第九十七話 大迷宮 上層攻略
冬雅達が大迷宮の地下一階を進んでいくと、彼らより若い冒険者パーティや、戦いに慣れてない冒険者パーティが、ホーンラビットなどと戦っていた。
「ここは人がいっぱいいるね」
「地下一階はEランクモンスターしか出現しないから、初心者達がここでレベル上げをしてるんだろう」
「私達はここでは得るものが少なそうね」
「うん。上層にある宝箱は、あまりいいものは入ってないみたいだから、早く先に進んだほうがいい」
「やっぱりそうよね。それにこれだけ人が多いと、空っぽの宝箱しかないんじゃない?」
「確かに。じゃあ、さっさと進もう」
冬雅はマップウィンドウを見ながら地下一階を最短ルートで進み、地下二階への階段に到着する。その後も彼らはEランクのモンスターを瞬殺して死骸を回収しながら進んでいき、攻略開始から二時間半くらいで地下五階のセーフエリアまで到着した。
「ここが大迷宮のセーフエリアか」
大迷宮の地下五階のセーフエリアには転移の石碑はなく、広い部屋の中央に女神像が設置してあって、複数の低ランクの冒険者パーティーが休憩していた。
「ここには転移の石碑はないのね」
「はぁ、ここまで宝箱の中身が一個もなかった」
「まあ、上層は人が多いからね」
冬雅達はここまでくる途中、宝箱を三つ発見したが、どれも空の宝箱だったので凛子が残念がっている。
「この世界のダンジョンの宝箱は、時間が立つと中身が復活するんだよね。どれくらいで復活するの?」
「ダンジョンによって、その時間は変わるらしい。この大迷宮でも、階層によって宝箱の復活時間が変わるみたいだよ」
「中層とか下層まで行けば冒険者も少なくなるから、それだけ宝箱も見つけられるでしょ」
「じゃあ、少し休憩したら、また最短ルートでさっさと進もう」
冬雅達は軽食を食べながら休憩し、その後、さらに大迷宮の上層を進んでいく。地下五階からは灰色の体毛のシルバーウルフや、武器や盾を装備した動く骸骨のスケルトンソルジャーなどのDランクモンスターが出現したが、当然、冬雅達の敵ではなく、彼らは順調に進んでいき、地下十階のセーフエリアまで到着した。
「この階には上層のボス、Cランクのマンティコアがいるらしい」
「Cランクなら問題ないわね」
「それで上泉のあのスキルを使うの?」
「いや、今回は新しく覚えたスキルを試してみようと思う」
「あっ、私も魔王召喚をまだ試してなかった」
「ああ、前に覚えたって言ってたやつか」
「そう。でも魔王を召喚って怖くない? だからまだ試してなかったの」
「魔王なら闇属性の魔法とかスキルを使えるかもしれないから、聖属性の敵が出てきた時に役に立つかもしれない」
「じゃあ、後で試してみるか。ここは上泉にまかせるよ」
冬雅達はセーフエリアで休憩の後、地下十階のボス部屋の扉の前まで移動する。
「よし、入ろう。みんなは入口付近で待機してて」
「わかった」
「おーけー」
「わしの出番はなさそうじゃの」
冬雅達が扉を開けてボス部屋に入る。すると広い部屋の中央に、頭が人、体がライオン、尾がサソリ、そして背中にこうもりの翼がある獣型のモンスターがいて、冬雅達が部屋に入ってきた瞬間、立ち上がって彼らをにらみつける。
「グルルルルル」
「あれがCランクのマンティコアか」
「今までのモンスターより強そう」
「じゃあ、始めよう。摩利支天顕現!」
冬雅が新しく習得した摩利支天顕現を発動する。すると彼の体とオリハルコンの剣のまわりを白いオーラが包み込む。
「これは……」
「能力強化系?」
「確かに力が湧き上がってくる気がするけど、それだけじゃない……」
冬雅の頭の中に、摩利支天顕現の効果が浮かんでくる。
「なるほど、これは凄い」
