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第十七話 独りよがりなport scan

「おい。お前何をボーっとしている」


「ハッ」


 長い夢から覚めた気分だ。

 天から『やっぱカーテンじゃなくて鍵かけられるドアが欲しいよね』という声が聴こえた。

 何だったんだろう?

 まあいい。俺は現実(逃避)に生きる。

 今を、生きる。


「お前は誰だ。何故俺の妹を背負っている」


「……いや、あなたこそ誰なんですか! 伊巫さん、大丈夫ですか!?」


「この女は寝ている。俺が許可を出すまで目覚めることはない。……この女の関係者か」


 謎の男は淡々と言う。三十メートル先の舞台に座り、その膝の上に眠る伊巫さんを乗っけながら。

 傍から見れば仲の良いカップルのようなシーンだろう。だが、雰囲気というか、男の表情から伊巫さんに対する感情みたいなのは微塵も感じられなかった。

 それに、男の目つき。飢えた獣のような虚ろな目。

 俺はすぐに野性的な本能で伊巫さんが何か重大な事件に巻き込まれていることを察知した。


「ただの部活仲間です。藤見幾太と申します。それより、あなたは誰なんですか」


 部活仲間、という単語のところで、男の口の端がピクリと動いた。口角がわずかに上がる。が、依然冷たい眼は残ったままだ。


「ほう。自ら名乗るとは殊勝だな。いいだろう……理布(りふ)だ。妹を返せ。その怪我の分はこの女にきっちりと精算してやる」


「怪我……?」


 リフ、と簡素に名乗った男は俺の背後の少女、伊巫さんを順にチラリと見遣る。

 と、にわかに伊巫さんをお姫様抱っこし、舞台の上にすっくと起き上がった。

 結構な身長である。それに顔も整っている。つまりイケメンだ。低く渋い声が体育館に反響するように。

 俺は慌てて反論する。


「いや違いますよ! この頭の傷は……そう、急に矢が飛んできたんです。弓矢! 俺が付けたとかそういうのじゃ……」


「ふむ。またやったか。レイン」


 ビクッと、いきなり背中の少女が痙攣した。

 俺は振り返る。

 少女は緩やかに顔を上げ、垂れていたよだれをゴシゴシと拭いた。寝起きの様相だ。


「──お兄!」


 その少女がバッと降りようとするのを、しかし俺は反射的に止めた。レイン、と呼ばれたその子の脚を持つ、腕の力を強めて、である。


「あなた何するんですか!? 離してくださいよこの変態さん! ロリコン!」


「な!? 俺は変態でもロリコンでもねえ! いや急に落ちたら危ないだろう? ってちょっとバランスバランス!」


 少女は俺の背中で猿みたいにもがく。それを支える上体がグラグラと揺れ、危うくぶっ倒れそうになる。

 が、不思議なことに、そのギリギリのラインでフイッと少女が反対側に傾き、なんとか絶妙のバランスを保っているのであった。

 なんかすげえ。やじろべえみたいだ。

 つーか自分でロリって自覚してるのか。


「お兄、ごめんなさい……チカラ使っちゃいました。まさかこんなに早くお兄のほうが捕まえてたなんて。ほんとに、本当に……」


「いや。いい。お前は十分に働いた。後で褒美をやる。それにその男も連れてきたみたいだからな」


 男──理布(りふ)は、読点がないみたいな話し方をした。

 褒美、と聞いたところで背中の少女の顔つきがみるみる明るくなった。が、すぐに冷静な表情になる。

 でも指に力が入ってるらしく、俺の肩に彼女の爪が刺さって痛い。

 地味に痛い。


「……じゃけえ、何なんすかあんたたち! なんかさっきから意味深なやり取りばっかして、俺を放置せんといてくださいよ。それに、雰囲気が尋常じゃないのでとりあえず伊巫さんを返却してくだせい!」


 捲し立てる。なんか変な口調になっちゃった。

 結構混乱してるからか、自分でも言いたいことがうまくまとまらない。


「ふむ──先程はお前から名乗ったな。では今度はこちらから」


 男が言う。

 突然、バッと伊巫さんを投げた!


「!? 伊巫さんッ!」


 男にお姫様抱っこされていた彼女は舞台の上、かなり高い位置から投げ棄てられる。

 まるで、ただの道具かゴミみたいに。

 そのまま重い荷物となって宙を物理法則に従いつつ、三十メートルの距離を飛行し落下する。

 つまり、結構な投力だ。人間離れしているとしか思えない。

 俺は咄嗟に背負っていた少女を離し、そちらのキャッチに移行する。必死だ。


「ぎゃぷ」


 少女──レイン? が、落ちた。俺に手放されて、多少受け身を取りつつ、しかしお尻のほうから無惨に。

 が、落下した音はそれだけだ。


「な!?」


 伊巫さんは落下しない。

 いや、確実にこちらに落ちてくる。

 否、『落ちる』というより『降りる』と言ったほうが適切な状況だった。

 彼女はゆっくりと、長い時間を掛けて舞台から空中を舞い降りてくる。

 まるでラ○ュタの冒頭シーンみたいに。


「親方……空から……」


 こんなときでも俺は割と冷静だったらしい。俺の網膜に、風景が細部にわたって観察される。

 腕を伸ばす。その上から伊巫さん。

 その彼女は、緩やかに髪先が空気抵抗に揺れ、目を瞑ったまま、なぜそんな格好をしていたのかわからないが、パジャマを着ていた。

 そしてそのパジャマもゆったりとした実に緩慢な翻りで俺の指先までたどり着き、だから俺はきっと、レインを丁寧に降ろして『よしよし俺の背中は最高の寝心地だったろ? 次回席予約取っとくかい? ハッハッハー』なんて呑気に駄弁ってても、余裕でキャッチ出来ていただろう。


