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第十八話 解答

「ハッ」


 気がついた。

 なんか前回もこんな始まり方だった気がする。

 あれだ、物語の開始が『目覚めたら……』みたいな文句でしか書けないヘボ作家みたいなもんだ。

 場面転換がヘッタクソ。

 と、男が尋ねた。


「いつまで触っている」


「ほえ?」


 むぎゅっと♪

 俺の手は伊巫さんのおっパイに触れていた。


「……………………おおお」


 さすがに一回やったから耐性ができていた。

 指をにぎにぎする。うん、やはりおっパイだ。紛れもなく。健康的だ。


「あいつ最低ですね」


「クズだな」


「いや違うんですよこれは生存確認というか本人確認というか危険が危なかったらどうするの? というかやっぱり万全を期すのは安全第一でしょう!?」


「お兄、あの人なに言ってるかわかりますか?」


「ふむ。わからん」


「お兄にもわからないなんて……相当手練れですね。『奴ら』ですか?」


「いいや。それもわからん」


「ちょおっとぉ! 俺の意見も聞いてくださいよ。つーか元はと言えばあんたが投げたんでしょう、伊巫さんを。倒置法! こんな腰に詳らかに言えば下腹部もっと詳らかにすればおおっとこっからは課金制だ、を、賑やかにわっふるわっふるしちゃうような卑劣な魔法をかけやがって、さてはお前も魔法使いだな!?」


「ほう。正解だ。少しは出来るようだな」


「お兄が褒めるなんて……! さてはあなたよほどの手練れですね? ──『奴ら』ですか!?」


「いいや。たぶん違う」


「ぐふううううううう!」


 遅れたように猛烈な衝動感が俺のファーストエンジェルホイップ(?)に響いた。貫通する。

 何が? ──ナニが。


 その波動を今まさに放っている悪の元凶犯を見遣る。そいつは俺の腕の中でスヤスヤと寝息を立てている。


「ひ、卑怯だ……こんなアグレッシブな技をピンポイントに行使するなんて。チラッ。ああ、伊巫さんのピンポイントが、ピンポイントが……ぐおッ」


 伊巫さんのおっパイのピンポイントが俺の指先に触れていた。

 ふに、と柔らかい感触が、え? あれ? 徐々に……


「がああああああああああああ!」


「あの人五月蝿いですね。消します?」


「いや。もう少し見ていこう」


「ああ……あ」


 俺はもう満身創痍だ。半死状態。膝ががくがくと震え、ソーマトロープみたいな残像となっている。

 そんな俺を舞台の上の兄妹は、しかし冷静な観察者となって立っている。

 あ、座った。妹の方がくつろいでやがる。あくびかいてる。

 クソッ、俺はこんなにも苦しんでるのに……!


「ううう……ぐふ。強敵だ。強敵過ぎる……! こんな、こんな、ビーチクウィナー……」


「ビーチクウィナー?」


「ふむ。ビーチクルーザー。ビーチ・クルーザー。ビーチク・LOSER。といったところか。それをさらに昇華させ。讃美歌のような韻を踏み放ち。新たなる言の葉の次元へと繰り出したわけだ。……ふ。面白い」


「そうなのお兄? なんかスゴイ!」


「そんな高尚なもんじゃないです適当に言ってみただけです恥ずかしいんでもう止めてください……」


 なんか兄の方が中二病っぽかった。そして妹がそれをむやみに崇拝してるらしい。なんともわかりやすい構図だ。


「ぐ……つーか、やっぱあんたたち魔法使いなんですね? だろうと思いましたよハハハハハ。なんで伊巫さんを膝枕してたんです? なぜ伊巫さんはあなたの許可が無いと目覚めないんです?」


 疑問に感じていたことだった。まず、伊巫さんの服装。パジャマだ。これはおかしい。就寝前の装いである。つまり、眠ったまま運ばれたのか? だとしたら攫ったとしか思えない。

