第八十九話 黄金の炎
サキは、新たに習得した必殺技が遠距離型で、離れた場所にいる敵に命中させることができるのかと不安なようだ。すると彼女達の近くにいたエミリが会話に加わる。
「じゃあ、また私とリンコで雷合体魔法でアモンを感電させて、その隙にあなたの必殺技を使うってのはどう?」
「なるほど。動かない相手なら、いけるかな」
「あっ、サキさん! これを!」
そう言いながら、これまでの話を聞いていたカイトが、彼の魔法のかばんから指輪を三つ取り出す。
「これは攻撃力が上がる破壊王の指輪です。必殺技を使うなら、これを装備してみてください」
「ありがとう。じゃあ借りるね」
サキは装備していた防御系の指輪を外し、攻撃力が15%上昇する破壊王の指輪を三つ装備する。
「じゃあ、攻撃準備しましょ」
「わかった」
魔力チャージが完了した凛子とエミリが並んで前に出て、彼女達は持っていた杖を掲げ、サキはウルスラグナに乗ってから二人のとなりに移動してドラゴンブレイカーを構える。
「ガアアアアアア!」
一方、冬雅達は、凶化状態のアモンと四対一で激しい戦いを繰り広げていた。
「シャルロッテさん! 彼女達の攻撃準備ができたみたいです!」
「じゃあ、次に一撃加えてひるませたら、みんなアモンから距離をとって!」
「了解した」
「わかりました」
アモンは理性を失っている状態なので、大声で作戦を話しても問題ない状況だった。
「聖剣よ!」
空中にいるアールマティが、再び美しく輝く光の剣を十本作り出し、それを一心不乱に冬雅に攻撃しているアモンを狙って放つ。すると防御を考えてないアモンの体にすべての光の剣が命中する。
「ガアアアアアアッ!」
全身に光の剣が突き刺さった状態のアモンの体がふらつく。
「今だ!」
「みんな! 離れて!」
冬雅、シャルロッテ、ランスロットは、急いでアモンから離れる。
「来た! リンコ!」
「わかった! サンダーブレイズ!」
「ライトニングサンダー!」
凛子とエミリは同時に雷系最上級魔法を発動し、その合体雷魔法がアモンの体に直撃し、全身を感電させる。そのタイミングで、サキはウルスラグナに乗りながらドラゴンブレイカーを天高く掲げる。するとその剣身に美しく燃える黄金色の炎が宿る。
「黄金不死鳥破!」
サキが掲げたドラゴンブレイカーを振るうと、剣に宿っていた黄金色の炎が巨大な火の鳥の姿になって、感電して動けないアモンに向かって飛んでいく。
「ぎゃああああああああああ!」
巨大な黄金の火の鳥が、アモンに直撃してその全身を飲み込み、アモンは全身を焼かれ、さらにその黄金色の炎は、アモンの魔力と魂を焼き尽くした。その後、炎が消えるとその場に黒こげのアモンが倒れていて、冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
「あっ、レベルが上がった!」
「じゃあ、アモンは……」
「倒したみたい」
「やった! また魔王を倒した!」
凛子達は地面に倒れて動かないアモンを見て喜び、冬雅達はステータスボードを確認する。
「レベルが63になった!」
「私も! スキルも覚えた!」
「わしはレベル59じゃの。スキルも覚えたぞい」
冬雅、サキ、凛子はレベル63になり、コロポックルはレベル59になって、さらに彼等は新たなスキルを習得した。
冬雅
摩利支天顕現
十五分間、戦いの神、摩利支天の力を使えるようになる
クールタイム三時間
消費MP 50
サキ
プリンセスガード
他者からのスキルや能力値の操作を完全に防ぐ
スキル所持者とその仲間からの能力値上昇効果は発動する
凛子
魔法装術
使用者の攻撃力、防御力、魔力、速さ、回避率が
十五分間20%上昇
消費MP 30
コロポックル
龍脈吸収
戦闘中、MPが減少した時、徐々に回復する
「摩利支天! 戦いの神の力って、絶対凄いやつだ!」
「プリンセスガード……ああ、敵が使ってくる能力値低下スキルを無効化できるのか。でもこの名前はちょっと恥ずかしい……」
「私は上泉のドラゴンオーラと同じやつか。魔力高揚も消えてる」
「わしはMP回復スキルじゃ。これからはスキルがいっばい使えるの」
冬雅達は新たなスキルを習得して喜んでいる。その様子を見ながらシャルロッテとランスロットが話している。
「ふぅ、何とか倒せたか」
「ほとんど彼らの力だけどね」
「まあ、そうだが、結果的に魔王を倒せたのならどっちでもいいだろ」
「そうね。でも私達も負けてられないよ」
「ああ、また大迷宮に潜ってみるか」
シャルロッテ達は、冬雅達にライバル心を燃やし、もっと強くなると心に誓う。一方、冬雅は倒れているヴリトラの元へ歩いていく。すると、
『ダークドラゴン変異種、ネームドモンスター、ヴリトラ討伐報酬をひとつ選んでください。
オリハルコンの剣×1
オリハルコンの槍×1
オリハルコンの斧×1』
と冬雅の前にメッセージウィンドウが表示され、冬雅はオリハルコンの剣を選択する。そして今度は倒れているアモンのそばに近寄る。
『アークデーモン変異種、ネームドモンスター、アモン討伐報酬をひとつ選んでください。
戦鬼の鎧×1
魔神のころも×1
星神のマント×1』
と表示され、冬雅は星神のマントを選ぶ。そこへシャルロッテとランスロットが一緒にやってくる。
「どう? トウガ君。死んだふりじゃないよね」
「はい。間違いなく倒しました」
「じゃあ、兄さん」
「おう」
ランスロットは倒れているアモンを個数型アイテムボックスに収納し、その後、倒れているヴリトラも収納する。
「アールマティ!」
サキ、凛子、コロポックル、エミリ、カイトがいる場所に、アールマティが飛んで戻って来て、凛子の前に着地する。
「ありがとう! 凄かったよ!」
「我々天使が悪魔を倒すのは当然のことです」
「それで聞きたいことがあるんだけど」
「ん? 何でしょうか?」
「ええと、別の世界から召喚された者は、攻撃が終わったら帰還するはずなんだけど、どうしてアールマティは戦い続けることができたの?」
「ああ、私は人間界で訓練したり悪魔と戦ったりしていて、慣れてるんです。そんなことより、あなたの名前を聞いてもいいですか?」
「佐々木凛子だけど」
「では佐々木凛子。もっと強くなってください。そうすれば、この世界で私はさらに強い力を使えます」
「そうなの?」
「はい。召喚士の力が強くなれば、召喚される者が使える力も強くなるんですよ」
「わかった!」
「では私は帰ります。また会いましょう」
そう言ってアールマティは帰還の魔法陣を空中に作り出し、そこから元の世界へ帰っていった。
場面はグライン王国軍が魔族国軍のモンスターと戦ってる破壊された城壁の場所に変わる。そこではゼル将軍が何十体ものモンスターを倒していた。
「敵の勢いがなくなってきたな。少し余裕がでてきた」
ゼル将軍やグライン鉄騎兵団、それに浅井達勇者パーティは、破壊された城壁から突入してくる魔族国軍のモンスターと戦っていたが、徐々にそのモンスターの数が減ってきていた。
「こっちはなんとかなりそうだ。後は魔王か。おい! 向こうの状況はどうなってる!」
次回 戦利品 に続く