第八十八話 絶対防御
アールマティが作り出した美しく輝く十本の光の剣が、アモンに向かって高速で飛んでいく。それを見たアモンは、とっさに後方に飛んで回避しようとするが、十本の光の剣のうち六本が避けられず、アモンの体に突き刺さった。
「ぐあっ!」
アールマティの光の剣によって大ダメージを受けたアモンの体がぐらつく。今のアールマティは、凛子の魔力チャージや破壊神シヴァの加護などのスキルのおかげで、かなり強くなっていた。
「ふ、ふざけるな! 魔体再生!」
アモンは全身からまがまがしい魔力を放ち、それによって体に突き刺さっていた光の剣がかき消えて、同時に全身の傷がみるみるうちにふさがっていく。魔体再生は、一時間のクールタイムがあるモンスター専用の回復スキルだった。
「回復スキルか!」
「魔王が回復って反則だろ!」
「はっ!」
アモンが回復していく姿を見て皆が驚いていると、空中にいたアールマティが、右手の剣に光をまとわせ高速で飛行してアモンに接近する。
「光破斬!」
「オーラクロー!」
アールマティは光の斬撃を放ち、対するアモンは魔力まとわせた狼の爪を振るって迎撃する。
「ちっ、何で天使がこんな所に?」
「闇の者を滅ぼすために決まっている!」
「ふざけるな! スパイラルハリケーン!」
アモンは風系最上級魔法を発動し、巨大な竜巻を作り出して目の前にいるアールマティを狙って放つ。それに対し彼女は背中の翼を羽ばたかせながら高速で飛んで、迫ってきた竜巻から逃れる。
「凄い! 天使が味方してくれてる!」
「天使ってあんなに強いのか!」
シャルロッテとランスロットが、アールマティの活躍を近くで見て驚いている。一方、アモンから離れた場所にいる凛子は、コロポックルとエミリとカイトと一緒にいて、アールマティの活躍を見ながらつぶやく。
「あれっ? アールマティ、攻撃が終わっても帰らないでまだ戦ってくれてるよ」
「あの天使は、わしと同じこの世界の住人……とは思えんの。不思議じゃのう」
コロポックルは元々この世界の住人なので、いつまでもこの世界にいられるが、別の世界から召喚された者は、攻撃が終わったら帰還するのが普通だった。なのにアールマティは、攻撃が終わってもさらに戦いを続けていた。
「理由はわかんないけど、あんなに強いのにずっと一緒に戦ってくれるなら最高じゃん。そうだ。アールマティを召喚しながら魔法が使えるか試してみよ。魔力チャージ!」
凛子が魔力チャージを発動すると、問題なく魔力が集まってきた。
「普通にチャージ出来てる! これなら魔法も撃てる気がする!」
凛子はさらに魔力チャージを続ける。そこへサキがウルスラグナに乗ってやってきた。
「サキ、どうしたの?」
「うん。さっき遠距離必殺技を覚えたから使ってみたいんだけど、その隙がなくてどうしようかと……」
アモンと冬雅達は激しい接近戦を繰り広げていて、サキが必殺技を使う隙がなかった。
「なら私と一緒に攻撃すればいいよ。たぶん魔力チャージが完了したら上泉が隙を作ってくれるはず」
「そうね。じゃあ、その時まで私はみんなをここで守るか」
サキはウルスラグナから降りて凛子達の前に移動し、盾を構えて冬雅達の戦いを見守っている。一方、アモンと戦ってるシャルロッテは苦戦していた。
(さ、さすが魔王……みんなについていくのがやっとだ……なんとか隙をついて……今だ!)
「聖竜斬!」
「あまい! オーラクロー!」
シャルロッテが放った光の魔法剣を、アモンが魔力をまとわせた狼の爪で切り払う。その直後、冬雅がまたアモンに背後から接近し、魔力をまとわせた轟雷の剣を振るう。
「竜牙一閃!」
「ぐあっ! この!」
冬雅の魔力の斬撃がアモンの背中を斬るが、アモンはヴリトラの魂から手に入れた強靭な肉体と驚異の生命力でひるむことなく、左手をかざして風系最上級魔法を発動する。
「スパイラルハリケーン!」
「うわっ!」
竜巻のように舞う風のやいばが冬雅に襲い掛かり、彼は急いでアモンから離れるように走っていく。だが彼は風のやいばの一部を避けられず、体のあちこちに切り傷ができる。
(この小僧は速くて一撃も重いが、魔法に弱いようだ。それと小娘と鎧の男は脅威ではない。問題はこの天使だ!)
