第八十七話 献身の天使
リーナはアモンの特徴を聞いたことがあり、さらにその強大な魔力を見て、目の前のモンスターが悪魔王アモンだということに気づいた。
「悪魔王アモン!」
「魔王がもう一体だと!」
「うわわわわわ!」
目の前に魔竜王と悪魔王がいるのを見て、周囲のメイル国の騎士達が恐怖する。さらに冬雅達も二体の魔王を警戒して攻撃せずにいる。
「こっぴどくやられたようだな」
「ふん。この程度、ほっとけば治る」
ヴリトラは強がっているが、アモンは近くでヴリトラの体の側面の斬られた傷を見て心の中で驚く。
(強靭なヴリトラの体をここまで……いや、それより……)
アモンはフクロウの両目に魔力をまとわせてヴリトラをじっと見る。
(ヴリトラの魂がかなりのダメージを受けてる。人間が魂に直接ダメージを与えるスキルか武器を使ったのか?)
アモンの魔力の目は、魂の状態を直接見ることができた。
「グルルルル。認めたくはないが、人間の中にとんでもない奴がいる。おそらく俺やお前より強い」
「ほう。珍しいな。人間の実力を認めるとは」
「ふん。確かに強敵だが、俺とお前の力を合わせれば絶対に勝てる。だからお前を呼んだんだ」
ヴリトラが空中にドラゴンハウリングを放ったのは、アモンをこの場に呼ぶためだった。
「いいだろう。俺達で人間どもを倒すぞ!」
「おう!」
アモンは背中の翼を羽ばたかせて飛び立ち、ヴリトラの頭の上に乗る。
「おい! 俺の頭の上で何をしている!?」
「だから俺達で人間どもを倒すと言っただろ。まあ俺にまかせておけ」
アモンは全身から膨大な魔力を放出し、それがヴリトラの全身までいきわたる。
「おお! この魔力!」
「ソウルドレイン!」
「何っ? ぐあああああああああああ!」
アモンは、ヴリトラの体から魂を抜き出して自分の体に融合させようとする。
「ア、アモン……貴様……」
「お前の仇は俺が取ってやる。安心して眠れ」
「……」
魂を奪われたヴリトラは意識を失い、体に力が入らなくなってその場に倒れ、その頭の上にいたアモンは、背中の翼を羽ばたかせてゆっくりと地面に着地する。そして冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
「えっ? レベルが上がった?」
「俺達が止めを刺してないのに経験値がもらえたのか」
「確認してみよ」
冬雅、サキ、凛子はレベル60になり、コロポックルはレベル55になって、彼らは新たなスキルを習得した。
冬雅
貫通
相手の属性耐性や防御スキルなどを無視して
ダメージを与えることができるようになる
サキ
黄金不死鳥破
すべてを焼き尽くす黄金色の火の鳥を放つ長距離必殺技
クールタイム 三時間
消費MP 50
凛子
魔力操作力向上
魔法発動時間や魔力チャージ完了までの
時間が短くなる
コロポックル
エクストラエリアヒール
一定の範囲内の対象者を大回復する回復魔法
消費MP 40
冬雅達はアモンを警戒しながらステータスボードでレベルとスキルを確認し、心の中で新たなスキルの強さに驚いている。
「あの魔王は何をしたんだ?」
「ソウルドレインとか言ってた。だからアモンがヴリトラの魂を吸収したのかも」
シャルロッテの予想どおり、アモンのソウルドレインは、弱った魂を吸収して自分の力にしてしまうスキルだった。
「はあああああああ!」
ヴリトラの魂を吸収したアモンは、体が一回り大きくなり、下半身の蛇のうろこがヴリトラと同じ紫色に変化した。
「この力……有効に使わせてもらうぞ。ドラゴンオーラ!」
アモンの全身が紫色のオーラに包まれ、すべての能力値が上昇する。
「ドラゴンオーラって!」
「そうか! ヴリトラの魂を吸収したから、アモンはヴリトラのスキルが使えるようになったのか!」