 いや、なんか弱みでも握らされて連行されたとか? ここまで行かざるを得なかった。それほど、相手は強力な──


「いや。共に連行したのではない。家で寝てるところを攫った。弱みは握っている」


「え!?」


 なんと俺の考えていたことがわかったらしい。

 ああ、やっぱり魔法使いなんだ。それも伊巫さんと同じく読心術が使える系の……


「否。正確を期するならば。俺は魔法使いではない。忍びだ。そしてそいつの監視役だ」


 そいつ、というところで俺の腕を指差した。伊巫さんだ。

 忍び? 監視役? どういうことだ。


「ふむ。惑っているな。いいだろう。──レイン」


 と、見遣ることもなく傍らの少女に呼びかけた。

 いつからか鼻提灯浮かべてグースカ寝ていた少女はハッとして起き上がり、よだれをゴシゴシ、促されたように俺を見、言う。


「そうです。我々は忍びです。そしてあなたが現在持っているその魔女を裁きに来ました」


「さ、裁く? 魔女?」


「はい」


 レインは淡々と告げる。冷酷な瞳で、まるでそれが当たり前の業務みたいに。


「この世界には魔女と呼ばれる人種がいます。彼女らは史実の中で大きくその能力を発揮しながらもその存在を隠し続けていました。しかし悪質な行為とはいずれバレるもの。彼女らは大きな罪を働きました。その均衡を保つべく新たに誕生したのが我々忍び。時に裁きを。時に安寧を。逸脱したこの世の論理から。理不尽にも繰り返される歴史的行為から。それらをセーブし彼女らに堅牢な轡を嵌めるのが我々の役目です」


「と。言うことだ」


 男がまとめた。

 と、少女の身体がふいーと脱力し、読点がないような喋り方が終わった。


「あーもうお兄! こいつら、ちゃっちゃと始末していいんじゃないですか? もうわたし眠、ふわああ……」


「うむ。お前はよくやった。寝ろ」


「おやすグー」


 早い! 少女はすぐ眠りに落ちた。舞台の上でむにゃむにゃと気持ちよさそうに寝る。

 というか、いつの間にか頭の血が止まっている。タオルもなくなっている。

 俺の意識が吹っ飛んでいた間か? 拭かれて綺麗になっている。傷が治ったのか? それにしても早いな。


「レインは眠った。これで一対一だ。何が知りたい。冥途の土産として開示できる範囲内で答えよう」


「え……いきなりなんですか。ていうかさっきのその子の説明でもいまいちピンと来ませんでしたよ。つか『冥途の土産』!? 俺死ぬの、今から!?」


「場合によってはな」


「…………」


 どうしよう。展開について行けない。

 なんなんだこの男は? この二人は。

 伊巫さんをどうしようって言うんだ──裁き?


「えっと……じゃあ質問。伊巫さんは何故ここへ連れてこられたんですか? 今までの話の流れだと……何か、罪を犯したんですか? この人が?」


「解答。肯。そいつは罪を犯した。だからここへ連れてきた」


 男は言う。ああ、名前は理布(りふ)だっけ。

 とても平坦な声だ。機械音のように体育館の離れたこちらまで響く。

 俺は歩き出した。さすがに距離があって敵わん。もう少し相手との隙間を窺う意味でもだ。


「罪? 何なんですそれは。伊巫さんが? なんの罪……」


「解答。この世界を変革した罪」


 一歩一歩慎重に歩む。腕の伊巫さんをしっかりと支えつつ。彼女の身体は依然何の力も込められてない。起きる気配もしない。


「ちょっとよくわかりませんね。世界を変革? そもそもあなた達の能力は一体何なんですか?」


「解答。我々は時の使役者。その個体は空間の。同」


「時。……空間」


 一歩。向こうから五メートルくらいの位置までたどり着いた。このくらいでいいだろう。俺は足を止める。


「要は不思議パワーが使えるってことですね? で? 伊巫さんは何をやらかしたんですか。空間、変革? まさか最初会ったときに宙にふわふわ浮いてたのがマズかったとでも言うんですか?」


「解答。──否」


 パチン。


 と。

 理布は指を鳴らした。マジシャンの手付きだ。


「ん……」


 ──俺が抱える伊巫さんが、起きた。

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