第八十六話 人馬一体
立ち上がったリーナが破壊された城門の方を見ると、頭突きで城門と城壁を破壊したヴリトラが、頭に衝撃を受けて意識がもうろうとしていているのが見えた。
「全員! ヴリトラから離れろ!」
リーナは付近にいた騎士達にそう叫ぶが、破壊された城壁から落下して、がれきの下敷きになった数人が動けずにいて、すぐに動けるものが救出活動を開始する。
「おじいちゃん! お願い!」
「うむ。エリアヒール!」
この状況を見て、凛子の肩の上のコロポックルが広範囲回復魔法を発動する。
「おお! 傷が!」
「回復魔法か! ありがたい!」
コロポックルの回復魔法のおかげで、怪我をした騎士達が動けるまで回復し、落下した騎士達は全員、西門前広場に移動した。
「グググ……やりすぎたか」
一方、意識がもうろうとしていたヴリトラは、立ち直って体を起こして周囲を見渡す。するとメイル国騎士団や冬雅達が、西門前広場で陣形を整えて待ち構えているのが目に入る。
「ちっ、やってくれたな……許さんぞ! 人間ども!」
立ち上がったヴリトラは、その巨体を揺らしながら、がれきが散乱している城門付近から西門前広場に移動していく。
場面はアモンと魔族国軍一万がいる西の街道に変わる。
「ヴリトラの奴。あの龍は倒せなかったが、城門を破壊したか。予定は狂ったがまあいい。全軍! 進軍せよ!」
シルバーゴーレム、アイアンゴーレム、ミノタウロスなどの一万の大型のモンスターが、ヴリトラが破壊した城門を目指して進軍していく。それを指揮しているアモンは、シルバーゴーレムの肩に乗って進んでいく。
場面は西門前広場に変わる。ここではリーナ率いるメイル国騎士団と冬雅とシャルロッテ達が、ヴリトラと激しい戦いを繰り広げていた。
「ガアアアアアア!」
「ホーリーアロー!」
ヴリトラが瘴気弾を吐き出し、シャルロッテが光魔法でその瘴気弾を迎撃する。
「ヴリトラは闇の竜だ。光の英雄なら!」
「そうだ! 俺達には光の英雄がいる! 彼女を援護しろ!」
「おおお!」
「バーストフレア!」
「コールドストーム!」
「オーラアロー!」
メイル国の騎士達はシャルロッテの活躍を見て士気が上がり、一斉に魔法や弓のスキルなどで攻撃する。
「邪魔するな! ウオオオオオオオオオオ!」
それに対しヴリトラは、口から衝撃波を伴う咆哮「ドラゴンハウリング」を広範囲に放ち、周囲にいた騎士達を吹き飛ばす。その衝撃波に冬雅達やシャルロッテ達は、なんとか吹き飛ばされずに耐えて、覇竜の牙の四人がヴリトラへ再び攻撃を開始する。
「上泉君、全力で戦っていいよね」
盾を構えて後方の冬雅と凛子とコロポックルを守っているサキがそう話す。
「うん。魔王相手に出し惜しみはしなくていいよ」
「わかった」
「私も魔力チャージが終わったら攻撃するよ」
サキはすでの戦乙女の誓いを、凛子は魔力チャージを使っていた。そしてサキは魔法のかばんからドラゴンブレイカーを取り出して右手に持っている。
ドラゴンブレイカー 攻+95 竜族へのダメージ30%上昇
「よし。あれを試してみよう。ウルスラグナ召喚!」
サキは白く美しい毛並みの馬、ウルスラグナを呼び出してその背中に飛び乗る。
「まず俺が攻撃して隙を作るから、宮本さんは俺の後に続いて」
「了解」
「はっ!」
すでにドラゴンオーラで全能力を強化していた冬雅は、右手の轟雷の剣に魔力をまとわせながら、全力でヴリトラに突撃していく。
「ウルスラグナ! お願い!」
「ヒヒーーーン!」
その冬雅の後を、ウルスラグナに乗ったサキが、右手のドラゴンブレイカーに魔力をまとわせながら続いていく。
「なっ! 速っ!」
