第〇〇八話 レベル上げ
冬雅は地面のネズミのモンスターの死骸に右手を向けて、さらに
「アイテムボックス!」
と言葉を出す。するとネズミのモンスターの死骸にアイテムボックスの入り口が重なり、死骸が自動的に異空間に収納された。
ホーンラット×1
「おお、触らなくても収納できた。なるほど、今のはホーンラットというモンスターらしい」
「ああ、収納すると名前がわかるのね」
「ちょっと待って!」
今のを見ていた凛子が何かに気付く。
「私達のかばんとネズミの死骸が同じ所に一緒にあるってこと?」
「あっ!」
「いや、それはちょっと違うと思う。異空間でアイテムが区分けされて収納されてる感じ。だから死骸の血とか匂いがつくとかはないと思う」
「そうなの。それなら良かっ……」
「あっ、あれ!」
冬雅と凛子が話している途中、サキが草原にいる体長が一メートル五十センチくらいの緑色のアリを発見する。
「巨大な緑色のアリ?」
「モンスター……かな?」
「そうか。あれがこの世界の自然のアリなのか、モンスターなのかわからないよね」
「人を襲うかどうかで決まるんじゃないか?」
「じゃあ、あのアリはどっち?」
「あいつはまだこっちに気付いていない。石でも投げて反応を見てみるか」
「じゃあ、私は魔法を使う準備をしとくよ。今度こそ上手くやってみせる」
凛子は緑色のアリに魔導士の杖を向ける。そのとなりではサキが盾を構えていつでも凛子を守れる体勢をとる。
「よし、じゃあ投げるぞ」
冬雅は右手で拾った小石を緑色のアリを狙って投げる。すると緑色のアリには命中しなかったが、近くの地面に当たり緑色のアリは三人の存在に気付く。
「キシャーー!」
三人の姿を見た緑色のアリが突撃してくる。
「こっちに来た!」
「凛子!」
「ファイアーボム!」
凛子は魔導士の杖の先から直径一メートルくらいの火球を放ち、迫ってきた緑色のアリに向けて放つ。緑色のアリはホーンラットほど動きが速くなく、放たれた火球が緑色のアリに命中して爆発する。
「ギギャアアア!」
その火の爆発によって、緑色のアリは火に包まれながら後方に吹き飛んだ。
「やった! 当たった!」
「これが魔法か! 凄い!」
凛子とサキは魔法が成功して喜んでいる。一方、緑色のアリは火に包まれて吹き飛んだ後、焦げて仰向けになったまま動かなくなった。その時、三人の頭の中でレベルアップを伝えるファンファーレのような音が鳴って、ステータスボードが自動で表示された。
上泉冬雅 17歳 人間
職業 侍
称号
レベル 2
HP 588/588
MP 77/77
攻撃力 23(+20)
防御力 19(+10)
魔力 18
速さ 21
経験値 34
スキル
言語理解 アイテムボックス
ゲートオブアルカディア 斬撃強化
異性運上昇
仲間
宮本サキ レベル2 騎士
佐々木凛子 レベル2 魔法使い
装備
鋼鉄の剣 攻+20
鉄の胸当て 防+10
「レベルが上がった!」
「私も!」
「私も上がった! それにサンダーボルトを覚えたって!」
サンダーボルト
電撃を放つ雷系下級魔法
消費MP 15
凛子はレベル2になりサンダーボルトを習得した。一方、冬雅とサキは、新たなスキルは習得してなかった。
「モンスターを二体倒しただけでレベルが上がるって早すぎない?」
「まあ、レベルが低いうちは上がりやすいんだろう。ゲートオブアルカディアでも最初はサクサクレベルが上がるし」
「ならどんどんモンスターを倒していこう!」
「その前に、吹き飛んだアリを回収してくるよ」
冬雅は焦げた緑色のアリの所へ行ってアイテムボックスに収納し、サキと凛子のいる場所に戻ってくる。
グリーンアント×1
「今のアリはグリーンアントっていう名前だって」
「見たまんまって感じね」
「あっ、あそこにも緑アリがいる!」
「だからグリーンアントだって」
「よーし! 今度は……サンダーボルト!」
