第十話 消えた我が家
下校する、帰り道の途中、俺は妙な違和感に取り憑かれていた。
あれ? こんな道あったっけ?
あれ? こんな建物あったっけ?
ちなみに俺は自転車通学である。大体家まで十五分〜二十分くらいといった感じだ。
ママチャリを漕ぎ漕ぎ飛ばしていくうちに、周囲の風景に強烈な違和感を覚える。
違和感、というか、異国感、みたいな。
左右を風とともに過ぎ去る風景が、どことなくいつものソレと変わった印象を受ける。まるで、違う国に来たみたいに。
まあ、日本であることには間違いないのだけど。看板とかも、普通に日本語だしね。
ただ、なんとなくすげー変だ。なんか、見たこともない乗り物が道路を走っている。
ナンヤアレ? 何の乗り物だ?
しかも、ご丁寧にナンバープレートがくっ付いている。
あれ本物か? まあ、公道走ってるしな。
しかも、わりとチラホラ見かける。合法なんだろう、うん。
いつの間にか、あんな乗り物が出来たんだな。時代は進歩してんなあ。ハッハッハ。
「……アレ?」
と、俺はここで信じられない光景を目撃した。はたから見れば変質者だろう。
「い……家がない……」
俺はわなわなと震えた。
武者震いではない。ガチモンの恐怖だ。
「なんで? なんで? ここに、俺の家がこんなに可愛いわけがない……」
気が狂ったのではない。
なぜなら本当に、その風景は異様だったからだ。まず、家がないというのは嘘だ。少し混乱していた。
俺は自転車を路肩に停めて、頬をパンパンッと叩いた。整理しよう。素数は数えなくていい。
・まず、建造物はある。
・だが、それは俺の家ではない。
・なぜかは知らんが、眼前にある建築物は、俺の見たこともない、全く新しい家である。
……改築したかな? 俺が学校に行っている間に。
そんな馬鹿な。と、とりあえず入ってみよう。
おケツに入らずんば何とやらだ(必死)
「あ? あれ?」
が、残念なことに、鍵が入らなかった。
というかなんかオートロック? 顔認証? みたいな感じで、そもそもドアも全然違うし(家が違う時点で気づけよって話だが)、鍵の穴すらも見当たらない。
「にーちゃん」
「は、はい!」
後ろから声をかけられた。振り向く。
ランドセルを背負った男子小学生がいた。
「俺んちに、何か用あんの? とっつぁんの客人か?」
「い、いえ……」
俺んち? 今この子、自分の家と言った?
なんとなく俺の本能が、ここからすぐ離れたほうがいいと告げていた。
「いやー、ごめんなさい。お兄ちゃん、家間違えちゃったみたいだよ、ハッハッハ」
「あっそ」
……なんか冷たいな。
最近の若者はちょっとした会話も柔らかーくできないものかね。
もうちょい穏便にというかさ。
……なんか、お兄ちゃん寂しいよう。
「いや、ホントすみませんでした、では……」
と、俺は足早に家を去った。自分のではない、その家を。
路肩に停めていた相棒を拾う。
さて、どうしたもんか。
だって絶対にここは俺の家があるはずだし、そもそも毎日通っている道を間違えるなんて訳が無い。
チャリを歩いて引っ張りながら、とりあえずそこら辺の道路をウロチョロする。
そう、ここに公園があるのは間違いないな。なんか見たことない遊具がある気がするけど。
あれ? あの秘密基地みたいな遊具、いつの間にか撤去されたの?
子供の頃けっこう遊んだのにな。つーか、最近ここ来てなかったからな。
変わるのも当たり前か。
それにしても、あのマンションもう出来たの? わりと最近着工したんじゃなかったっけ?
早ない? 『匠ィィ!』ってやつ?
「ははあ……」
どうやら、俺は参ってしまった。
なんか、完全に異世界転移みたいな気分である。
まあ、現代社会ではあるんだけど。見覚え無い風景が多すぎる。
この街はそんなにゴテゴテしていなかったのに、装飾物(みたいな建物)が増えた気がする。オマケによくわかんない乗り物が走ってるし。
謎だ。
不思議だ。
「……つーか、家に帰れない?」
と、俺はここに来てようやく事態の把握に着手した。
その重大性に気がつく。
「それってけっこうヤバない? 詰んでね?」
──こうして俺は、ホームレスになった。
■
ご愛読ありがとうございました。
筆者の次回作にご期待ください。
■
……人生は続くよ何処までも。
そして俺は海に来ていた。
なんで? ──答えは明白だ。
「たそがれるには、やっぱ海だよな!」
自転車で、一時間半弱。
むっちゃ頑張って漕いだ。
けっこう坂とかあった。
「つ、疲れた……」
俺は、砂浜にバターンッと倒れた。
自転車は近くの二時間無料の駐輪場に停めている。もう着いた時点で足が限界で、すぐさまバタンQなのは情けないところだ。
が、今は休ませてくれ。
おお、神よ! このいたいけなる勇者にひと時の休息を与えたまえ!
グー。かー
ンゴゴゴゴッ。すぴー。
「ぱぱ」
パパパパパ。
じゃねえ。どんないびきだ。
……ん? ぱぱ?
「パパ」
今度ははっきりと聞こえた。起き上がる。
見たこともない幼女がいた。
「……パパ」
「……ええ?」
その幼女は、俺のことをパパと呼んで、砂浜に寝っ転がる俺の真ん前に突っ立っていた。
──その小さな手に、木のアイスの棒を携えながら。
「パパ」
「……パ○スじゃなくて?」
■
「パパ」
「(うわあこの子このコーナーに入っちゃったよ……)」




