第三十一話 〜ドッキドキ♡体育祭編〜
その後の四日間も、例の謎戦『前哨戦』は苛烈を極め、ここ公立高校の離れ校舎へと、その戦地の残骸を散りばめつつあったのであった。
「『あったのであった』って重複したみたいっすよね、先輩」
「集中して藤見くん」
「はい……」
俺は集中する。集中して、歩をゆっくりと進め出す。
例によって例のごとく、伊巫さんとの二人三脚競争、その練習、第五回目だ。
月曜日はサバゲーマスター衛府さんのドンパチに巻き込まれた挙げ句、俺の白いYシャツがもう二度と落ちないような真っ赤な鮮血、もといインクに染め上げられてしまったため、そのままその日は帰宅した。
で、翌日火曜から今日金曜に掛けて計四回、伊巫さんとちゃんと落ち合って、練習に漕ぎ着けたのである。
だから、先週の金曜日と合わせて、都合五回。
伊巫さんと俺は仲良く二人三脚のそれはもうハードな特訓を積み重ねた。
「読点少な。読みづら」
「すみませんね。まだちょっと脳みその調子が戻ってなくて」
「ああ。撃たれたんだってね。衛府さんだっけ」
「いや、その敵(?)の方ですけど。彼女めちゃくちゃ強かったです。ちょっと俺ドン引きしてマジリスペクトです」
「どっちよ。というか、今現在離れ校舎は一般人立ち入り禁止区域のハズよ。あそこは日々戦場と化している。まともに近付いたら生命の保証は無いわ」
「はあ〜それ先に言って貰えると凄くありがたかったんですがね。俺プログラム未だに配られてないです」
「もう絶版になってるらしいわね。この学校の体育祭のプログラムは色々とブラックボックス的な超秘匿情報も含まれているらしいから、欠席・早退・遅刻者問わず、配布された当日居なかった生徒には永遠に供給されないらしいわ」
「何なんですかそのブラックボックス的な超秘匿情報って。公の情報記録媒体でしょ? 生徒皆にだって行き渡ってるんでしょ?」
「いいえ、もう処分されたわ。今まだ所有している奴は有罪で地下牢に投函&統監される。もちろん私も既に生徒会に明け渡した。回収よ回収」
「ええ!? 何なんですかその取り組み? そんなに秘匿したい情報なら最初から配らなければいいじゃないですか。やっぱなんかこの学校変ですよ。脱出しましょう伊巫先輩」
「それは無理な相談よ。脱走者は有罪で地下牢に投函&統監される」
「だから地下牢って何なんですか! そんなのこの高校の何処にあるって言うんですか?」
「調査隊は帰還せず。目下追跡中」
「それその追跡隊も捕捉されるパターンですよね。つかさっきからめっちゃ早口ですよね俺たち。どうしたんでしょう?」
「そうね。なんか読点句読点が極端に少ないイメージね。何かの伏線かしら? 結界の気配がするわ」
「結界の気配? それ伊巫さんのですか?」
「じゃないのよ。誰のだろう?」
「えー伊巫さん以外にそんな超常軌外的能力施行出来る奴がいるんですか?」
「さあーちょっとよくわからないわ。でも大したことは無いわよ。害意も敵意も感知しない」
「ははあ。また何かの伏線なんでしょうねよくわからんけど。まあ俺たち走ってるということで。だから風になってるから口調も早い俺と伊巫さん」
「そういうことにしましょう藤見くん」
「いやー伊巫さんも随分上達しましたね二人三脚。初期は立つことすらおっかなびっくりだったのに。いやはや調教のし甲斐がありましたなーハッハッハ」
パシン!
「ぎゃー打たれた! つか鞭の音もめっちゃ早送りじゃないですか。やっぱ世界のスピード的なの上がってませんか? ドラ○もんの驚○機ですか?」
「最近その例えばっかね。怠慢怠慢。まあ物事早く済むのに越したことは無いわよ。拙速巧遅に勝る。ちゃっちゃと終わらせましょう」
「はいそうですね。ほらもうゴールですよ伊巫さん。タイムは16秒ピッタです。平均知らんけど結構良い方なんじゃないすか?」
「そうね100mだからそれが二人三脚だからかなり速いと思うわよくわからないけれど。めっちゃ読みづらい」
「ですね。今日はこの辺にしときましょう。なんかハイスピード謎現象が起きてるらしいので」
「そうね。じゃあ足の縄解いて着替えて鞄持って靴はいて学校出てはいサヨウナラ藤見くん」
「はいサヨウナラ伊巫先輩。チャリ漕いで家帰って手洗ってうがいして風呂入って晩飯食ってトイレして歯ァ磨いてナニしてお休みなさい」
パシン!