凛子は三人の存在に気付いていないグリーンアントを狙って電撃を放つ。
「ギャギャッーーー!」
電撃が直撃したグリーンアントは全身が感電し致命傷を負って倒れ、動かなくなった。
「倒した!」
「雷は一瞬で離れたモンスターに届くから使いやすいかも」
「雷を見てから避けるなんて普通はできないしね」
「雷魔法って思ってたより強い! 次もこれでやってみる!」
その後も三人は森を目指して歩きながら遭遇したホーンラットとグリーンアントを倒して回収していった。そして約一時間後、彼等は王都東の森の入り口に到着する。ここに来るまでに三人はレベルが3になっていた。
「ここが森の入り口か」
「森の中に道がある。これなら普通に先に進めそうね」
三人は森の入り口から森の中を伺っている。
「で、どうする? 森に入る?」
「いや、止めておこう。見晴らしのいい草原と違って、森の中はどこからモンスターが現れるかわからないから危険だよ」
「じゃあ、今日は森には入らずに帰りましょ」
「まあ、しょうがないか。私もMPがなくなってきたし」
魔法はMP(マジックポイント)を使って発動し、消費したMPは簡単には回復できなかった。
「じゃあ、帰りは凛子は囮役に徹してもらって、モンスターは私と上泉君で倒しましょう」
「はぁ、MPがなくなった魔法使いは何もできないのがなー」
「それが魔法使いの弱点よね」
「次からはMPを節約しながら戦うか」
「レベルが上がればMPが増えるから、地道にレベルを上げていこう」
三人は王都への帰り道も周囲にいたモンスターを狩り、王都の南門の近くまで戻ってきた時には全員がレベルが4になっていた。
「レベル4か。今日のところはこれでいいかな」
(レベルが5になれば、侍はスキルを習得するんだけど……)
「続きはまた明日にしましょ」
「私、お腹すいた!」
「そうだな。今はお昼くらいの時間だろうし、大通りにあった飲食店にいくか。ああ、その前にかばんを返しておくよ」
冬雅はアイテムボックスからサキと凛子のかばんを出して彼女達に渡す。彼自身も自分のかばんを取り出して肩にかける。
「別にそのままアイテムボックスに入れててもいいのに」
「いや、手ぶらで歩いていると、俺達がアイテムボックスを持ってるのがバレるかもしれないし」
「ばれるとまずいの?」
「アイテムボックスが貴重だったらまずい。貴重じゃなければいいんだけど、まだどっちかわかならいからね」
「ふーん」
三人はそんな話をしながら王都南門に移動し通行税10ゴールドを払い、大通りの飲食店で昼食をとる。それから数十分後、三人は食事を終え飲食店から出てきた。
「さて、これからどうする?」
「俺は本屋に行きたいんだけど」
「ああ、大通りにあったわね」
「この世界の情報が欲しいんだ。本屋に行けば何か情報が手に入るかもしれない」
「わかった。じゃあ本屋に行きましょう」
三人は大通りを進んで本屋に入る。そこで冬雅は「グライン王国の歴史」「冒険者の心得」「王都ニルヴァナ観光名所」の三冊を購入した。
「宮本さんと佐々木さんは何か買わないの?」
「買わない。私、本読まないし、お金の節約したいし」
「私は上泉君に貸してもらおうかな」
「同時に三冊は読めないからね。じゃあ俺はまず冒険者の心得を読むよ」
冬雅はそう言ってサキに「グライン王国の歴史」と「王都ニルヴァナ観光名所」の二冊を見せる。
「じゃあこっちで」
サキは王都ニルヴァナ観光名所を手に取った。
「この王都はニルヴァナっていう名前だったのか」
「さて、どこで読もうか。噴水公園のベンチでもいいけど、宿屋に行って部屋を確保してそこで読むのがいいかな」
「じゃあ、次は宿屋ね」
その後、三人は噴水広場と王都南門の間にいくつかある宿屋のうち、そこそこのランクの宿屋を選んで二部屋確保し、一週間分の料金を払って部屋に入る。その後、サキと凛子が冬雅の部屋にやってきた。
次回 王都東の森へ に続く