「ガオオオオオオオオン!」
冬雅がスキルの効果を知った直後、彼に向かってマンティコアが走り出す。
「はっ!」
それを見た冬雅は白いオーラをまとったオリハルコンの剣を軽く振る。すると白いオーラが伸びてマンティコアの体を真っ二つに切り裂いた。
「えっ?」
「なっ!」
「一瞬で終わったのう」
その様子を見ていたサキ、凛子、コロポックルが驚く。そして冬雅はスキルを解除して、倒れているマンティコアのそばに近寄ると、
『迷宮都市ヘルムの大迷宮、地下十階ダンジョンボス討伐報酬をひとつ選んでください。
金塊×2
フルマナポーション×1
万能薬×3』
とウィンドウにメッセージが表示され、冬雅は表示された選択肢を皆に伝える。
「さすがにCランクのボスでは、いい報酬はもらえないか」
「どれでもいいよ。上泉が選んで」
「じゃあ、フルマナポーション(MP完全回復)と万能薬(状態異常回復)は店で売ってるから……」
冬雅は金塊を選択する。
「それにしても、上泉のスキル、凄かったね」
「さっきのは摩利支天の力の一部で、白いオーラは自由に操れて、さらに持ってる武器と同じ攻撃力になるらしい」
「へー、それは色々使えそうね」
「それだけじゃないんだ。白いオーラに包まれてる間は、物理攻撃を無効化できるらしいんだ」
摩利支天は、陽炎の化身といわれている戦いの女神で、陽炎には実体がないので、何ものにも傷つけられないといわれていた。
「物理攻撃無効って強っ!」
「でも魔法は無効化できないんでしょ」
「まあね。でも強力なスキルなのは間違いない。でもクールタイムが三時間だから、使いどころは考える必要があるかな」
そう言いながら冬雅は倒れているマンティコアの死骸をアイテムボックスに収納する。
「ああ、ボス部屋の先に転移の石碑があるらしいから、今日はもう帰ろう」
冬雅達がボス部屋の奥の扉から先に進むと、そのフロアの中央に転移の石碑があり、彼らはそこから一階の転移の石碑の部屋に移動して、大迷宮の扉から外に出る。
「はー! この解放感!」
「やっぱ外の空気は美味しいわ」
「それじゃあ、冒険者ギルドに行って今日の戦利品を売ってこよう」
冬雅達は大通りを進み、昨日冬雅が買ってあった迷宮都市ヘルムのガイドブックを見ながら冒険者ギルドにやってきた。
「広っ!」
「人も多い!」
「混雑しとるの」
迷宮都市ヘルムの冒険者ギルドは、辺境の町ベールのものよりかなり大きな建物で、中も広くて受付カウンターもたくさんあり、そこにたくさんの冒険者が集まっていた。
冬雅達は空いてる買取カウンターで、マンティコア一体とEランクとDランクの小型のモンスターを売って、解体費用を引いた3500ゴールドを手に入れて三人で分ける。
「これで今日の冒険者活動は終わりにしよう」
「じゃあ、大衆浴場に行かない?」
「いいね。ダンジョンを攻略しながらお風呂に入れるのは、転移の石碑のおかげね」
冬雅達は大衆浴場に行って大迷宮での疲れを癒し、その後、飲食店で夕ご飯を食べてから宿屋に帰ってその日が終わる。そして次の日、彼らは一階の転移の石碑を使って地下十階に戻ってくる。
「さあ、ここから中層だ。ここからマップがないから、探索しながら下層を目指そう」
大迷宮の地下十一階には、頭が狼で体が人のワーウルフや、悪魔のような姿の動く石像のガーゴイルなどのCランクモンスターが出現したが彼らの敵ではなく、冬雅達はマップを作りながら進んでいく。
「中層にはあまり人がいないね」
「強いモンスターが出現するし、上層よりダンジョンが広くなってるからだろう」
「なら宝箱も期待できるよね。宝石とか入ってると最高なんだけど!」
次回 大迷宮 中層攻略 に続く