第八十三話 黄龍
「何っ、トウガ! お前、あの大軍相手に、何か策があるのか?」
「はい。いや、俺じゃないんですけど、広範囲攻撃ができます」
「おお! よし! やれ! 元々、ゼル将軍から、敵が射程内に入ったら攻撃を開始するよう言われていたんだ。だから遠慮する必要はない!」
「わかりました。それとシャルロッテさん」
「は、はい?」
冬雅とリーナの会話を近くで聞いていたシャルロッテは、いきなり彼に呼ばれて驚く。
「ちょっと聞きたいんですけど、サイズ調整機能がある魔力が上がる装備品ってありますか?」
「サイズ調整機能?」
「はい。シャルロッテさん達は、色々なダンジョンに潜って色々な装備品を持ってるって言ってたので」
「ああ、確か……」
そう言いながらシャルロッテは、彼女のアイテムボックスから二つの金色の金属の指輪を取り出す。
「この魔法神の指輪は、魔力が上がってサイズ自動調節機能もついてます」
「やった! それを貸してもらえないでしょうか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。それでこれってどれくらい大きくなります?」
「大きさ? ええと……」
「それは巨人族でも装備できるくらい大きくなるぞ」
冬雅とシャルロッテの会話を聞いていたランスロットがそう話す。
「巨人族ですか」
「ああ、それとは違うサイズ調整機能がついた指輪を、ジャイアントオーガがつけてたのを倒して手に入れたことがあるしな」
「なるほど」
「あっ、そうだ! あなた達の功績によって報酬を渡すと言っていたのはこれにします。これはグレーターリッチ討伐の報酬として受け取ってください」
「いいんですか! では遠慮なく!」
そう言って冬雅は魔法神の指輪二つをシャルロッテから受け取る。
魔法神の指輪 魔+20% 自動サイズ調整
「コロじい。これをつけてみてくれ」
「おお、ついにわしにも指輪が!」
そう言って冬雅は凛子の肩の上にいるコロポックルに魔法神の指輪をひとつ渡し、コロポックルはそれを指に装備する。すると魔法神の指輪が小さくなり、コロポックルの指にぴったりのサイズになった。
「ほほー! これはいいのう!」
「じゃあ、もうひとつも」
冬雅はもう一つの指輪も渡し、コロポックルはそれを同じように指に装備する。
「ん? その妖精に装備させるのか? じゃあ、何でさっきどれだけ大きくなるのか聞いたんだ? 逆だよな」
今までの会話を聞いていたリーナが冬雅にそう聞く。
「えっ? ああ、それはこれからわかります。あとは……カイト君!」
「は、はい?」
いきなり名前を呼ばれ、今度はカイトが驚く。
「カイト君にはドラゴンを召喚する真似をして欲しいんだ」
「ドラゴン? あっ、もしかしてシャルロッテさんみたいな演技をするんですか?」
「そう」
「ええと……」
カイトはシャルロッテ以上に、スキルを発動する真似をするのが恥ずかしいようだ。その様子を見てエミリがからかう。
「いいじゃん。真似くらい。どうせなら、ドラゴーン! って大声で叫んだら?」
「えっ? それはちょっと……」
「カイト、トウガさん達と約束したので、お願いしますね」
「はぁ、わかりました」
カイトはシャルロッテにそう言われ、しぶしぶ了承する。
「むっ。奴ら、だいぶ近づいてきたぞ!」
西側の城壁の上から、ランスロットが魔族国軍のモンスターの大軍が西側の城壁に向かって走ってくるのを見ながらそう話す。
「コボルト、バトルボア、シルバーウルフ、オーガ、バイコーン乗ったデーモンナイト、ほかにもいっぱいいる!」
「敵は壊れた城壁と、城門の方へ向かってますね」
