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第九十三話 魔王の魔石

 冬雅達とシャルロッテ達は、辺境の町ベールの大衆浴場に入って男湯と女湯に分かれる。


「はー、生き返るわー」

「ほんと、気持ちいいー」


 サキ、凛子、シャルロッテ、エミリが、お湯に浸かって長距離の移動の疲れを癒している。


「それでサキとリンコ、どっちがトウガ君と付き合ってるんですか?」

「ブーーーッ!」


 いきなりシャルロッテにそう聞かれ、サキが吹き出す。


「どっちも付き合ってないよ! 宿の部屋も別だし。まあ、上泉は頼りになるけどね」


 一方、凛子は普通にそう答える。


「そうなんですか?」

「っていうか、カミイズミっていうのはトウガ君の家名? それとも、あだ名?」


 凛子の言葉を聞いてエミリがそう聞き、サキが答える。


「ああ、ミョウジ……って言ってもわからないか。家名が近いかな」

「そういえば、トウガ君も二人のこと、家名で呼んでましたよね」

「なら三人は貴族なの?」


 この大陸で家名を持っているのは、貴族や王族などの上流階級だけだった。


「違う、違う。私達の生まれた国は、みんな家名を持ってるの。そういう文化なの」

「へー、そんな国、聞いたことないから、三人は別の大陸から来たんですか?」

「ええと、かなり遠い所というのは間違いないわ」

「ふーん」


 サキと凛子のこれまでの話を聞いて、シャルロッテは少し考えてから話す。


「じゃあ、ふたりが付き合ってないなら、私がトウガ君を狙ってもいいですよね?」

「ブーーーッ!」


 シャルロッテのその言葉にまたサキが吹き出す。そして凛子はまた普通に答える。


「それを私達に聞かれても困るけど、私達は後で、私たちの国に帰るから、せっかく付き合っても分かれることになるよ」

「えー、国に帰るんですか……。じゃあ、私も一緒にその国に行っても?」

「あっ、それは色とまずいというか、ええと……」


 凛子はシャルロッテに日本のことをどう説明すればいいかわからず言葉に詰まる。


「そうそう。私達の国はメイル国と比べるとかなり特殊だから、止めといたほうが……」


 サキもシャルロッテにそう言うと、エミリが口を開く。


「シャルロッテは、障害があればあるほど燃えてくるんじゃない?」

「ふふふ、さすがエミリ。わかってますね。それにその特殊な国ってのも行ってみたいですし」

「ああ、シャルロッテが行くなら私も行くし、ランスロットもカイトも行くって言うでしょ。私達、冒険者だもんねー」

「むむむ」


 シャルロッテとエミリの押しが強いので、サキは何も言い返せず困っている。



 それから時が過ぎてその日が終わり、次の日の午前九時になる。冬雅達は冒険者ギルドでシャルロッテ達と合流して、職員に連れられて一緒に応接室に入る。するとそこには頭が丸坊主で中年の男性のギルドマスターと数人の職員がいた。


「おお、よく来たな。まあ座ってくれ」


 冬雅達とシャルロッテ達はソファーに座り、ギルドマスターが話し始める。


「聞いたぞ。お前達が三体の魔王を倒したんだろ。魔王といったらSランクモンスターでも上位の強さだというのに」

「私達だけでは無理でした。皆と力を合わせてやっと倒せたんですよ」


 シャルロッテは冬雅達の活躍を隠すようにギルドマスターにそう答える。


「なるほどな。それにしてもお前達もそれにからんでるとは」


 そう言いながらギルドマスターは冬雅の顔を見る。


「俺達はシャルロッテさん達を手伝っただけです」

「だろうな。いくらお前たちが規格外だとしても、さすがに魔王は厳しい相手だったろ」

「ギルマスもトウガ君達が規格外だって知ってるんですか?」

「ああ。こいつらがヒュドラ変異種を無傷で倒してたのを目の前で見てたからな」

「はぁ、トウガ君。色々、甘いですね」

「救助しなければならない人がいたんで、仕方なかったんですよ」

「そういえば、お前たちは目立ちたくないんだったな。ああ、そうだ。ヒュドラ変異種の魔石のことだが、王都に連絡したら、魔石の鑑定書だけ送れば、国からの討伐報酬と一緒にお前達に渡していいということになった。今回の魔族国との戦いで、王都も何かと忙しかったからな」