「ぎゃー」
■
「えー、本日は、お日柄もよく、えー、今日という日を、えー、待ちに待った、えー、うう……この字ィちっちゃくて読めないねーえ。誰かさん代わってちょうーだい」
「ハーイ! あたしあたし。あたし読みたい!」
「ああー……任せたーよ。えーと……」
「緑市です!」
「メドレーぬさん」
「緑市です!」
「メドレーぬさん……」
「…………はいっ」
「頼んだーよ、メドレーぬさん」
「はい! 承知!」
舞台に上がる緑市さん。
ボケボケ初老学校長・鈴木から、マイクを丁重に強奪する。
「はい! じゃあ鈴木校長先生に代わりまして、わたくし二年A組緑市が、体育祭開会の祝辞を担当させていただきますッ。皆拍手!」
チパチパチパチパ。
観客に、何故か拍手を要求した緑市さん。
それに応じた心優しい生徒数名が、控え目な拍手を送る(もちろん、俺ではない)。
そう、本日は体育祭、当日である。
ちなみに結局、体育祭なのか球技大会なのかは、定かになっていないらしい。
学校正門に飾られた看板には、『体育祭・球技大会・運動会・スポーツフェスティバル・イベント』と書かれている。
めっちゃ適当。ただそれっぽいのを並べただけじゃん。
しかも、かなり重複してない?
『体育祭』も『スポーツフェスティバル』も、同意義語でしょう。まあそれを言ったら、『運動会』って単語もほぼ意味一緒だけどね。
つか『運動会』って。小学生のイベントじゃないんだから。俺たちもう高校生よ?
それに、最後の『イベント』も普通にいらんし。もうツッコミ所があり過ぎて、追いついていけないよ俺。
極めつけには、なんと学校名が銘記されていないのである。怖いね。俺はどこのナニ高校に入学したのでしょうか?
と、緑市さんが開会の挨拶をスムーズに終える。
その後、放送委員らしき女子生徒が、プログラムを円滑に進行させていく。
「えー、うんちゃらかんちゃら、ナンチャラコンチャラ。終了! 閉廷ッ」
『それではプログラム第二番、サバゲー部の戦闘です。出場者及び前哨戦での生存者は、フィールド上にランダムで配属されたマスの位置へと移動してください。
ゲームのルールを説明します。プログラムに書いてあります通り、ターン毎にサイコロを一回お振り下さい。出た目の数分、フィールド上に区切られたマスを、縦・横に一マスずつ動けます。
斜めに動くことは出来ません。また、その一ターンにおけるマスの重複移動は認められません。つまり、往復や行き来といった行為は厳禁です。
ですが、次のターンに前回通ったマス上を進むことは可能です。各自自分のターンが来たら、必ず移動、もしくは〇マス動く=待機の選択をお願いします。
マス上で他のプレーヤーとエンカウントしたら、思う存分にやっちゃってください。生き残った奴が全部正しい世界です。この世は排他と隷属と崩壊によって導かれております。各自自由に乱闘してくださりやがれませ。
それでは、出場権保持者皆様の準備が整い次第、開戦の合図を送らせていただきます』
「あ、すみませ〜ん。出場権保持者兼生存者、私しかいないみたいです。前哨戦で狩りすぎちゃいましたね、てへぺろ☆」
『というわけで、優勝者兼生存者は一年A組衛府ELSAさんでした。おめでとうございます』
チパチパチパチパ。
「え〜やった! 私優勝? ラッキー♪
わたし生還ッ。あなた滅亡ッ。きゃふっ」
『続きましてプログラム第三番、仮装競走です。出場者の皆様は、第二理科室へ集合してください。その間にプログラム第四番から先を、進行しておきます』
「あ、あたしの出番だわ。藤見くんちょっと離脱するわね」
「あ、そっか伊巫先輩、仮装競走出場するんでしたっけ? 俺、並走するんですか?」
「いいえ。仮装競走は藤見くんは伴走しなくていいわ。着替えるのは、私だけだから」
言って、伊巫さんは校舎の中へと入っていった。第二理科室へと向かったのだろう。
うん? 俺は行かなくてもいいのか?
ああそうか、まだ着替えるだけなんだな。だから、俺は付いて行かなくてもいい、と。
じゃあ『競走』、つまり走る際だけ、俺が必要な感じかな。まだ走る時間ではないのか。
つーか、ならなんでプログラム三番にぶっこんだんだよ。普通に準備出来てから、そのタイム挟んでから、またどっかで宣言すりゃあいいじゃないか。
例えば、プログラム六番とかに設定しておいて、それまでの時間(プログラム三〜五番)で出場者が着替えるとかさ。
なんか手際悪くね? まあいいけどさ。
さ〜て、どうなるんでしょうね、『ドッキドキ♡体育祭編』。マジで、俺も結末がどうなるのかわかんねえ。
もう、開幕の時点で、衛府さんが謎に無双していらっしゃるのだけれど。
っていうか、あの人のファーストネームめっちゃカッコいいんですけど。『ELSA』って。
そんな本名だったんだ!
(第三話で出席簿を覗いているが、何気に慌てていて、よくよく見ていなかった)
ちなみに彼女は、例によってミリタリー衛府さんであった。陸上軍みたいな格好。
他の生徒は全員、体育着装備であるにも関わらず、だ。──強い!
ま、体育祭なんて青春イベント、俺にはあんまし関係ないんでしょうけどね。
とりあえず、伊巫さん帰ってくるまで、この応援席で待機していよう。




