第二十八話 ミッション:《ホイップ》
「うん? お前ら何やってんだ?」
「うおっ。藤見ィ!?」
前回と全く同じ導入である。……ごめんね?
体育館倉庫。そこに俺は居た。ドアを開けたところだ。
斎藤と吉井だ。そいつらが、なんか知らないその他二人ほどの男子生徒(上級生かな?)とう○こ座りしてたむろしていた。吉井だけ跳び箱の上でくつろいでる。
その床に、数冊の魅力的なオ〜〜ラを放つ灰色の雑誌を拡げたまま。
「あー藤見くん、さすがだね。さっすが『覗き見の藤見くん』だね」
「だから俺にそんなあだ名ねえっての、吉井! もう本当にやめてくれよぉ……」
「うん? おう、お前一年の王子じゃね?」
と、見知らぬ上級生の一人が言う。
……俺に? ああ、俺にっぽい。
つか、『王子』? 何なんだそのダサいあだ名。まさか俺のことじゃねえよな。
と、また別の一人が俺を手招きする。
「おーうホンマや。王子王子。おいお前もこっちゃ来いよ。カムカム」
関西弁(エセ?)の上級生に来い来いされて、俺は自然と足を歩ませた。なんとなく、反射的に。たどり着く。
その人にハンドジェスチャーで座るように促され、その通り、座る俺。
「藤見ィお前何しに来たんだよ。鍵掛かってたハズだろ、倉庫の鍵。どうやって開けた?」
と、斎藤が俺に向いた。その親指は倉庫のドア、さっきまで俺が突っ立ってたところ、を指す。
「いやどうやっても何も、普通に鍵でだよ。俺なんか、いつの間にか用具係に任命されてたらしいからさ。ほら」
ちゃりん。鍵だ。
俺が先生から渡されたやつ。手に持っている。
用具係──本当に、俺が任命された役職である。今度の体育祭の。
この前のホームルーム。
俺が睡眠中、やる気ナッシングの学級委員に、勝手に出席番号順で割り振られた事件、前回参照。
まさか係さえも適用されるとは思わなかった。つーか、普通に『係の人数』と『学級の人数』は釣り合わない。当たり前だ。
が、それを無理矢理強引に、出席番号一番・相生から始めたクソ適当学級委員・山田。
で、ちょうどピッタで俺・藤見が最後の役職(用具係)だったわけである。
つまり、本田も松沢も吉井も渡辺もセーフゾーン、役職ナシ。
もちろん、山田も。あんにゃろう図ったな?
つーか、皆も反対しろよ。何ちゃっかり合意してんだよ。マジ適当過ぎんだろ。何の意義があんだよホームルーム。
別に山田が特別、権力者な訳では無い。皆も全くやる気ナッシングなのだ。
若いね〜〜。
「はーそういや、そうだったな藤見ィ。俺ゃてっきり、コイツの匂いを嗅ぎ付けて来たんだと思ったぜ。勘繰ったぜ」
「そうそう。ハンターだからね藤見くん。その目利きで、女体をGET♪ エロスをGET♪ ついでに伊巫先輩もGET♪ だね♪」
「なんだよそれ吉井!? 俺がいつそんなムフフ発見機(?)みたいな存在になったんだよ!」
斎藤と吉井が交互に言う。斎藤の方はコイツと指しながら、体育倉庫の床に散らばっている、魅力的なオ〜〜ラを放つ灰色の冊子を示している。
いや、本当に交互に言ってくれるから、地の文で説明しなくてもいいよね? 口調とかでキャラ察してね?
……ありがたい。
「その罪……重いぜ?」
「ついでに伊巫先輩も?」
「だああぁもう! もうもう! 伊巫さんはそんなに重くない! 四十四キロだ!」
「ほう。王子の情報入ったぞ。『二年A組出席番号六番・伊巫杏子の体重=44kg』。よし、記録した」
「いい仕事やね、王子」
「へええ!? いつの間に俺、情報提供者になってる!」
と、拳を付いてくる関西弁上級生。と、灰色の冊子の裏表紙にメモを取る普通上級生。
「つか、呼びづらいので名前教えてくれませんかね?」
「人に名乗るまえに自分から」
「あ、そっすね……うん? 日本語間違ってません?」
「お前藤見だろ。知ってる。有名人」
「え! 俺有名人!? 何でですか?」
「俺、六雲。名前の由来は、今筆者が適当に決めた」
「ワイは蓑路やで。名前の以下略、上に同」
「はあ……」
六雲と自己紹介した二年生、蓑路と以下略三年生。前者は緑色ネクタイ、後者は紺色ネクタイ。
ちなみにこの高校は学年ごとにネクタイの色で分かれており、
一年→赤
二年→緑
三年→紺
となっている(今決めた)。
「まー見つかったなら、しゃーなしやな。おう六雲。コイツも仲間に入れへんか?」
「うーん。会員は少ないほうがいいんだけどな。人の口に戸は立てられず。うっかりバラされでもしたら……」
「あーそれなら大丈夫ですよ六雲先輩。僕こと吉井が太鼓判押します、藤見くんはウソ絶対付けません」
「おーそうか。なら、だいじょばないな。全然だいじょばない」
