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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
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第三十五話 括り括られ、駆け抜けろ!

『先ほどは大変失礼いたしました。保健係の皆様、ありがとうございました。それではこれより『体育祭・球技大会・運動会・スポーツフェスティバル・イベント』午後の部を開催したいと思います』


 午後の部が始まった。放送委員女子はなんとか復活したみたいだ。ご丁寧に謝辞まで述べている。


 斎藤が何気に活躍したらしい。保健係の彼は、なぜか放送委員女子の隣に寄り添ってスポーツドリンクを置いたり、のど飴を提供したりと、甲斐甲斐しくサポートしている。ぶっ倒れたそのアナウンスちゃんを保健室まで運んだのも、彼、斎藤。


 意外と紳士なやつだ。というかそれより、ナレーションを代わってやるのが一番手っ取り早いと思うけどな。


『それでは始めに、プログラム第三百九十五番、二人三脚です。競技参加者の方々は、レーンへの整列をお願いします』


 おお、いきなり来たか。


 伊巫さんの参加種目だ。この為に一週間、計五回もの俺との練習を積み重ねてきたんだ。彼女の実力はもうすでに、本物である。監督兼調教師の俺が保証する。きっと、ペアが違くても柔軟に対応し、見事その勝利を収めるであろう。


 俺は心の中で応援する。頑張れ、伊巫さん。あなたのやってきたことは、絶対に報われる。そう信じて、俺も応援席から熱い視線で見守っとくよ。


「藤見くん」


「うわっ」


 背後から来た。伊巫さんは、レーンには並ばずに、なぜか俺の後ろに陣取るようにして突っ立っていた。


「い、伊巫さん。出場者じゃないんですか? 早く並びませんと。ほら競技、始まっちゃいますよ」


「それがね。さっきペアの子が食べ過ぎで倒れっちゃったみたいで。急遽ペア変更をお願いできないか、私が自力で実行委員会に掛け合ってるところ」


「え……」


 なんと。伊巫さんのペアの子は、食いすぎで倒れたのか。たぶん、つい先程のお昼休憩、そのご飯タイムだろう。


 く、食いすぎって。……普通に、調子が悪くなったとかでいいだろ。理由がとてつもなく幼稚過ぎる。どんな子なんだ、その女子。伊巫さんのクラスメイトってことは、二年生か。何やってんですか。


 それに、自力なのか。そこら辺は実行委員会の役割だろ。補欠を宛てがうとかさ。やっぱ競技もそうだけど、体制の方もグダグダなのな。


「あ……もう競技始まっちゃってますよ。どうするんですか伊巫先輩?」


「うーん。このまま棄権するのもね。ちょっと勿体無い……ねえ。藤見くん出てくれる?」


「え、俺!?」


「うん。だめ?」


「いや……駄目じゃ、ないですけど」


 上目遣いでこちらを覗く、女子伊巫さん。ちなみに、彼女は今、絶賛イヌ着ぐるみ状態続行中である。


 ああ。その台詞、その格好で言ってほしくなかった。凄く可愛いシチュエーションなのに。わんわんおが全てを台無しにさせてくる。もはや、呪いのわんわんおだ。


「じゃあ今、実行委員会にちょっと申請してくるわね。先に並んでて。列は十三番目、たぶんレーンが開いてるから、行ったらわかるわ」


「は、はい」


 俺は席を立って、グラウンド中央、トラックのところまで少し駆ける。伊巫さんはその向こう、設置テントへと向かった。実行委員、つまり生徒会の方々が鎮座しているところだ。


 と、俺は列へと到着。該当レーンへと並ぶ。十三番目。何気に最後尾だった。と、だからまだ俺たちが走るまでは順番があるらしく、少し沈思黙考する時間を得た。俺はクールダウン。


 なんか全てが仕組まれ、仕込まれたとしか思えない状況だった。まさか、伊巫さんが例の魔法的超能力を発動しちゃったとか?


 まあ、さすがにそれはないだろう。伊巫さんもいくらなんでも、女の子一人食い倒れにさせる能力も、また、そこまでの非道さも持ち合わせていない。それに、そこまでしてペアを変更する動機もない。


「あとこれ、言っとくけど私の魔法じゃないからね。まったくの偶然よ」


 伊巫さんが戻ってきた。どうやら代打のOKをもらえたらしい。


 そして、地の文に対する本人からの注釈が出た。俺の思考でも読んだのか? あ、そういえば読心術使えるのか、伊巫さん。


 まあ、そうだろうな。これが伊巫さんの魔法だとしたら、あまりにもやることがしょぼいもんな。なんか『伊巫さんが俺と走りたいのか』なんていう、よくよく考えたらとんでもない自意識過剰なことも考えてしまったのが、とても恥ずかしく思われる。……わ、忘れよ。


「自意識過剰……ね」


「はい?」


「ほら出番よ。突っ走っていきましょう」


「あ」


 と、ここで気がつく。


 ()()()()()()()()()


 ……これはどうやって、足に縄を括ればよいのだろうか?