グレーターリッチが破壊した西側の城壁の内側には、ゼル将軍とグライン王国鉄騎兵団、そして浅井達勇者パーティなどがいて、モンスターを待ち構えている。そしてメイル国騎士団は、西側の城門の上あたりに布陣していた。
「ヴリトラは動いてない。魔王はまだ様子見か」
ヴリトラとアモンは二万程度のモンスターと共に、軍勢の一番後ろにいて動かず、西グライン砦に接近してくるのは、残り二万のモンスターだった。
「全員! 迎撃準備!」
「はっ!」
城壁の上にいるメイル国騎士団は、迫ってくる魔族国軍を攻撃するため、弓や魔法で攻撃する準備を整える。
「あっ、よく考えたら、初めて使うスキルだから、射程がわかならい……」
冬雅は直前になってそのことに気づき、リーナはあきれた表情で話す。
「トウガ、お前は頼もしいのか、抜けてるのか、よくわからん奴だな」
「そこまで考えてる時間がなかったんですよ」
「ここまで来たら、迷っててもしょうがないじゃん」
「そうだな。コロじい!」
「うむ。やってみるぞい!」
凛子と冬雅の言葉を聞いて、コロポックルが精神を集中させる。
「カイト君! 頼んだ!」
「は、はい! はあああああ!」
カイトは全身から魔力を放出しながら叫ぶ。
「ドラゴン召喚!」
その言葉と同時にコロポックルがスキルを発動する。
「龍化じゃ!」
コロポックルがそう叫ぶと、凛子の肩の上にいたコロポックルが宙に浮き、さらに体が光りながらどんどん大きくなって、その体が龍のような姿に変化していく。
「な、何だ?」
「あれは……龍か!」
冬雅達がいる城壁の上空に金色のうろこの巨大な龍が現れ、周囲にいる兵士達がそれを目撃して驚く。その龍こそが、コロポックルが龍化して変身した「黄龍」だった。
黄龍は神話に登場する龍で、四聖獣と呼ばれる青龍、白虎、朱雀、玄武が東西南北を守護するのに対し、黄龍は中央を守護すると言われている黄金のうろこを持つ伝説の龍だった。
「覇竜の牙だ! 覇竜の牙の召喚士が、龍を召喚したぞ!」
「おお! あれは味方か!」
「黄金の龍だ! 凄い!」
黄龍が現れた付近のメイル国騎士団達は、魔族国軍を迎撃するため前方に集中していたので、コロポックルが黄龍に変化したことまでは気づいていなかった。
「おお! ちゃんと指輪が大きくなってる!」
冬雅は現れた黄龍の前足の指に、ふたつの魔法神の指輪があることに気づく。
「いけーー!」
「やってしまえ!」
黄龍の姿を見た騎士や兵士達の声を聞いて、黄龍は大きく息を吸い、その後、口を開いて光り輝く聖光のブレスを吐き出す。
「ブフアアアアアアアアアア!」
黄龍の聖光のブレスが、迫ってくるモンスターの大軍の先鋒を飲み込む。その上空から放たれた聖光のブレスは、地面にぶつかって跳ね上がり、まるで荒波のように周囲に拡散していく。それが猛烈な勢いで走っていたシルバーウルフやバトルボアなどを飲み込んでいき、その光の熱と聖なる力によって魔族国軍のモンスターは致命傷を受けて次々と倒れていく。
「すげぇ!」
「なんて威力だ!」
「召喚魔法って、これほどの威力なのか!」
今の黄龍の聖光のブレスによって、約三千体のモンスターを倒すことに成功した。その後、冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。そして彼等は小さな声で話す。
「あっ、レベルアップした」
「そりゃあ、あれだけモンスターを倒したらレベルも上がるわね」
「でもスキルは覚えなかったか」
冬雅、サキ、凛子はレベル57に、コロポックルがレベル52になっていた。
「ゴゴゴゴゴ……」
黄龍の体が光り出し、その光が小さくなって黄龍はその場から消える。そして小さな光が凛子の肩の上に落ちて、その光が消えるとコロポックルは元の妖精の姿に戻った。
次回 氷の女王 に続く