「まあ藤見ィ誘うのは止めときましょうよ先輩方。こいつにはこんな崇高で高尚なる任務は任せられねえって」
「ちょっとあなたら、当人である俺を差し置いて色々言わないで下さいよ! 全く追いつけません!」
「うん。まあ藤見くんはこっちゾーン来なくていいから。はい、『びいー』」
びいー、と手でラインを引く吉井。隔離される俺。蓑路が、魅力的オ〜〜ラを纏ったその灰色ブックを隠す。
「え、何なんですかその魅力的オ〜〜ラを醸し出す灰色ブックは。なんで隠したんすか? ちょっと俺にも見せてくださいよ」
「まあまあまあ。これは原本というか永久保存版というか、ヒラ会員でもお目にかからせられない特別なヤツだから。王子にはまだ早いかな」
「だから、その『王子』って何なんです? まさか俺の呼び名……?」
「えーだってそうじゃないの藤見くん。こないだ伊巫先輩おんぶしてたじゃん。噂によると、朝学活の前にどっかの廊下で、大胆にもお姫様抱っこまで敢行したらしいじゃないか」
「あ、それ俺見た」
「マジっすか六雲ォパイセン! え、どこどこ」
「いや二年A組の目の前だよちょうど。俺もクラス隣だからさ、すぐダチに『こっち来いよ』って呼ばれて、で、無事野次馬」
「ハッハッハ。やるやんけジブン。そりゃあまさに『王子』だな。王子王子」
「ちょっと会話文多いんで整理させて下さい」
んーと、つまり? Now Loading……↓
たぶん、蓑路先輩が隠した灰色冊子は、例の『学校ガイドブック(裏)』で間違いないだろう。で、話の流れからすると、会員制らしい。
その上層部っぽい、こいつら四人。ヒラ会員ではないそうだ。今隠したのは、その原本みたいなやつ。特別で大切な感じ。
で、それの会員(恐らく上の方)に誘われた俺。が、不採用。ガイドブックは秘匿にされる。
それと、俺が『王子』呼ばわりの理由。
これはめっちゃ単純だろう。つまり、俺が伊巫さんを抱っこしたことだ。
そういや、緑市さんにもそんなふうに呼ばれてたな(二十一話参照)。
何なんだろう。安直過ぎん? もうちょいひねってよ。何かダサいじゃん。
俺、嫌だよ? そのあだ名(あだ名というのは、大抵本人の意思が届かないステージにある)。
──と、いうわけだ。
「つか、そういえば俺、用具係の仕事あるんでした。すみません、ちょっとそこ通っていいですかね?」
「ああ、すまへんね」
「おう、すまんな」
蓑路、六雲が退く。その奥の縄跳びを取り出す俺。丁度いい長さを選ぶ。
うん、これで良いかな。運び、ドアまで歩く。
「ああ。入ってきたってことは、あなたたちもドアの鍵持ってるってことですよね? 最後一回締めといて下さい。しばらく出しておくので」
「えー僕たちそんなの持ってないよ」
「そうそう。全部斎藤がやってくれたんだぜ?」
「え? どうやってだ斎藤?」
「裏ルートってやつよ。へっへっへ」
ほくそ笑む斎藤氏。こいつは、そういえば学校の忍び込み方もマスターしてたな(十四話参照)。
というか、体育館倉庫に裏ルートってなんだよ。マジでどうやって這入ったのか謎だ。
「……まあ、一時間後くらいにまた戻って来るので、それまでには出払ってて下さいよ。鍵締めるんで」
「オッケーオーケー藤見くん」
「まあ任せとけよ王子。いってらっさい」
「はあ……」
吉井と六雲に見送られ、倉庫を後にする俺。ちなみにこの学校に倉庫は二つあって、地下アリーナ(体育館)のと、校庭のがある。
校庭の方は今清掃中らしいから、俺はわざわざ地下の方まで来た。階段を下って。
つか、こいつらもなんでわざわざ、こんなところでたむろしてんだろう。もっといい場所あるだろ。無いのか?
それに、結局何やってたんだろうな?
なんか来たときの雰囲気は作戦会議っぽかったけど。皆輪になって仲良く座ってさ。
ま、いいけど。どうでもいい。
だから、俺が倉庫を去る、その背後から、
「で、どうよ? 『ミッション・ファーストエンジェルホイップ』の進捗状況は?」
「うん。僕のバイト先のコネで、特殊窒素封入手法を手に入れたよ」
「ふ、上出来だ吉井ィ」
「やるなあ吉井はん。ワイの方も『ホイップ』の目処は付いたでえ。色、粘度、透明度。匂い以外は完全再現や」
「さっすが吉井、蓑路。仕事が早い」
「いいえ。これも六雲先輩の的確な指示とその敏腕のお陰ですよ」
「そうやな、そうやな」
「いやいや。俺は大したことないよ。時に斎藤、リストアップは終わったか?」
「いやーまだなんす六雲ォ先輩。ちと厳選に時間が掛かりまして……」
「うん。慎重なのはいいことだ。……俺たちのミッション。その全てが終わったら、祝杯を上げよう!」
「「おう!」」/「うん、そうだね」
──と聞こえたことも、俺には関係ない。




