後編
「水夏っ!」
大鬼の攻撃を避けた直希の裏にいた水夏に向かい直希は叫ぶ。
「な、何、直希君?」
そして大鬼の棍棒が狼狽している水夏へと振り下ろされた。
禁忌邂逅 後編
しかし振り下ろされた棍棒による本来飛び出るであっただろう赤い鮮血は飛び散らなかった。
「ウグ・・・ドウイウ・・コトダ・・・」
大鬼の振りかぶった棍棒は水夏の頭上で止まっていた。いや、何かによって止められていた。そう、見えない何かによって。
「水夏・・・大丈夫か。」
「うん、どうにか。
あと少し待ってて。」
そう言って彼女は何かつぶやいた。
「よし、解。」
彼女がそういった刹那、大鬼の巨体が爆発とともに後ろへと吹き飛ばされた。
それを見た直希はひとつの単語を思い出した。
――“炎陣魔術”――主に炎を操る魔術で、直希は幼いころまだ生きていた母親から聞いたことのあることだ。
彼女は魔術を操ることのできる血筋の娘で、直希も魔術を操る素質はあったらしく、滅多に使わないが魔術を多少操ることができる。――
「水夏・・・それって魔術か?」
「そうだよ、魔術。
ちなみにさっき怪物の動きを止めたのも私の魔術だよ。」
彼女はニコリと微笑み、怪物、大鬼へと向き直る。
「で、直希。あの怪物って一体何なの?」
「怪物・・・ああ、大鬼のことか。
あいつは、妖魔。簡単に言えば妖怪みたいなものだ、っと。」
「ひえっ!?」
水夏に大鬼がまたもや棍棒を振りかざした。
しかし今度は直希が気づき彼女を引き寄せる。そのとき彼女の顔が紅潮していたが直希は大鬼を見据えていたせいで気づかなかった。
「ググ・・ヨクモ・・・・・」
大鬼はどうやら先ほどのことを腹に据えかねているらしく全力で攻撃をしてきた。
しかし力だけで考え無しの攻撃は直希の敵ではない。
「式神 玄武、召喚。」
直希は式神を召喚する。
すると、大鬼の背後にひとつの影が現れた。
「ググ・・・ナニヲ・・・シタ・・・」
「なに、何の変哲もない式神だよ。」
「シキガ・・・ミ・・・」
「そうだな。
・・・滅。」
刹那、大鬼の体が影に包まれた。
そして大鬼の叫び声が深夜の暗闇へと響いた。
しかし、
「グガ・・・グ・・・ヨクモ・・・」
その影が消えた後に傷を少ししか負っていない大鬼が悠然と立っていた。
「ど、どういうことだ?」
「グ、アマイ!」
そう大鬼は叫ぶと直希へと跳躍をした。
その体躯には似合わない機敏な動き、それを見た直希は呆気にとられ反応が遅れてしまった。
「直希っ!」
しかし、その大鬼の攻撃は水夏が使用した先ほどと同じ魔術によって防がれた。
その隙に直希は体勢を立て直し、次の術の準備をする。
「ナンドデモ・・・オナジダ!」
大鬼は直希に再び向かっていく。
しかし直希はその場を離れずにひとつの呪文をずっと唱えている。
「シネッ!」
大鬼が棍棒を振りかざしたとき
「解術!」
直希の口がそう発した。
すると大鬼の足元にひとつの魔方陣が浮かび上がった。
「ウグ・・・」
その魔法陣に入っている大鬼は急に動きを止め、いや、動くことができなくなり、直希をその獰猛な目で睨んだ。
「さて、大鬼。
ここで斃されてもらおうか。」
そう直希は言い切って手を暗闇に掲げる。
するとその手に一振りの刀が具現化され握られた。
「ググ・・・カタナ・・・ナニヲ・・・」
直希の手に握られているのは深夜の暗闇の中でも紅に輝く刀。
その刀の切っ先を直希は未だ動けずに魔法陣の中でもがいている大鬼の頭へと向ける。
「直希、それは・・・何?」
水夏が信じられないというような表情をしながら直希に訊く。
「この魔方陣は母さんから教わった魔術で、この刀は・・・水夏でも秘密だ。」
この刀は誰にでも言えない秘密がある。
いや、相手が知らないほうがいいかもしれない秘密かもしれない。
「それじゃ、大鬼。最後に言うことはあるか?」
「ググ・・・キサマ・・・」
「それじゃ、お前はおしまいだ。」
そう言い放つと直希はその構えた刀を大鬼へと突き刺す。
「グ、グガァァァァァ!!」
大鬼はその突き刺された部位からだんだんと霧になって消え、最後の一粒がなくなったときには刀にひとつの玉が突き刺さっているだけだった。
直希はその玉を刀から抜き地面へと躊躇なく叩きつけ、割ってしまった。すると玉の破片は本体と同じように霧となって消えていった。
「よし、水夏。終わったからちょっと来てくれ。」
「ん、どうして?」
そう言いながらも彼女はてくてくと彼の元へ歩み寄る。
「つかまってろよ。
・・・結界解除。」
彼はそう言いながらも彼女の手をとって先ほどから張っていた人除けの結界を解いた。
結界というものは別の世界、そういうもので下手をするとそのままそこに残されてしまうかもしれない。だから彼は彼女の手をとったのだが・・・
「・・・・・。」
「どうした水夏、風邪か?」
彼女は顔を紅潮させていた。彼はその意味が分からなかったようだが。
「ううん、なんでもない。早く帰ろっ!」
そういって彼女は未だに握っている彼の手を引っ張っていく。
水夏には聞きたいことが沢山あるんだが、まあ後でいいか、と彼は思った。
また続編を突発的に上げるかも知れません。




