前編
深夜の暗闇の中、一人の少年が走っていた。
そして彼の視線の先、そこに居たのは一匹の“鬼”そして彼は懐から一枚の札を取り出した。
そして彼が何かをつぶやいた途端、閃光が走り鬼の体が瞬いた。そして・・・
「・・・滅。」
鬼は霧となって消えた。
禁忌輪廻 前編
とある日の朝、××県の藍川市にあるひとつの神社――藍川神社――で少年、神谷直希は起きた。
やっぱり冬の朝はとても寒い、そう思いながら急いで着替え、朝食を一通り作り終え、神社の境内へと出る。
「あ、琴音さん、おはようございます。」
「直希さん、おはようございます。
昨日の夜、どうでしたか?」
「鬼が一匹いただけだ。そんなに問題でもないだろ。」
「そうですか。」
藍川神社は昔から退魔の仕事を請け負っていてこの神社の近辺、藍川市、青山市の辺りに出現する妖魔の退治を生業としている。
しかし殆どの人は退魔のこと、妖魔のこと自体を知らない。なのでこの神社は表向き、月読命を祀っている普通の一神社として、裏では退魔の仕事をしている。
「他に何か変わったことはありましたか?」
彼女は真摯な顔で直希に訊く。
彼女、天城琴音も退魔の仕事に関わっており、主にその仕事の統計をしている。
「他に変わったことはなかったよ。
朝ごはん作っておいたから適当なところで区切りをつけてな。」
「わかりました。」
「あと、俺は水夏を起こしてくるから。」
そう言い彼は神社の石段を下っていく。この神社はやや小高い丘の上に作られていて石段が数十段ある。
しかしそのやや長い石段を降りるとすぐに直希の幼馴染である結城水夏の家がある。彼女は両親と暮らしているが両親が二人とも朝早くから仕事に出てしまうため、朝弱い彼女を毎朝、直希が起こしに行っている。
彼女の家のドアは勿論、開いていない。しかし彼はポケットから彼女に貰った合鍵を出してドアを開ける。
そして、どうせまだ寝ているんだろう、と思いながら彼女の部屋をノックする。
・・・やはり返事はない。彼はこの作業をもう数年繰り返しているのでなんの躊躇いもなく部屋へと入っていく。
「おーい、水夏〜。」
彼は可愛らしい寝顔を披露している幼馴染の名前を呼ぶが返事がない。
「お〜い。」
今度は体をゆすぶってみる。
すると・・・
「ん・・・直希?」
「おはよう。」
彼は覚醒した彼女の顔を覗き込むようにして彼女を見る。
すると、彼女の顔がゆっくりと紅潮していく。しかし彼はそれに気づかずに顔を元の位置に戻してしまう。
「はやく着替えて玄関に来てね。」
「うん、分かった。」
そういう彼女の返答を聞くと彼は彼女が着替えをするのを見るわけにはいかなないので部屋から出て玄関へと行く。
「直希、準備できたよ〜。」
しばらく待つと学校へ行く準備ができた水夏が玄関へ小走りでやってきた。
「それじゃ、行くか。」
そういって朝食を食べるために直希の家へと歩き出した。
直希達は私立藍川高校に通う高校生だ。
なのでよっぽどのことがない平日は学校へと向かう。そして、そのまま一日を過ごし学校が終わり次第、帰宅する。
「直希、今日は友達と一ノ宮の方に遊びに行くからね〜。」
水夏はそう言い、友人の元へと向かう。
直希は別に水夏以外に友達がいないわけでもないので友人と帰宅した。
「直希さん。少しいいですか?」
「ん、何?」
神社に入ると琴音が真剣な様子で彼を呼んだ。
「藍川市の北のほう、一ノ宮で巨大な妖力が感じられました。
今夜から見回りをしたいのですが。お願いできますか?」
「ん、ああ。分かった。
場所は一ノ宮でよかったな。」
「そうです。
では、よろしくお願いします。」
妖魔、しかも巨大な妖力を持ったものか・・・どうするか、そう彼は思った。
少なくとも昨夜の鬼のようには行かないだろう。
「“大鬼”か。」
彼、神谷直希は人よけの結界の中で対峙した巨大な化け物を見上げそうつぶやいた。
――大鬼、それは妖魔の世界でもかなり上位の妖魔に属する妖魔である。
体躯は巨大。身長はゆうに5mを超え、常人なら見ただけで失神してしまうほどの圧倒的な威圧がある。
「グググ・・・ニンゲン・・・コロス・・・」
しかしこの大鬼は違った。
その体躯は普通のものを遥かに凌駕し、その威圧も遥かに強い。
そして最も特徴的なのはその手に持った巨大な棍棒。
その棍棒が直希に向かい振り下ろされた。
「甘いっ!」
だが直希は難なくそれをかわす。
しかし・・・
「ひゃ、ひゃぁっ!」
そこに居ないはずの第三者。
一人の少女、結城水夏が現れた。
そして、直希に向かい振り下ろされた棍棒が水夏へと狙いが変わって振り下ろされていた。
知ってる人は、こんにちは、知らない人は、はじめまして。.pngです。
今回は現代伝奇物を書いてみました。
前後編の中編の予定です。




