は作れたんでしょ? 良かったじゃない」
話題が変わった。まあ早い!
「はあ、まあ……(そうなんですよ! 衛府さんっていう眼鏡のかわい子ちゃんで、めっちゃ巨乳なんです! すごない? 俺凄ない? そんな方とオトモダチになったんですよ!)」
「……おめでとう。部員は増やせなかったみたいだけど、あなたの『女の子』の第一歩としては、まずまずね」
「はい! 俺、着実に『女の子』になってます!(しっかし素晴らしい巨乳だったな。確実にFカップはあったぞ! 伊巫先輩の胸は……チラリ。ああー……)」
「スッ」
……なんか今先輩の手に鞭っぽい黒いものが見えた気がするが、全力で無視しよう。
気の所為だ。
「まあ、今日のところはこのくらいでいいわ。まだ『女の子』一日目だものね。じゃ、解散」
「(やけにあっさりしてるな)は、はい」
■
次の日。
「な、ナンヤコレ……」
■
「朝から元気ないわね。珍しい」
「い、伊巫先輩……」
もしかしてと思ったけど、やっぱり伊巫さんは、部室にいた。やっぱり、というのも、今まで俺が部室に行ったとき、必ず伊巫さんがいたからである。
なんという強引推理。でも、今回は当たったらしい。
朝から来てるのか。つーか、ここに住んでるんじゃないか?
魔法使いとか言ってるくらいだから、そのくらいわけなさそうだけど。
あ、でも違うな。この前、さよならって言ってちゃんと部屋から出ていったし。……
──さて、話題がズレてしまったな。
時を戻そうッ(会話に戻る)。
「い、伊巫先輩……」
「なんなの、びしょ濡れのアン○ンマンみたいな顔して」
「先輩、俺女の子になっちゃいまぢだ……」
「うわやだ、泣いてんの? 気色わるい」
「ひどいでず……」
「で? なんなの? 愛は言葉にしないと以下略よ?」
「じ、実は……ゴニョゴニョ」
「ふむふむ」
「ゴニョゴニョ……」
「ふむ」
「ゴニョ」
「ゴニョゴニョ言ってちゃわからないわ」
「今のは比喩的なものでしょ! 察してよッ」
「察した」
「察した!?」
「そう……昨日の今日ならぬ、一昨日の今日か。けっこう早かったわね」
「俺はどうじだらああああッ!!」
「定番ね。定番すぎて反吐が出るわ」
……ヒドッ。
なんかさっきから風当たり強くない?
「主体性がないわね……今どーなってるの?」
「へ? ふつーにパンツですけど。いやーしかし、この世界って俺ホントに女子設定なんですね。生まれたときからっていうか、周りからの扱いも女だし、制服とか下着とかも女子のがタンスに入ってるし」
「……正気で言ってるの?」
「へ?」
「正気で言ってるの?」
「……へ?」
え?
俺何かまずいこと言った?
だったら、どの部分に反応したんだ?
俺また何かやっちゃいましたか?
「……」
すると、伊巫さんは無言で何かを手渡した。
「なんですかこれ。食パン?」
「……この国の性教育も近年だいぶ改善されてきたみたいだけど、あんたみたいなのがいたら、まだまだね……」
「ハア……なんかすみません」
「付け方わかる?」
「ツケカタ? ──ッハ」
そうか! 察した!
え、これが!?
これがそうなの!?
本物!?
「どうやら察したみたいね。そして付け方はわからない、と。……よし、私が一肌脱ぐしかないようね。脱げ」
「ボクが脱ぐんですか!?」
「当たり前じゃない」
「なんでですか! 不平等です。日米通商修好条約です。社会的等価交換の法則のもとに、伊巫先輩も脱ぐのが妥当じゃなかですか!?」
「なかですよ……ほら、とっとと」
「イヤ! これは大事な人にだけみせるモノなのッ。 純白のベールに包まれた終末のアダム&イヴゾーンなのッ」
「あっそ。じゃあてめえで付けとけ」
「いっ……言われなくたって! そのくらい現代っ子だから調べればできるわ! あ、アンタなんて、だいっ嫌いなんだからあああああッ」
俺は部室から駆け抜けた。
ひどいわひどいわ、そんな言い方しなくたっていいじゃないんッ。
「はあー、めんどくさっ」
そんな声が、走る俺の背後から聞こえた。
ひどいわひどいわッ(以下略)。
■
「……私だってDはあるわよ」
「え? 頭文字?」
「うっさい」