「お……とと」


 位置を微調整する。彼女の背中がふわり、とても遅くゆっくりと俺の腕に収まる。すっぽりだ。もちろん、お姫様抱っこで。


「ぐわッ」


 ……そしてこれも当然の展開だった。

 伊巫さんの身体は急激に重力を思い出したように、その質量を取り戻した。

 今更物理法則もへったくれもないのに。


「お兄!」


 ピョーンと跳躍し、今度は伊巫さんが飛んできた(投げられてきた)軌道の逆向きを辿るようにして、少女レインが舞台に上がる。

 これもまた人間離れした跳躍だ。三十メートル向こうへ一瞬にして、である。

 少女の身体はサーカスの団員みたいにくるくると数度回転しつつ、体育館の天井スレスレを通って舞台に華麗に着地した。

 俺は呻く。


「ちょ、これ重心間違えた。い、一回ポジション整えさせて、腰やったかも……」


「ふん。いいだろう」


 意外と理布は話がわかる男だった。

 アレだ、変身シークエンスを暗黙の了解で待機してくれる怪人みたいな紳士(ジェントルマン)さだ。


「ありがとうございます……」


 体勢を整える。とはいっても、なんか一回降ろすのも忍びないから、ちょっと後ろに反って膝で起こして軽く持ち直しただけだ。

 気絶している(寝ている?)から、全身脱力している。首もちゃんと支えてやらんとな。

 気を失っている人間は通常より持つのが重く感じるとかいうやつだろうか。さっきのレインちゃんとはまた違った感触がある。まあ伊巫さんのほうが確実に身長はあるか。あの子はロリだったし。(以下描写)


 女体だ。柔らかい。パジャマ姿の伊巫さんはお風呂上がりみたいないい匂いがした。それもそうか? 今は昼間になってしまったが、レインちゃんの指パッチン転換までは夜だったのだから。その時間軸が続行されていると仮定するならば、七時半頃、つまり伊巫さんはお風呂に入っていたとしてもなんら矛盾はない。こころなしか、髪の毛がしっとりと水気を帯びている気がする。それに肌もツヤツヤでどことなく艶めかしい。その頬が蒸気していて赤らみ、えも言われぬ色気を纏っている。人事不省となった力の籠もってない眉根から童話のような儚さと抗いがたい男の情慾を誘う雰囲気が醸し出されていた。また唇はあえかに半開きでそこから微熱じみた水蒸気が吐息となりつつ常に産出されておりそのフェロモンが蠟燭の火さえも消せない様な柔らかな風の糸でさざめき、くゆるとこちらの鼻腔を誘うように甘えるようにくすぐり出す。それだけでも腰が抜けてしまいそうなのにああ勘弁してくれ女一人分の重力と温度が今度は身体中の平衡器官及び接触認知伝達神経を無慈悲に無邪気に通り越して直接脳髄に打撃を喰らわす様な凄まじい衝撃を覚える。と同時に脳裏をよぎる獣畜生の思考欲望その罪も何もかも赦されてしまう程に沈み込む我が肉体指手のひらへと混ざり合う体温熱均衡もはやその太腿を這う感覚が自分のか相手のかもわからないその間違った定義認識新たなる第六感が血潮となって女の血管と強く接続しながらまるでこの人が刺されたら俺も一緒くたに死んでしまうようにそれはまさしく一つの生命操られても構わない彼女の血流が電流が振動がそのまままるごと自分のそれとなる変換させる暇もなく身長百五十九センチ体重四十五キロのその肉体は今俺と融合して新たな種族へと昇格されるああそれにしても愛おしい狂おしい壊したい無力にその肢体上体下腹部全てをこちらへ委ねてしまう無防備愚かしくも滞る劣悪加害者の心理滾る無秩序豊満でしなやかな肉の地球滴る滑らかな追憶零れるただの人間であるとプリミティブな液体雪のように燃えれば墜ち征く為す術も無く宙ぶらりんの意識埃は既に睫毛を掠めているのにもうラブ・ソングは歌えない加速し踊り続ける猫の顎のように美しくこの発車ベルが鳴り終われば天国へのトビラ近付くやっとさよなら現世は縁ポケットの上からチケット握りしめた尻のぬくもり感じながら乱れたダイアルに思いを馳せたどうせさよなら縋れるだけ縋れる街に中和するように乱れたSOSの番いニーズの違い不意に繰り出したレフュジーここは夢のファースト・アイランドやさしさだけが詰まったプレゼント誰かが持ち寄った赤いリボンが安寧の日々を穢すのならあなた雪を降らせてベッドが見えなくなるくらいに、


「やだあの人おっパイ触ってますよ」


「ふむ。触ってるな」


「ほえ?」


 むぎゅっと♪

 俺の手は伊巫さんのおっパイに触れていた。


「おぱあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!!?」



 ■



『さよーならー』


『せんせーさよーならー』


『ハイハイ、皆さんさようなら』


『うー』


『……あら、どうしたの幾太くん? みんなもうバイバイしちゃったわよ。幾太くんも、もう帰る時間でしょう?』


『やだあー。ぼくまだ伊巫せんせいといるんだあー。ずっとずっといっしょにあそぶんだあー』


『あらあらだめよ。ホラ、涙を拭いて。魂はいつだって円○の理でその存在をルフってるの』


『うー……わかったあ』


『うん。幾太くんは賢い子ね』


『ぐすっ。……伊巫せんせー、さよーならー!』


『はいはい、さようなら』


『さよーならー! さよーならー!』


『さようなら。……また、来世』


途中から筆者が昔イキって書いた自作歌詞兼ポエム的なのが混ざってますが無視してください。

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