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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
28/59

第二十七話 新たなステージ(?)

「せ、先輩……何してはるんですか?」


 部室。ドアの前。俺は突っ立っている。

 ちょっと目を疑うような光景が広がっていた。

 伊巫さんが、その手に乗馬鞭(マジカルステッキ)を持っている。それで、野球バットよろしく水平にスイングしていたのである。


 それはもう、華麗な振りで。

 ヒュン、と空を切る音が、たった今部室に入室した、まだドアノブに手を掛けている俺の目の前で通り抜ける。


「素振りよ」


「乗馬鞭で!?」


「球技大会があるのよ」


「へーそうなんだ……って、いきなりですか!?」


「来週の土曜よ」


 なんだか展開に追いついていけない。

 少し落ち着こう。素数は数えなくていい。俺は冷静に、一昨日までのことを思い出す。


 一昨日。ゴールデンウィーク明け。

 伊巫さんにおんぶを申し出て、お姫様抱っこした。でも、朝学活の前だったから(あちゃー忘れてた!)、拒否られた。

 で、結局その日から『おんぶ(or抱っこ)はもうしなくていい』ということになったのだ。


 曰く──「もう自分で歩ける。ていうか、歩きたい」。


 つまり、俺はお払い箱。伊巫さんのタクシー終了。

 昨日一日も心配で授業前とかに覗いてみたが、何とか自力で教室移動も頑張ってるらしかった。

 で、今日。そういえば自分(藤見幾太くん)が部活生(今はまだ同好会生)だという設定も、ちゃっかり忘れていたりする筆者。


 めんごめんご。そーいや部員勧誘するみたいな目標設定もあったな。どうやって消化しよう。

 ほらーこうやって無責任に見切り発車なんてするからだよ。今だって展開に煮詰まり過ぎてこんな駄文綴ってる。全然追いついてない。


「で、一週間振りに部室へと足を運んだ幾太くん(主人公、俺)。

 え、伊巫先輩なにやってんすか? つか、足の調子大丈夫なんですか?」


「うんまあ多分大丈夫。そういう設定にしてる」


「設定ってなんすか!?」


「つまりこういう運命(さだめ)


 何故かカッコいい言い方(意味不明)をした伊巫さんは、ふわりとそのスタイルの良い身体を宙に浮かせる。

 懐かしの伊巫さん浮遊形態(バージョン)だ。三週間と二日振りである。話数でいうと二十六話振りくらいである。


「うわあ浮いてる! すごおい!」


「そう。魔法使いだからね。この設定も、もちろん忘れていたわけじゃないわ」


「えっと……つまり宙に浮かべるから、もう俺の助力おんぶは要らないと」


「醤油こと。まあ、これ結構コントロール必要だから、長時間は出来ないんだけどね……ふう」


 と、またフワリと降りる伊巫さん。スカートを手で押さえつつ。

 着地。いつの間にか手から乗馬鞭が消えている、イリュージョン。


「(チッ。手で押さえやがったか)えーでも、学校でそんな空中散歩みたいなのして良いんですか? めっちゃ目立ちますよそれ」


「当たり前じゃない。あんたそんなこともわかんないの? 下見ろ馬鹿」


「なんでそんな言い方キツイんですか? ん? 下……?(さては『天使(おぱんつ)』覗いて欲しいのか? さ〜て、今日のエンジェルちゃんは何色ちゃんかな〜?)」


 ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!


「ぎゃあああああああああああ!!」


 鞭で打たれた、こっちは二日振り。

 先ほどのスイングが活かされた感じである。少しゴルフ打ちっぽかったが。


「痛えですよ伊巫さんコピペ乙!」


「違うわ。足」


「舐める?」


「見ろ」


「……」


 すげえ気迫。見る。伊巫さんの足は、当たり前だが靴を履いていた。学校指定の革靴。黒光りする青春のえろいやつだ。


 と、その靴がなんと宙に浮いている!

 ほんの僅か、地面から三ミリほど!

 びっくり!


「びっくり! ドラ○もんの裏設定みたいっすね!」


「そう。これもかなり集中力いるんだけど。まあでも、魔力出量調節の基礎練習にもなるから、一石二鳥ね。ぶいぶい」


 ぶいぶいと指でダブルピースを作る伊巫さん。……あなたそういうキャラでしたっけ?

