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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
27/59

第二十六話 そんなことはない

 ゴールデンウィークだった。

 計四日間の、スペシャルな休み。


 しかし、俺はこれといってすることもなかった。ただ毎日洗濯物を干して、ゴミ捨てして、掃除機掛けて、買い物して、風呂掃除してただけである。

 マジで何も無い。無だ。無である。


 いつも通りの家のタスクをこなして、学校から出されたしょぼいプリント課題を終えたあとの俺は、特にすることもなく。

 吉井にも声を掛けたが、あいつはバイトで忙しいらしかった。


 うーん、バイトか。俺はやったことないな。まあ、高校生になってまだ一ヶ月だから、あんまし考えてなかったけど。まあ、普通に恵まれてる環境なんだ。ありがたい。

 それと、週末にばあちゃん家で掃除しに行ってるので、月五千円頂いてるしな。

 そもそも俺、物欲ほとんどないし、娯楽費は一切掛かってないと言っても過言ではない。

 ケチなんだ、俺。割とね。


「……」


 ──ハッ。いつの間にか寝ていた。


 ああ、だめだ。人間、やることないとすぐ堕落してしまう。そうそう、勉強とか……それはなんか嫌だな。

 つーか、趣味とかも全然ない。ゲームも画面酔いするからほぼしない。テレビゲームをたまに、少々。

 友達も少ない。誘う相手も、もういない。斎藤の連絡先は知らん。衛府さん? 言わずもがなだ。


 伊巫さん──彼女の連絡先も知らない。住所も。


 ……長いな。

 あれ? 一日ってこんなに長いもんだっけ?

 なんか、時間の流れが遅く感じる。伊巫さん。……あ? なんで今あの人の名前を?


「伊巫さん……」


 ポツリ、呟いた。独り言だ。

 なんでこんな言葉を言ったのか、自分でもわからなかった。ただ、その名前を呼んだだけで、身体中の血が巡るのを体感する。


 彼女──先輩。あの人。あいつ。

 結局あの日、彼女を見つけることはなかった。たぶん、そのまま帰ったんだろう。……どうやって? 足を痛めているのに?


 まあ、あの人は曲がりなりにも『魔法使い』なんだ。いざとなったら何でもできそうな人だ。大丈夫だろう。

 それに、やっぱり『あれ』は。

 ──あの、何回も俺に迫ってきた異常な様子は、やはり()()()の所為なんだろう。

 と、俺は手に持った小瓶を眺める。例の紫色の液体が入った小瓶。


 媚薬(伊巫さん曰く)だ。


 その内容量は、彼女に使った分だけ減って、今は半分ほどの中身となっている。

 その半分の一口を、飲んでみた。が、普通に着色してある水みたいな感じで、特に俺には作用しなかった。


「……女性限定かな?」


 俺は疑う。

 でも、伊巫さんのあの痴態(もはやそう言ってもいい)は、間違いなく本物だった。本物の効果だった。

 だから嘘……では、ないんだろうたぶん。


 いつか検証してみたいな。俺の仮説が正しいとすると、他の女の子にも効くはずだ。

 が、誰にする? そこは慎重に吟味しなければならない事項だ。

 ……思い当たる件数、(ゼロ)


 はあ。ま、いつかわかるかな。とりあえず取っとこう。


「せんぱい」


 俺は再び呟く。今度は名前ではない、代名詞だ。

 が、鮮明に思い出される。もちろん──伊巫先輩の姿。

 ……なんなんだろう、さっきから。

 これじゃ俺がまるで、伊巫さんのこと。……


「ハッハッハ。そりゃーない」


 ハッハッハ。俺は笑い飛ばす。

 いや、あの人に恋愛感情とかそういうのは、絶対にない。断言できる。


 あの人は……そう、手が掛かる。

 何考えてんのかわかんないし、常に乗馬鞭装備だし、下手したらそれが俺に振るわれるし、めちゃ痛いし、魔法使いとかわけわからんし。


 命令するし、割と投げやりだし、ぱんつ見えるし、いきなり脱がされるし、いきなり脱ぐし、また鞭打つし。


 すぐにどっかいなくなるし、とか思ってたら捕まってるし、おっパイは柔らかいし、なんか気絶するし、カクーンってなるし、痛いこと(物理的にも精神的にも)ばっかするし。


 図々しいし、ご飯いっぱい食べんのギャップ萌えだし、いきなりビンタするし、脈絡ないし、襲ってくるし、可愛いし、心配だし、意地が固いし、子供っぽいし、いつも唐突だし。


 見下すし、乗っかってくるし、太腿も柔らかいし、意味わからん、頭おかしいし、綺麗だし、髪がちょっと外ハネで茶髪で可愛いし、目つきがキリッとしててクールだし、鼻筋が通っていて、スタイル良くて、おっパイはちょうどいい大きさで、いい匂いして、腕が華奢で、でも程よく柔らかい、指細くって、俺より全然手が小さくて、鎖骨が流れるようで、肩が滑らか、腿に張りがあって、肌が綺麗で、お腹もびっくりするくらい綺麗、くびれてて、めっちゃえろい、腰が片手で掴めそう、身長がイメージより低くて、でも気迫というか生命の輝きみたいなのがあって、身体軽い、ちょうどいい重さ、おんぶするとすげえフィットする。


「……うん?」


 あれ?