「人の後を馬で追いかけるってどういうこと?」
ヴリトラと戦っていたシャルロッテ達の横を冬雅が高速で走り抜けて、彼の後を追うようにサキがウルスラグナで駆け抜けていく。その様子を見てランスロットやエミリが驚いている。
「ふん! これでもくらえ!」
冬雅達の接近に気づいたヴリトラは、尻尾に魔力をまとわせて冬雅達を狙って力任せに振る。それはヴリトラのオーラテイルというスキルだった。
「はっ!」
そのオーラテイルを冬雅とウルスラグナはジャンプしてかわし、さらにヴリトラに接近して、まず冬雅が魔力をまとわせた轟雷の剣を高速で振るう。
「天羽々斬!!」
冬雅の無数の高速の斬撃が、ヴリトラの体の側面の紫のうろこを次々と切り裂いてダメージを与える。続いてサキが猛スピードでウルスラグナに乗って接近し、魔力をまとわせたドラゴンブレイカーを振るう。その剣身にまとう魔力は三メートル以上になっていた。
「ソウルブレイク!!」
サキは冬雅が切り裂いたうろこ部分を狙って、魂をも破壊する必殺の斬撃をウルスラグナに乗りながら放ち、ウルスラグナとサキは、ヴリトラの隣を駆け抜ける。
「ガアアアアアアアアア!」
ヴリトラは体の側部に大ダメージを受け、さらにその魂にも大ダメージを受けて叫び声を上げる。今のサキの攻撃は、姫騎士のスキル「人馬一体」の効果で威力が上昇していた。
人馬一体
馬に乗っている時、攻撃力20%上昇
「バ、バカな……」
(俺がこれほどのダメージを……)
ヴリトラは肉体と魂にかつてないほどのダメージを受け、体がフラフラになる。
「グオオオオオオオ!」
「ガアアアアアアア!」
「ウオーーーーーーーン!」
その時、ヴリトラが破壊した城門と城壁から、西グライン砦の外にいたシルバーウルフやバイコーンに乗ったデーモンナイトなどの大軍が押し寄せてきた。
「なっ!」
「あれほどのモンスターが!」
「ヴリトラだけでも大変なのに!」
その光景を見てメイル国の騎士達が動揺する。
「魔力チャージ完了!」
「リンコ! さっきみたいに氷系の召喚で奴らを倒してくれ」
「わかりました! ティターニア召喚!」
リーナの言葉を聞いて、凛子は再び妖精の女王ティターニアを召喚する。
「ティターニア様!」
「うむ。私にまかせよ。無限凍結!」
ティターニアは、かざした手から極寒の冷気をヴリトラを巻き込むように広範囲に放つ。それがヴリトラとその後方にいるモンスターの大軍を飲み込み、砦内になだれ込んできたモンスターのほとんどがその冷気に飲み込まれて全身が凍傷になって倒れていく。
「……」
一方、全身に極寒の冷気を浴びたヴリトラは、動かず沈黙している。
「倒して……ないよね。レベルアップしてないし」
「奴からまだ魔力を感じる。油断しちゃ駄目だ」
冬雅とサキは動かないヴリトラから距離を取って、剣や盾を構えて警戒している。すると今まで動かなかったヴリトラが、いきなり立ち上がって口を開いて咆哮を上げる。
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
ヴリトラは人間達を狙わず、空中へ向けてドラゴンハウリングを放つ。
「な、何で空に向かって衝撃波を?」
「わからない。倒されそうになって混乱してるのか」
「まさか」
「むっ! 何か来る!」
「この強い魔力は!」
リーナやシャルロッテ達は、空中から強大な魔力が近づいてくるのを感知してその方を見る。すると、アモンが背中のフクロウの翼を羽ばたかせながら飛んできて、ヴリトラのとなりに着地した。
「あ、あのモンスターは……」
「あいつはアモン、悪魔王アモンだ!」
次回 献身の天使 に続く