 そういや、まだ吉井に『学校ガイドブック(裏)』を貸してもらってないな。伊巫さんの学校でのキャラ設定が書かれているという、あの例の雑誌。


 うーん、今日はもう放課後だから、明日にでも借りるか。ああでもそれだと休日の前になっちゃうな。

 まあ、また来週にするか(そして忘れる)。


「で、球技大会の件なんだけど」


「あーそこに戻るんですね? って、球技大会? そんな行事ありましたっけ」


「ありましたのよ。次の次の土曜日、つまり九日後よ」


「へえー。そういや、うちのクラスでも種目割り振りやってましたね、今日のホームルームで。俺はなんか適当なの適当に選ばされましたけど……あれ? 『球技大会』? 『体育祭』じゃありませんでしたっけ」


「ありますかも、ありませんかもしれないわ。違いがよくわからないのよ。筆者が」


「まーたソレですか。どんだけまともに高校行ってないんですか筆者。そこら辺はあやふやにするつもりですか? つか、どんな種目があるんです?」


 ホームルーム──帰りの会は、完全に寝ていた俺である。クラスの学級委員が、やる気なさげに、黒板に種目の文字を書き並べていたところまでは憶えている。

 気がついたら会は終わっていた。皆下校していたのだ。

 黒板には種目名の字。その下に、出席番号順で生徒の名前が宛てがわれていた。


 つまり、プログラム種目順=出席番号順。そう割り振られたわけである。

 うわあ、わかりやすい!

 ……いや、適当すぎん? こんなもんなの?


「へえ。藤見くんは何の種目だったの?」


「そう、だからそれが忘れちゃったんですよ。まあ出席番号順だから、本番になってからでもわかるんでしょうけどね。つか、マジでどんな種目があるか知らんですしおすし」


「まあ、まだプロットがさだま○しってことね。ちなみに種目は色々あるみたいよ。徒競走、リレー、玉入れ、走り幅跳び、20mシャトルラン、長座体前屈、反復横跳び、腹筋、ゲートボール、ボッチャ、フラダンス、ヨガ、太極拳、ホビーホース、カバディ、キンボール、ネットボール、スカッシュ、ソサイチ、ペタンク、オーストラリアンフットボール」


「なんか体力測定とかフィットネスみたいなのも混じってません? あと終盤の方マニアック過ぎてもはや呪文です。つか、腹筋とかどうやって皆盛り上がるんですか?」


「ほら、ウチの高校って、ここいらでも屈指の部活奨励校だからね伏線回収。色々あるのよ。まあ、当日になってからのお楽しみってことね」


「はあ。楽しそうな体育祭っすね。俺にはほぼほぼ関係ないけど」


「あら若いわね。いつだって自分が部外者だと思ったら、大間違いよ。あんたも出るの」


「え!? 俺も出るの?」


「そ」


「なんで!?」


 今回もまた、全く脈絡がなかった。もう本当に、この人はこういう人だよアハハハハ。

 ……というか純粋に疑問だった。なんで?

 なぜ俺が種目に出る必要がある? そしてそれは、何の種目だ?


「私が出る種目全部」


「ぜぇえええええええええ!? 『全部』!? なな、何の? 何の種目に出るんですか先輩。『全部』!?」


「うっさ。あたし声でかい人嫌いなのよね」


「す、すみません(ひどいよぉ……)」


「私が出る競技。100m走、綱引き、大縄跳び、二人三脚、借り物競争、仮装競走、パン食い競走、その他展開上必要とあれば随時追加」


「めっちゃある&めっちゃある!」


 ええ……そんなにあんの? おかしくない?

 それと、さっき質問と答える順番が逆になってしまった。会話文で。ごめんね。

 というか、伊巫さんなんでそんなに色々、運命の十字架を背負ってるんだろう。ナチュラルに怖い。

 クラスの人に頼まれたの? そこまで?

 伊巫さん、怪我人なのに? ……


 ──と、ここで気がつく。俺は伊巫さんの脚を見た。

 足ではない、脚だ。ふくらはぎ、脛、膝、太腿。

 そこはもう──()()ではなかった。

 今までの伊巫さんでは、なかった。


「あ、伊巫さんニーハイ履いてるんですね。なんか黒くてカッコいいですよ」


「ニーハイじゃなくて、正確にはサイハイよ。もっと長いやつ。ほら、このスカートならほぼ隠れる」


「はあ。よくわかりません」


 ……しかし、パワーアップした感はある。ほほう、これがかの有名な、絶対領域というやつですな?

 その『スカート』と説明した時の、チラリと指で捲った動作も、またなんとも言えない素晴らしさがあった。

 感慨深い。感無量。Excellent!


「まあ、なんとなく()()()()()()からね。一応、ね……」


「……あ」


 伊巫さんは目を伏せた。ふい、と空中を移動して漂う、その滑らかな視線。綺麗なまつ毛だ。


 そう。()──()()


 マキビシダイブ。その残り香。

 伊巫さんは魔法使い。でも、やっぱり治せない傷はあるのか。

 そして伊巫さんは、女の子でも、ある。


 脚。消えない傷。

 その心中(しんちゅう)や如何に。きっと、俺なんかじゃ推し量れないほどの感情が、渦巻いているハズだ。……


「伊巫さん」


 ──だから、俺は言う。

 意味が無いかもしれない。伝わらないかもしれない。

 けど、それで彼女の心を、少しでも和らげられるなら。

 少しでも、俺の思いやりが、言葉が、彼女に届くのなら。──


「カッコいいですよ。そのニーハイ」


「だからサイハイね」

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