 ……いやいや、違う。あの人は本当に駄目な人だ。わがままで、キツいし、強引だし、ムカつく、一緒にいるとストレスが溜まる。

 俺のことをこき使うし、あまり感謝しないし、伊巫さんおんぶしてると背中あったかいし。


 おや?


 ……いっつも無表情だし、ホント何考えてんの? マジ意味不明だし、な、泣いちゃったし、なんか本当申し訳ないし。……


 え?


 ……でもいつも通り接してくれたし、俺の背中で寝ちゃうし、可愛いし、ぎゅってしてきたし、すげえやーらかい。


 ぬぬ?


 ……可愛いし、美人だし、何考えてんのか知りたいし、抜けてるとこあるし、可愛いし、おっパイ柔らかいし、可愛いし。


「……うん」


 良かった。

 やっぱなんとも思ってないや俺。

 うんうん大丈夫☆

 ハッピー!



 ■



 ゴールデンウィークが終わった。

 俺は今、二年A組付近の廊下に来ている。


 結局なんにもしなかった俺は、その長い休みを寝るか散歩するか家事するか寝ただけで、その他有意義なことは何もしなかった。

 ちょっと日本語おかしいね、重複したね。


 だからなんとなく学校を待ちわびてたふうなのに(学校嫌いな俺が?)、いざ登校となると、なんだか行きたくないような気もしてきた。

 ふと、玄関で靴ひもを締めていた時に、伊巫さんのことを思い出したのだ。

 静止する。指が、止まる。


 ああ。どんな顔して会えばいいのかな?

 あの日──媚薬の一件で、なんとなく顔が合わせづらい。

 なんかもう二度と会いたくないようで、それでいて、もう一度、毎日会いたいような気もした。なんなんだろう。


 で、十分くらい迷った挙げ句、やべえ遅刻するってなって、しょうがなくチャリを飛ばした。

 まあ、いつもかなり早めに出てるから、遅刻するっつーのはほぼ無いけどな、確率的に。


 正直、学校に来たくなかった。こんなに憂鬱な朝は初めてかもしれない。いつも週初めはゲンナリだけど、今日のはなんか種類が違う。

 手が震えるような緊張だ。どうしたんだろう。本当に、なんなんだろう。


 今もすごく緊張している。なんで?

 喉が渇く。頭が痛い。指が痺れるようだ。

 が、来ざるを得なかった。ここ──二年A組へ。


 伊巫先輩。『全治一週間ちょい』(自己診断?)だと言っていた。休日で四日経ったものの、あれから──マキビシダイブから、ちょうど一週間だ。

 まだ、『ちょい』の部分が残っている。


 それに、結構な痛がり方だったし、やはり傷は浅くはないんだろう。心配……なのかな、俺は。

 ちょっと違う気がする。なんか放っとけない。まだ彼女は痛いんだと思う。どんな具合か知りたかった。

 だから、ここへ来た。──


「……」


 来た、は良いものの、まだ一歩も踏み出していない。階段を下って、廊下の見渡せるところに壁に隠れている。A組は西階段のすぐ近くだから、わざわざ東階段から行った。


 ……何故だろう? そんなに俺は見つかりたくないのかな?

 せっかくきたのに? 挨拶すらせずに?

 じゃあ、なんの為に。


「あっ」


 と。

 ──伊巫さんだ。


 伊巫さんが、見えた。

 教室から出てくる。歩いてくる。

 ……その手で、廊下の壁際を支えつつ、えっちらおっちらと伝いながら。


「……ああ」


 伊巫さん。何やってんですか伊巫さん。

 やっぱまだ完全に治ってないんじゃないですか。

 つーかめっちゃ歩くの遅いっすよ。何なんですか。効率悪すぎませんか。──



「伊巫先輩」



 ──など、思うまでもなく。


 俺は何も考えず、彼女の前に立っていた。

 自然と言葉が、出る。


「先輩。おんぶしてください」


「……は?」


 俺を見上げる彼女。訝しんでいる。

 そりゃあそうだ。挨拶も無しにいきなり現れた瞬間、だもんな。

 だが、そんな反応の映像も、すぐ頭の中で消えた。俺は彼女を担ぐ。


「え、ちょっと」


 相変わらず伊巫さんの反応は薄い。まあ、こういう人だ。割と感情を表に出さない人らしい。特に、人の前だとなおさらだ。


 クラスの人々(二年生)が、俺の方をチラチラと見る。伊巫さんをお姫様抱っこした、廊下の壁際に突っ立ってる俺をだ。

 が、そんなのはどうでもいい。まずは、彼女をこの前通り運び出すのが先決だった。


 俺は伊巫さんに尋ねる。腕の中の伊巫さん。

 温かい、絶妙な重さの、怪我人で、心配で、すっぽりと収まって、可愛い。


 そんな、伊巫さん(魔法使い)に。


「伊巫さん。次の授業どこですか?」


「……いやホームルームだし」

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