 ギルドマスターがそう言うと、職員がヒュドラ変異種の魔石と500000ゴールド(白金貨五百枚)が入った袋を机の上に置く。


「ありがとうございます。では」


 冬雅はアイテムボックスにヒュドラ変異種の魔石と白金貨の袋を収納する。


「それで三体の魔王は回収したのか?」

「はい。俺が回収してます」

「なら解体はどうする?」

「さすがの私達も魔王の解体はしたことがないので、ここの職人達に頼みたいんですが」

「そうか。うちのやつらは魔王の解体なんてできるのか?」


 ギルドマスターはそばにいる解体担当の職員にそう聞く。


「魔王といっても既存のモンスターの変異種ですから、できると思いますよ」

「そうか。なら解体した素材はどうするんだ?」

「魔石だけもらいます。後は換金してください」

「わかった。じゃあ、解体場に行くぞ」

「ギルマスも来るんですか?」

「当然だろ。魔王なんて滅多に見れるものじゃないからな」


 ギルドマスターやほかの職員達も魔王の死骸に興味があるようだ。


「では解体場に行きましょう」


 冬雅達とシャルロッテ達とギルドマスター達は、応接室を出て移動し、冒険者ギルドの裏にある解体場の倉庫に到着する。すると解体場にいる職人達がたくさん集まってきた。


「じゃあ、兄さん」

「おう」


 ランスロットは個数型アイテムボックスからグレーターリッチ、ヴリトラ、アモンの死骸を取り出す。


「うおおおお!」

「でけーーーー!」

「これが魔竜王ヴリトラか!」

「こっちはグレーターリッチか。ほとんど無傷じゃないか」

「こっちはアモンか。だいぶ状態が悪いな」


 グレーターリッチは魂を抜かれた状態なのでそのままの姿だが、アモンはサキの黄金不死鳥破によって全身が焼かれていたので状態が悪かった。


「ヴリトラの解体は時間がかかりそうです。グレーターリッチとアモンのほうは三日くらいあれば終わると思います」


 解体職人がギルドマスターにそう報告する。


「じゃあ、今日は受取証だけ発行して渡してやれ」

「はい」


 解体担当の職員が受取証をランスロットに渡し、冬雅達とシャルロッテ達は解体場から出る。それから彼らは冒険者活動は休みにして、買い物したり休養したりして三日が過ぎ、また冒険者ギルドで合流して二階の応接室に来ていた。


「これが三体の魔王の魔石と、グレーターリッチとアモンの素材の代金だ」


 応接室のテーブルの上に三個の魔石と白金貨の入った袋が置いてある。


「このでかいのがヴリトラの魔石ですね」

「ああ。ヴリトラは魔石だけ優先して取り出したが、ほかの素材はまだ時間がかかるそうだ。おそらくあと二、三週間くらいかかるだろう」

「ではヴリトラの代金はあとで取りに来ます」

「おう。それと鑑定の結果、面白いことがわかったぞ。アモンというのはアークデーモンの変異種だそうだ」

(ああ、確か討伐報酬をもらった時にそんなことが表示されてたな)


 冬雅がその時のことを思い出していると、あることに気づく。


「あれっ? 確かアークデーモンには魔石はなかったような……」


 この世界のデーモンナイトやアークデーモンなどの魔族は、頭に角があり肌の色が違うが、それ以外は人間と変わらないので人族に分類されていた。つまり魔族には、エルフやドワーフと同じように体内に魔石はなかった。


「アモンが変異して魔王になった時、体内に魔石が出来たんだろう」



 次回 次の目的地 に続く

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