「天使の祝福!」
アールマティは、空中で天使の祝福を発動し、冬雅達の体が暖かい光に包まれる。天使の祝福は、十五分間、仲間のHPが少しづつ回復していくスキルだった。それによって冬雅達が受けた傷が徐々に治っていく。
「おお、切り傷が!」
「これでまだ戦えるわ!」
「これはありがたい」
「やはりお前が一番邪魔だ! ブフアアアアアッ!」
アモンは空中にいるアールマティを狙って、口から巨大な瘴気弾を吐き出す。それに対し彼女は、迫ってきた瘴気弾を剣で真っ二つにし、さらにアモンへ急接近して斬撃を放つ。
「光破斬!」
「オーラテイル!」
アールマティとアモンの攻撃が激突し、二人は互角の接近戦を繰り広げる。そこに冬雅、シャルロッテ、ランスロットが隙をついてアモンへ攻撃してるので、徐々にアモンは劣勢になっていく。
「くっ、何なんだ。何なんだ! お前ら! 俺は悪魔王アモンだぞ!」
四人に攻められ劣勢のアモンは、全身から今までにない強大な魔力を放出する。それを見た冬雅、アールマティ、シャルロッテ、ランスロットは恐怖を感じ、急いでアモンから離れる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!」
アモンの両目から黒目が消え、その体がまたひとまわり巨大化していく。
「何だ?」
「また能力強化スキルか!」
「あれは……凶化だ!」
ランスロットはアモンが使ったスキル「凶化」のことを知っていた。凶化は、十五分間、使用者の理性が失われる代わりに、攻撃力が50%上昇するスキルだった。
「スウウウウウウウウ」
凶化状態のアモンが、全力で息を吸う。
「ブレス? まさか?」
「やばい! ヴリトラのブレスが来るぞ!」
冬雅達は急いでヴリトラから離れるようにバラバラに走っていく。するとヴリトラは冬雅達ではなく、離れた場所にいる、サキ、凛子、コロポックル、エミリ、カイトがいる方を向いて、口から猛烈な勢いの破壊のブレスを吐き出す。
「ブフアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「まずい!」
「うわわわわわわわ!」
アモンの破壊のブレスは、凶化によってヴリトラのそれより威力が高くなっていた。さらに破壊のブレスは、魔法障壁をも破壊する効果を持っていて、防ぐのが困難なスキルだった。だがサキは破壊のブレスを恐れずに防御スキルを発動する。
「アイギスの盾!」
サキが光の盾を構えたまま、絶対防御スキルを発動する。すると彼女の前に巨大で半透明な赤色のバリアが出現し、アモンの破壊のブレスを完全に防いで、彼女と後方の凛子達を守った。
アイギスの盾
すべての攻撃を一度だけ無効化することができる
クールタイム二十四時間
消費MP 50
「危なっ!」
「た、助かった!」
「ふぅ、このスキルがなかったらやばかった」
「ガアアアアアアア!」
理性を失っているアモンは、今の破壊のブレスを防がれたことを気にせず、本能をむき出しにして再び冬雅達に襲い掛かる。
「サキ、助かったわ」
「サキさん。ありがとうございます。今のバリアは凄かったですね」
エミリとカイトがサキにお礼を言う。
「うん。でも今のバリアはクールタイムがあるから、次は無理よ」
「あー、そうなのね。じゃあ、次のブレスが来る前にあいつを倒さないと……」
「でもアモンは、ヴリトラの魂を吸収して強靭な体を手に入れたので、簡単には倒せそうにないですよ」
「よし、魔力チャージ完了! サキ、一緒に攻撃しよ」
魔力チャージが完了した凛子は、やる気満々の様子でサキにそう提案する。
「わかった。と言いたいんだけど、私の長距離必殺技は、クールタイムが三時間あるから、絶対に外せないのよ。だから使うのに不安が……」
次回 黄金の炎 に続く