「じゃあ、あのブレスも?!」
ランスロットとシャルロッテは、強化されたアモンの力を予想して恐怖する。
「さて、この力がどれほどのものか試してみるか」
アモンは紫色のオーラをまといながら、いきなりシャルロッテに向かって突撃する。
「させん!」
それを見たランスロットは、盾を構えてシャルロッテの前に出る。それに対しアモンは、オーラをまとわせた狼の爪を振るう。
「オーラクロー!」
「ぐっ」
「まだまだ!」
アモンは次々と魔力をまとわせた爪でランスロットを攻撃し、彼は盾を構えたまま少しづつ後退していく。
「そらそら! どうした!」
「兄さん!」
「くっ!」
(このままでは……)
その時、冬雅が気配遮断を使いながらアモンの背後から接近して、魔力をまとわせた轟雷の剣を振るう。
「竜牙一閃!」
「ぐあっ! き、貴様!」
背中を斬られたアモンは振り返り、すかさず蛇の尻尾に魔力をまとわせ冬雅を狙ってオーラテイルで攻撃する。それに対し冬雅は後の先のスキルを発動し、攻撃される前に蛇の尻尾を斬り払う。その直後、冬雅は再び斬撃を放ち、アモンの体を切り裂く。
「がああああっ!」
今の冬雅は貫通のスキルの効果で、アモンのドラゴンオーラの防御力上昇分を無効化してダメージを与えることができた。
「くっ、この程度!」
アモンはダメージを受けながらも口を大きく開けて息を吸い、その後、冬雅を狙って口から爆炎の息を吐き出す。
「ブフアアアアアアア!」
対して冬雅は、アモンが口を開けた瞬間、危険を察知し、急いでアモンから離れるように全力で走っていた。そのおかげで彼は迫ってきた炎から逃れることができた。その攻防を見ていたランスロットとシャルロッテも、急いでアモンから離れていく。
「ラストジャッジメント!」
シャルロッテは走りながら光系最上級魔法を発動する。するとアモンの頭上から巨大な光の柱が降りてきて、その体を飲み込んだ。
「ぐあああああああっ!」
その光の柱によってアモンがまとっていたまがまがしい魔力が浄化されて消滅し、同時にアモンは全身にダメージを受ける。
「おお! 強くなったアモン相手でも、あいつらは互角以上に戦ってる!」
「ウオオオオオオオオオオ!」
「ガアアアアアアア!」
リーナが冬雅達の戦いを見ていると、破壊された城門からまた魔族国軍のモンスターがなだれ込んできた。
「ちっ、またか! メイル国騎士団! 迎撃するぞ!」
「うおおおお!」
「行けーーーっ!」
現れたモンスターの大軍を迎撃するため、メイル国騎士団が突撃していく。
「トウガ! シャルロッテ! 私達は向こうのモンスターの相手をする! ここはお前達にまかせるぞ!」
「はい!」
「わかりました!」
リーナも魔族国軍のモンスターと戦うため走り出す。その時、凛子の次の攻撃準備が完了した。
「魔力チャージ完了! 今度は……アールマティ召喚!」
凛子は賢者の杖を掲げ、召喚の魔法陣を空中に作り出す。するとその魔法陣から、豪華な装飾が施された剣と、美しい青色の鎧を装備した若い女性の天使が現れた。
「私は献身の天使アールマティ。貴方を正義の力で守護しましょう」
「アールマティ! あの魔王を倒して!」
「むっ、魔王ですか。いいでしょう。邪悪な悪魔は私が滅ぼします」
アールマティは腰の剣を抜き、背中の美しい白い翼を羽ばたかせ、アモンへ向かって飛び立つ。
「何っ! 天使だと!」
冬雅達と戦っていたアモンは、いきなり現れた強大な魔力を持つアールマティの存在に驚く。
「聖剣よ! 邪悪な者を貫け!」
一方、アールマティは空中で停止して左手をかざし、彼女の周囲に二メートル以上ある光の剣を十本作り出す。彼女はそれらを一斉にアモンに向けて高速で放った。
次回 絶対防御 に続く