『位置について、よーうい』


「え、え? ちょ、まだ括って……」


『はいドーン』


 ドーン、と空砲が鳴った。割と本格的な合図だ。と思ったら、サバゲー部の提供らしかった。


 スタート地点の審判、その手に構える、発火するピカピカのプロップガン。M24みたいな狙撃銃。が、遥か遠くの的を射抜いた。なんか、射撃種目も同時開催されているっぽかった。詰めっ詰めの体育祭、苦肉の策。素晴らしい時間短縮方法。


 というか、あれ実銃じゃないよね? 結構な音と迫力があったけど。それに、構え方もちゃんと寝そべって微動だにせず、もはや本職みたいだ。


 まあ、こんな通常一般高校で実銃が発見されるなんてことはないでしょうけど。普通に造りが良くできた、サバゲー部の模型銃備品(エアソフトガン)なのだろうけれど。……ねえ?


「藤見くん何してんの。ほら、括って」


「え? ああ、はい」


 気づく。なんと周りを見たら、他のレーンの人たちも足を括っていた。と、括り終わった人からどんどん出発していく。


「そ、そこから!?」


「そう。括りスタートなのよ」


「いや手際悪過ぎるだろ! 最初っから括っとけよ! ただでさえ時間ないんだろ、この体育祭!?」


「ほら早く藤見くん。皆行っちゃったわよ」


「ええ……」


 と言われましても、今この状況は、練習の時とあまりにも違いすぎた。まず、縄を素早く括る練習などしていない。走る練習だけだ。


 それに、現在伊巫さんはわんわんお状態であった。着ぐるみなんて、すこぶる不利だ。そもそも縄の長さが足りない。本当に、若干足りなかった。イヌの足部分がそこそこずんぐり、外周がある。


 つまり、用意された縄がクソすぎる。というか、こういう事態に備えて色々準備しとけよ。何やってんだ実行委員。おい、テントで鼻くそほじってんじゃねえぞ。めちゃくちゃ怠慢じゃねえか。


 クソッ。足が。上手く縄が括れねえ。


「藤見くん、早く……早くイッて……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ伊巫先輩。ボクも結構キツイんですよ」


「ん……痛」


「あ、すみません。強くやり過ぎましたか?」


「大丈夫……藤見くんだから」


「ホント、もう少しでイケるんで……一緒にイキましょう」


「うん……あっ」


「い、伊巫さんッ」


「ふ、藤見くん……」


「い……伊巫さん、俺もう……」


「痛い」


「すみません」


「……」


「……」


「……ん」


「…………」


「あっ」


「うっ」


「……」


「……ふう」


「…………」



「──はい装着。おら出発すっぞ」


「ええ、そうね」


 そして俺たちは出発。かなり遅れを取ってしまった。他の全ての競技者が、すでにコースの半分までたどり着いている。が、巻き返す俺たち。


 伊巫さんはわんわんお状態でありながらも、素晴らしいその爆走っぷりを見せていた。特訓の成果だ。トレーナー兼調教師として、これほど誇らしいことはない。なんかイヌの着ぐるみも、駆け抜ける彼女には、今や様になっていた。


 挽回する俺たち。既に一組抜いた。周りのやつらが、すげえジロジロと見ている。そんな視線を感じる。


 無理もない話だ。イヌが男子生徒と括りで走っているんだから。二人三脚。異様な光景だろう。無論、歓声は湧かない。おしなべて奇異の目だ。走っている途中に随分と余裕があるように思われるかもしれない。が、しかし俺は周辺視で見たのだ。


 全校生徒の晒し者。窓から覗き込む、観客、観客、観客。現況の元凶の伊巫さんは、わんわんおだから正体はバレない。が、その隣で括り(括られ?)突っ走る男子生徒、つまり俺の存在は、周囲から面白いほどバレバレだった。


 異形の歩行物体。イヌと人間の融合体(キメラ)

 それが、今の俺たちだ。


『ゴーーーール!』


 アナウンスちゃんの声が鳴り響く。


 俺と伊巫さんは、一位だった。


 無理もない話だ。背後から突然、イヌとそれに足でフュージョンした男が迫って来たんだからね。そりゃ、ギョッとして立ち止まりもするさ、全員。


 俺だって、絶対にそうだね。立ち止まって振り返るよ。


 異常だもん、こんなの。ハッハッハ☆


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