第七十〇話 光の英雄
「うん。これで口元は隠せると思うけど、口から上を隠せるのが何かないか探してるんだよ」
冬雅はサキに黒色のマフラーを見せながらそう話す。
「なるほど。なら凛子みたいに眼鏡は?」
「俺は戦いの時、動きまくるから眼鏡は落っこちそうで」
「じゃあ魔道具屋に行ってみる? 何か顔を隠せるいいものがあるかも」
「あー、魔道具屋か」
「二人とも。買う物、決まった?」
冬雅とサキがいる場所に、フード付きの上着やマントなどをたくさん持った凛子がやってきた。
「それ全部買うの?」
「買うよ。お金はあるし、ほかの服に合わせて、色々変えたいし。ん? 上泉は……マフラー?」
「そう。あと魔道具屋にも、この後、行きたいんだ」
「いいよ。じゃあ、次は魔道具屋ね」
冬雅達は服屋で買い物を済ませた後、大通りにある魔道具屋にやってきた。
「私はスキルブックを見てくるわ」
「私は眼鏡があるか見てこよっと」
「何かいいのがあればいいんだけど」
冬雅達は分かれて店内を歩いていく。そしてサキがスキルブックが陳列されている棚の前まで来て商品を見ている。
「ええと、「望遠眼」は、遠くが見えるようになるスキルね。あと「加熱」も料理の時に使えるかな」
サキは望遠眼と加熱のスキルブックを手に取り、ほかにも何かないか探している。
「眼鏡見っけ! あっ、サングラスもある!」
凛子は眼鏡の魔道具が展示されている場所を見つけ、そこにあるネームプレートを読む。店内に展示されている魔道具のそばには、その魔道具の名前と金額と説明が書いてあるネームプレートがあった。その文字はこちらの世界の文字なのだが、凛子達は全員、言語理解のスキルを持っているので問題なく読めた。
「こっちは度がある……こっちはない。こっちが伊達眼鏡か」
伊達眼鏡にはガラスが透明の物や、色がついている物もあり、凛子はそれらの眼鏡のネームプレートを見る。
「ファッション用眼鏡。200G 軽量化魔法、硬化魔法付与済み。軽いので長時間使用しても疲れにくく、落としてもガラスが割れない」
凛子は展示してある黄色の伊達眼鏡を手に取る。
「おお! ほんとに軽い! いいね。これにしよ……あっ、こっちも可愛い!」
凛子は色々な形や色の眼鏡を手に取って何を買うか迷っている。そこへ店内を見回っていた冬雅がやってきた。
「佐々木さん、眼鏡あったの?」
「あったよ。サングラスまであるし」
「サングラス?」
冬雅は眼鏡と共に展示されているサングラスを見る。
「ほんとだ。この世界に紫外線という概念があるのか? いや、もしかして……」
「どうしたの?」
「たぶん、俺達より前に地球から来た人間がいるんだ」
「えっ? そうなの?」
「うん。その人がお風呂とかサングラスとか伊達メガネとか、色々な物をこっちで再現したんだと思う」
「へー、じゃあ、その人のおかげて、私達が快適に生活できてるわけね」
「そういうこと。ん? これは……防塵ゴーグル?」
冬雅は眼鏡が展示されている近くに、様々な色の防塵ゴーグルが展示されているのを見つけ、そのネームプレートに書かれた文字を読む。
「防塵ゴーグル。200G 軽量化魔法、硬化魔法付与済み。軽いので長時間使用しても疲れにくく、落としてもガラスが割れない」
「おお! 色がついてるのなら目を隠せるな。じゃあ……これにしよう」
「もういいや。欲しいのは全部、買っちゃおう」
冬雅は黒いふちに黄色のガラスの防塵ゴーグル、凛子は青色や赤色などの複数の眼鏡を持って、店員のいるカウンターへ持っていく。
「あっ、そうだ。買う前に重要なことを聞かないと」
冬雅はカウンターにいる中年の男性の店員に声をかける。
「すいません。聞きたいことがあるんですけど」
「何でしょうか?」
