第十六話 おんぶにだっこ
俺は廊下を歩いた。その背に少女をおんぶしたまま。後ろ手には彼女の十手も一応持っている。
「はあ……これが衛府さんとかなら、役得なんだけどな」
俺は呟く。そう、俺はロリコンではないのだ。
むしろ年上のおねいさん的な、ボンキュッボン的な(古いか?)女性が好みなのである。
だから、こんな年下の中学生みたいな姫カット少女より、さっきまで部室で束縛されてた(そして一瞬にして消失した)衛府さんみたいな子のほうがおんぶのし甲斐ってもんがある。
それにこの少女、やたらと怖い。
武器(十手)を構えながら脅迫する姿は、もはや理不尽と言ってもいいほど完璧なまでに強弱だった。
身長はちっさいが、ライオンみたい。
あと、ちゃんと敬語なのに言ってること&やってることが非常識極まりない。
なんだよ、緊縛って!
なんだよ、指パッチンって!?
「まあ、結構カッコ良かったが……」
パチン! で瞬間、変わる世界。
めっちゃクールに決まってました。
まじでどういう原理なのかわからんが……
ああ、そうだ、と俺はふと思い当たる。
「伊巫さんに似てるな」
いや、見た目とかそういんじゃ全くない。
ただ、出現の仕方というか、なんとなく一番最初に出会ったときの伊巫さんもあんな感じだった。
神出鬼没というか。突然の出会いというか。
まさに予測不能というか。
つーか、あんなマジック的なチカラ使えんの、やっぱ伊巫さんの関係者じゃね?
ああそうか、妹なんだっけ。あんまし似てないけど。
あれ? でもさっきこの子『おにい』とか言ってたな。
あれか? 伊巫さん、お兄さん(もしくは歳が近めの弟)もいるのか?
三兄弟か?
「人がいないな……?」
と、ふと気がつく。
階段を降り、中庭に出た。体育館は本校舎の地下にあるから、こっから正門玄関に入ってまた降る感じだ。
が、生徒がさっぱりいなかった。人っ子一人、である。
おかしい。今は昼間なのに。
いや、さっきまで夜だったはずなんだが、そこは明るくなって完全に昼間に移行したと断言していいだろう。
例によって例のごとく、この奇妙な少女の奇妙な魔法ってやつでな。
もうこの子魔法使い確定だろ。なんとなくわかったもん。
じゃなきゃこんなことできないもん。
あの態度の変さとか不思議パワー行使とか、完全に伊巫さんと同系統の人間だ。
それにしても、人間がいない。
本校舎に入る。普通ならここでせめて教師でもいるはずだ。
昼間になったということは、時間が送られて明日になったということだろう?
で、昨日(海に行った、幼女にあった、衛府さん緊縛)の明日は今日だ。
で、今日は水曜日だ(ちなみに昨日はかなり遅めのオリエンテーションで半ドンだった)。
だから平日なのに、生徒及び教師が全然いないというのはほぼあり得ない。
え? 今日学校休みじゃないよな。
じゃあ、やっぱり。……
「やっぱり、この子の所為かな?」
チラッと背中をうかがう。一応応急処置的に頭部をタオルでグルグル巻きにさせてもらったダン子が、まだ意識を失って凭れかかっている。
やっぱり、なにかしらの魔法的な力が発動しているのか。
人がいないのはその所為なのか。
「ええ? どうなんだよ〜〜う?」
と、ダン子を軽く揺さぶる。赤ん坊をあやすみたいに。
まあ頭怪我している人を揺らすのはあんま良くないんだろうけど。
でも俺も結構理不尽な目に遭ってるし、こんくらいはいいだろ。
つか、今回はすぐに魔法だって気づくことができたぜ!
冷静にな。
俺も成長してるってことか、うんうん。
……まあ、変な風に順応してるって言い方もできるけど。
と、階段に着いた。地下へ下がる。
まあまあ急な階段だから慎重に歩を進める。長いんだよな、この階段。地味に。
「ん? 地下通路ってこんな構造してたっけ?」
アリーナへ続く通路を歩く。
入学してまだ一ヶ月も経ってないし、体育の授業もまだ三、四回しかやってない。
それに全部校庭だったから、それこそ昨日のオリエンテーションとか入学説明会とかで入ったっきりだ。
だが、こんなに道が長かった覚えはない。
昨日の今日の記憶だ。間違いはないはずだが。……
「う……」
「おっ?」
俺の背中で、ダン子が身じろいだ。
起きるか? 下ろそうか?
「……お兄……」
「…………?」
しかし、まだ気が付かなかった。寝言だったようだ。
俺の足音が人影のない寂しい通路に、カツーン、カツーン、と響く。
……この子のお兄さんか。どんな人だろうな。
伊巫さんのお兄さんでもあるんだったな。ああ、弟の可能性もあったのか。
しかしこの少女と伊巫さんがあんまし似てないから、やっぱお兄さんも似てないのかな?
もしくは、どっちかが父or母似で、二対一の子どもな感じかな。
「なんなら、他にも沢山兄弟がいるとか!?」
「誰だ」
「うおっ!?」
人の声がした。男の声だ。
結構渋いな。それが突然、アリーナの方から聞こえてきた。
通路は暗い。が、体育館は舞台だけ電気が付いているのか、少し明るい光が差した。
歩く。体育館に入る。と。
「……誰だお前」
これは俺の声ではない。男の声だ。
三十メートルくらい離れた先、端の舞台に腰掛けた男が、その遠くから俺を見つめていた。
若い男だ。なんなら、俺と同じくらいの高校生か大学生くらいだろう。
だが、そんなことはどうでもよかった。
それよりも重大なことがあった。
俺はその光景に目を奪われる。
「──伊巫さんッ!!」
……伊巫さんが、男の膝で意識を失っていた。




