第十三話 幼女メール
「そういえばモモちゃん……伊巫って人、知ってる?」
幼女(疑)に何を聞いてるんだって話でもあるが、しかし俺は問わずにはいられなかった。
なんだか、この子からは伊巫さんの波動を感じる。
フィーリングっとプリ○ュアってやつだ。
……何言ってるかわかんないね。
もしかしたら、あの部室にいた段ボール少女と同じく伊巫さんの血縁なのかもしれない。
ひょっとして第二の妹さんかな?
というのはまあ、性急すぎる結論にしても。
でも、なんとなくそんな気がした。
まあ、例によってあんまし似てはいないのだが。
どっちかがお父さん似で、どっちかがお母さん似とか?
だとしても、計三人(伊巫さん、段ボール少女、幼女)だから数が合わない。
ちなみに少女と幼女も全く似ていない。
……色んな事情があるご家庭なのかな?
「イフ? 知らないよお兄ちゃん」
と、幼女は小首を傾げる。
kawaii!
それに、呼び方がお兄ちゃんに戻ってるのもグッドポイント。
やっぱ幼女には『さん』じゃなくて『ちゃん』が良いよね、呼ばれるには。
「はあ……違ったか」
わりと的中したんじゃないかとも思ったんだが。
当たったらこの子をめちゃくちゃに手懐けて、伊巫さんに一つ自慢してやろう的な企てもしてたんだが。
まあ、俺があの先輩の裏をかくことなんて十年経ってもできなさそうだな。
「あ、そういえばお兄ちゃん」
と、幼女が切り出す。
「メルアド交換しよ。そろそろ帰ろうかと思って」
「え?」
ふと気がつくと、わりと辺りは暗くなっていた。
やだもうこんな時間!
結構、語り過ぎたみたいだ。
つか、幼女こんな時間に外いていいのか?
危ないだろ。
「メルアド交換?」
「そ。お兄ちゃんの教えてよ。色々話足りないことあるし」
そりゃ、俺としても願ってもないことだけど。
いいのか? そんな簡単に。
しかも、仮にも幼女が男子高校生の連絡先訊くって……
まあ、それに応じる俺も俺だけど(なんかこの子ならしっかりしてるかな? とか思った、けどやっぱ駄目ですかね……)。
色々と後ろめたい気分になりつつ、連絡先を交換した。
つか、今どきメルアドって。
普通にラ○ンとかじゃだめなの?
「オッケーありがと」
「つか、四歳で携帯持ってんだ……」
なんか隠してるみたいで、機種は見えなかったが。
「うん。ママは『絶対ダメー』って言ったんだけど、パパが『どうしてもー』って言うから」
「はあ……?」
幼女はパパとママのモノマネをする。
パパが土下座して、ママが仁王立ちでふんぞり返る演技(一人芝居)だ。
家ではそんな感じなのか。かかあ天下ってやつかな?
つーか、土下座までして自分の娘(四歳)に携帯を持たせたがる父親って、どうなんだ?
『〜〜♪』
その時、幼女の手元から音楽が鳴り響いた。電話が来た音だ。
「おお。それスイートのOPじゃん」
「ちょっとだまっててお兄ちゃん」
「…………」
牽制された。
まあ、当然か。だけど、ちょっとお兄ちゃんさみしい。
『ピッ』
「はいもしもし」
携帯を取る音。丁重な挨拶。
幼女は後ろを向き、俺に背を向ける。
耳に携帯を当て、それごと両手で覆うように持ち、傾聴する。
「はい……あ、ママ。うん。今帰ろうと思ってたとこ」
どうやらお母さんからっぽい。
まあ、何気に暗くなってきたからな。
帰れコールだろ。ママさんも大変だな。
こんなに元気なお子さんがいて……
四十キロだっけ? 歩いたの。
まあ、嘘なんだろうけども。
「え。いいよ別に来なくて。大丈夫、自分で帰るし。……いや、いいっていいって」
なんか揉めてる。お母さん迎えに来んの?
まあ、そうしたほうがいい気がする。
こんなちっちゃい子ほっぽっとくの、やっぱ危ないし。
「いやだからいいって! ……え? もう来てる……?」
と、幼女が振り向く。俺の方を見る。
いや、違う。俺の背の向こう側を凝視してる。
俺も振り向く。
女の人がいた。携帯を耳に当てている。
歳は三十くらいか。……若い、遠目にも美しいスタイルの女性だ。
そしてなにより、妊婦さんだ。
水色のゆったりとしたワンピースに、ぽっこりと大きなお腹が膨らんでいる。
結構な大きさだ。もう臨月くらいなんじゃないか?
が、顔は大きめの麦わら帽子でちょっと見えない。
「ママ!」
と、にわかに幼女の表情がきらめく。
さっきまでの大人びた雰囲気は消え、本物の四歳児のような、可愛らしい、あどけない笑顔。
「わー!」
幼女が女性の元へ駆け寄る。
その五十メートル走のような光景を、俺の網膜が捉える。
遠く先に、幼女はたどり着いた。
と、その妊婦さんの下腹部にその勢いのまま、モロ直撃する。
腹を庇い、呻くような動作をする女性。
気づき、離れ、オロオロする幼女。
女性は幼女の頭をコツンと軽くチョップする。
頭を押さえる幼女。
が、急に何かを思い出したようにポケットに手を突っ込み、取り出したモノを女性に渡す。
たぶん、先ほどの貝殻だろう。
女性はそれを受け取り眺めると、チョップした手をヨシヨシに変えて、幼女を撫でる。
再び──今度は優しく、母親の胴へダイブする幼女。
と、女性が俺の方を向く。
麦わら帽子の下に、絹のような黒髪ロングが一本にまとめられていて、右の肩からサイドでふわりと流れている。
女性は少し面を俯いたまま、俺にペコリとお辞儀した。手で、後ろから帽子を押さえながら。
丁寧な物腰の人だ。妙齢の経産婦の神々しさというか、生命の美しさみたいなのがあって、とても柔らかな印象を覚える。
やがて、二人──幼女と妊婦さんは砂浜を上がり、上の道路へ行く。
その路肩に停めてある車に乗り、車はどこかへ去った。
「……やっぱ、四十キロって本当なのかな」
まあ、送迎で車を常用するご家庭なのかもしれないけど。
と、俺も近くの駐輪場に停めといたママチャリを思い出す。
「やべ。もうすぐ二時間だ」
そっから一分でも過ぎると料金取られちゃうからな。
もうこのたそがれの砂浜たんと海ちゃんともお別れだ。ばいにー☆
「……でも、こっからどうすっべ……」
そう。
俺は現在、絶賛ホームレス中である。
途方に暮れる。日も暮れる。
夜の海がすっごく綺麗。
あ〜〜彼女欲しいな〜〜。
『めーるだお♪ 早く開かないと、ブッ○ろすお♪』
と、萌え萌え機械音声が流れる。
俺の携帯だ。メールが来たのか。
開く。と、あの幼女からのメールだった。
見る。不思議な文面が書かれていた。
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ままかふしつにかえれてもも