「この魔道具って、身に着けると装飾品扱いになるんですか?」
「ああ、それは装飾品枠には入らないですよ。戦闘用の魔道具ではないので」
「よかった。ではこれをください」
冬雅は代金を支払って防塵ゴーグルを購入し、凛子も複数の眼鏡を購入する。その後、サキも望遠眼と加熱のスキルブック購入し、店を出る。
「次は食料品を買っておこう」
冬雅達は食料や生活用品などを買って、戦いの準備を整えた。
「これだけ買ってもまだお金、残ってるけど、どうする?」
「後は、武器か防具か装飾品か……。大容量の魔法のかばんという手もあるわね」
「大きな買い物は、よく考えたいから明日にしよう」
「そうね。何を買うか、ゆっくり決めましょ」
その日の買い物はそれで終わりにして冬雅達は宿屋に帰っていった。そして次の日。サキと凛子は30000ゴールドで、200キロの魔法のかばんを買い、冬雅は睡眠無効、毒無効、麻痺無効、混乱無効の指輪が二個づつになるように買って、それをサキがアルケニーの魔石と合成して精霊王の指輪を二つ作り出した。それを冬雅はひとつを自分用にして、もうひとつを凛子に渡す。
「上泉に指輪もらっちゃった! これは薬指につければいいのかな」
「えっ?」
「凛子はこれが婚約指輪だって言いたいみたいよ」
「は?」
宿屋のサキと凛子の部屋で、冬雅が動揺している。
「い、いや。そういう物じゃなくて、敵にあわせて指輪を付け替えるというか、なんというか……」
「もう、上泉君をからかうのもそれくらいにして……」
「な、何だ。冗談か」
「ふふふ。この世界は娯楽が少ないから、いい刺激になったでしょ。それでこれからどうする?」
「戦いの準備は終わったから、後は明日を待つだけかな」
「じゃあ、今日の晩御飯は豪華な物にしようよ」
「なら凛子のおごりね」
「えっ、ちょっと! 何で!」
「上泉君の傷ついた心を癒すためでしょ」
「はー、わかったよ。指輪のお礼もかねて、ごちそうするよ」
冬雅達は豪華な晩御飯で英気を養いその日が終わる。そして次の日の朝になり、武装して出陣の準備を整えた冬雅達は、ベール騎士団の詰所にやってきて応接室に入る。するとリーナと、見たことのない冒険者風の男性二人と女性二人がソファーに座っていた。
「おお、来たか」
「リーナ師匠。おはようございます」
「うむ。おはよう。お前達はこっちに座れ」
「はい」
冬雅とサキと凛子は、リーナのとなりに座る。
「リーナさん。この子達がさっき言ってた弟子達ですか?」
リーナの対面のソファーに座っている美しい女性がそう聞く。
「ああ、こいつらが私の弟子の冒険者パーティ、ひかりのつばさだ。トウガ達にも紹介しよう。こちらはメイル国の王都をホームにしているSランク冒険者パーティ、覇竜の牙だ」
「Sランク! ああ、失礼しました。俺はひかりのつばさのトウガです」
「私はサキです」
「リンコです。こっちはコロポックルおじいちゃんです」
「ほほほ。よろしくの」
トウガ達は覇竜の牙の四人に挨拶する。
「私は覇竜の牙のシャルロッテです」
シャルロッテと名乗った女性は、美しいブロンドの長い髪の女性で、豪華な剣と鎧を装備している。
「俺はランスロット。シャルロッテの兄だ」
「私はエミリよ」
「僕はカイトです」
豪華な鎧を身に着けたイケメンの男性がランスロット、白いローブと豪華な杖を持っている美しい女性がエミリ、黒いローブを身に着けた若い少年がカイトと名乗る。
「シャルロッテの職業は英雄で、英雄は勇者と並ぶ最強の職業なんだ」
「英雄ですか」
「さらに光の剣技を使うから、彼女は光の英雄と呼ばれているんだよ」
「おお! 通り名っていうやつですね」
「リーナさん。恥ずかしいので、本人の前でその話は勘弁してください」
次回 グライン王国へ に続く