第一話 出会い
ラブコメにしよーかな。
でも出来なさそうだな……。
伊巫先輩は魔法使いである。
何を言ってるかって? 俺もよくわからん。
ただ高校入学して一週間くらい経ったある日の夕方、「部活どこ入ろっかなー」とぶらぶら校舎を探索していくと離れ校舎の二階にたどり着き、『部員募集』と書かれた貼り紙が貼ってあった部室の扉を開けると、そこに空中に浮遊しながら天空のうんちゃら如く空から降ってきた体勢でシエスタしていたのが彼女だった。
説明長いね。すまん。
どうやら彼女はここ歴史研究同好会の会長らしい。学年は俺の一個上、二年生。
その日が全ての始まりだった。──
■
「──あ。入会希望? そこに入会届があるわ、持ってって」
その宙に浮遊しながら休息をとっている奇妙な女性は俺を見るなり、眠たげにそう言った。
「──いやいやいや! な、なんか浮かんでるし! え、え、ドーユウコト……?」
自分の目を疑った。
正気か?
だが、紛うことなき事実である。現実である。
つーか、しっかりナレーションできてる自分自身に称賛!
「ああ、これ……」
その女子生徒はふわふわとあくびしつつ目を擦ると、
「あたし、魔法使いなの」
へえーびっくり!
「すごいね! きみは魔法使いなんだぁ!」
──って、んなわけあるか!
バシーン、と持っていたカバンを地面に引っ叩く。見事な独りツッコミであった。
カバンが床に落下したのを見、この部屋に重力が働いていることを確認しつつ、あーやっぱりこの女だけがオカシイんだ……と心の中で呟く。
俺けっこう冷静。
「そう。魔法使いなの。よろしくね」
彼女は淡々と言う。
「二年A組、伊巫杏子。伊豆諸島の伊、かんなぎ、あんず、こども、で伊巫杏子。いふ、ってちょっと珍しい名字よね。自分で言うのもなんだけど。でもけっこう気に入ってるのよ。あなたは?」
彼女──伊巫さんは促す。
お、俺に?
まあ、それ以外いないか。……
「えと……藤見です。藤見幾太。藤の花、見る、幾つもの、太郎の太」
「ふーん。よろしく」
ふわり、と反重力スイッチを切ったみたいに降りてくる。どうなってんだ、それ。
「──あ!」
その時──降りてきた彼女のスカートがチラリとめくれた!
白だ!
勝訴!
やったーーーーーーーー!!!!!
「(うっひょひょーい!)」
俺は叫喚しつつ、跳ね上がって小踊りした。
もちろん、どちらも心の中で。
「いま、『うっひょひょーい』って言った……?」
……え? 心の中でですけど。
あれ、俺口に出してたかな? 出してないと思うけど。……
彼女──伊巫さんはそのスカートの中からするりと『何か』を取り出した。
その黒い、長い棒のように見える『何か』の全身がすっかり現されたとき、
「──なッ!?」
俺は絶句した。
鞭だ!
それも、乗馬鞭だ!
何故彼女がそのようなものを佩帯しているのか、さっぱりわからない。
学校にそんなもの持ってきていーのか?
つーかそもそも、そんな長いモノどうやって入ってたんだ?
さっき『純白の天使』が見えたときは、そんなものの存在わかんなかったぞ?
つか、乗馬鞭ってどんなセンスだよ!
……頭の中でツッコミが追いつかなすぎる。今さら感あるが。
「い、言ってません言ってません! うっひょひょーいなんて言っとりませんですが! な何を証拠にににドンドコドン!」
俺がもし本当に言ってないのだとしたら、このコは心でも読めるのかな?
ドラ○もんでいうところの、さとりヘ○メットみたいなものかな?
……つか本当に声にだしてないけども。
「……あたしドラ○もんで言ったらさとりヘ○メットかぶってるって感じ?」
伊巫さんは無表情で目だけが冷たく笑っていた。
その手に握る、打たれたらめちゃくちゃ痛いどころか軽く失神しそうなほどの乗馬鞭をヒュン、と振るう。
「なんでなんで!? 俺完全に無罪でしょうが! 裁判行きましょうか? 勝てますよ! つか読心術!? 想像力の翼は罪なくどこまでも自由に羽ばたけるの! 自分でも何言ってんかわかんねえ!」
「有・罪!」
ヒュパァアアアアンンンンンンンン!!!
■
「──ハッ」
俺は廊下に寝ていた。
「……あれ? 俺なんでこんなとこ……」
そうだ。ホームルームが終わって、放課後どこの部活はに入ろうか巡っていたんだった。
うーん、それにしても背中が痛い気がする……なんかあったっけ?
「ここは……」
離れ校舎の二階だ。いつの間にこんなところに来たんだろう?
きょろきょろと辺りを見回すと、右に『部員募集』と書かれた扉があった。
「何部だろう?」
俺は扉を開けた。
■
「──あ」
女がふわふわ浮かんでいた。
「……あああああああ!!」
──全て思い出した!
「い、伊巫さん! なんで俺をぶったんですか! ひどいじゃないですか! 親父にもぶたれたことないのに!」
「あれ、変ねぇ。覚えてるの? ちゃんとツボに入ったはずなのに。それに『結界』も、二回も発動しないなんて……」
伊巫さんはうわ言のように、よく意味がわからないことをぶつぶつ呟きながら、空中で俺を見て首を傾げる。
「……変ねー、じゃ長門ですよ! なんなんですか、アナタ!」
「──だから」
彼女はふわりと降り──今度はちゃんとスカートを手で押さえて──言う。
その手に、まるでマジカルステッキみたいに乗馬鞭を構えながら。
「魔法使いよ」
キラーン☆
「……うわぁ、かっこいい! ──なわけねえでしょ!」
俺は部屋の空気を全部取り込むみたいに、息をいっぱいに吸って叫んだ。
「この世界のどこに、乗馬鞭振りかざす魔法使いがいるんだあああああああああ!」
■
「だからここに」
「マジメにツッコまんでいい!」