第六十八話 対魔族国軍 軍事同盟
「詳しい状況は?」
「はい! 魔族国軍はグライン王国の西の街道を進軍中で、王国軍は西グライン砦で迎え撃つそうです!」
「わかった。訓練中止! みんな集まってくれ!」
魔族国軍がグライン王国に侵攻を開始したという報告を聞いて、リーナが訓練場にいる騎士団員を集める。そして彼等と共に修行していたサキと凛子も、リーナと冬雅がいる場所にやってくる。
「出撃準備だ! 場所はグライン王国の西グライン砦! 敵は魔族国軍だ!」
「はっ!」
集まった騎士団員達は、リーナのその言葉だけですべてを理解し、出撃の準備に取り掛かる。
「ええと……」
「ああ、お前達の修行はいったん中止だ。私達は出撃しなくてはならないからな」
「わかりました」
(ついに魔族国軍が動いたか。俺達はどうすれば……)
「上泉君!」
「上泉!」
サキと凛子が、同時に冬雅の名前を呼ぶ。
「な、何?」
「私達はどうするの?」
「うん。どうしようか」
「それを上泉が決めてくれないと」
「うーん……」
冬雅は今回の魔族国軍との戦いに自分達も参加するかどうか迷っている。その様子を見て、サキがリーナに質問する。
「リーナ師匠。師匠達も魔族国軍と戦うんですよね」
「ああ。メイル国とグライン王国は、軍事同盟を結んでいるからな。私達も当然出撃する。それと北の聖王国と南のラヴァ帝国も同盟を結んでいるから出撃するはずだ」
「それだけ多くの国の軍隊がいるなら勝てますよね」
「当然だ! と、言いたいところだが、戦いは何がおこるかわからないからな」
「ということは、負ける可能性もあると」
ここで冬雅もリーナとサキの会話に加わる。
「魔族国軍側の四体の魔王が出てきたら厳しい戦いになるだろうな。まあ、こちらも色々考えているから、勝てるかどうかは五分五分だ」
「……では俺達も参戦したら勝率は上がりますか?」
「そりゃあ、上がるだろうが……お前達も戦う気か? 確かに冒険者ギルドが参戦依頼を出すだろうが」
「正直、悩んでます。グライン王国には友人がたくさんいるので」
「そうか。まあ、冒険者ギルドが参戦依頼を出しても、締め切るまで時間があるから、それまでに決めるといい」
「えっ? そうなんですか?」
「あっ、いや。作戦の詳細は秘密事項だから、これ以上詳しくは言えん。今のは忘れてくれ」
「……」
「宮本さん、佐々木さん。二人はどうしたい?」
「うーん。上泉君は、浅井君達が魔王を倒せると思う?」
冬雅とサキの会話を、リーナは注意深く聞いている。
「わからない。浅井達が今どれくらい強くなってるのかわからないから判断できない。けど、浅井達でも、四人も魔王がいるんじゃ絶対苦戦すると思う」
「私もそう思う。それにほかの戦闘職の人達もいたとしたら……」
「それ、やばいじゃん! なら私達も戦おうよ! せっかくこれだけ強くなったんだし」
「うん。私も凛子に賛成」
「わしも手伝うぞい!」
凛子の肩の上に乗っているコロポックルも力強くそう話す。
「ありがとう! おじいちゃん!」
「わかった。それじゃ、俺達も参戦しよう」
冬雅達は今回の魔族国軍との戦いに参戦することに決める。
「リーナ師匠!」
「お、おう。何だ?」
「さっき言ってた、冒険者ギルドの参戦依頼の締め切りがまだ先という件を聞きたいんですけど」
「うーん。まあ、お前達も戦うならいいか。実は今回の作戦の内容は、前から決まってたんだ。グライン王国側から、魔族国の動きが活発になってると報告があったからな」
グライン王国側は、周辺の同盟国に状況を説明し、いつでも出撃できるように要請していた。それでメイル国は、魔族国軍が動いた時どう動くのか、すでに決めていたのである。
「それで魔族国軍が侵攻してきたら、まずベール周辺の町や拠点から騎馬隊がここに集結することになっている。その騎馬隊が先発隊として出撃するんだ。予定では明後日に出発することになっている」
「なるほど。騎馬隊だけなら早く現地に行けますね」
「ああ。それと同時に歩兵部隊もこのベールに集結して、第二陣として出撃する予定だ。そこに冒険者ギルドの傭兵部隊も参加することになってるんだ」
「ああ、歩兵部隊なら現場に到着するまで、かなり時間がかかりますね」
「そうだ。このベールに歩兵部隊が集結するのも一週間くらいかかるだろ。それから歩いてグライン王国の西グライン砦に行くんだ。歩兵部隊の戦いは今日から三、四週間くらい後になるだろう」
「そんなにかかるんですか!」
「まあな」
「それでリーナ師匠は先発隊として出撃するんですよね」
「ああ」
「なら俺達もそれについていっていいですか? 俺達は馬を持ってますし」
「なるほど、そう来たか」
リーナは少し考える。
「わかった。なら予定どおりいけば明後日、出発だ。だからそれまでに戦いの準備をしておくといい」
「はい! ありがとうございます!」
魔族国軍と戦うことを決心した冬雅達は、べール騎士団の訓練場から出ていく。それをリーナとレイラが見ている。
「彼等が一緒で心強いですよ。今回の戦いに希望が見えてきました」
「そうだな。あいつらは目立つのが嫌だと言っていたが、一番目立つことになるだろうな」
「確かにそうですね」
「うーん。彼等が戦果を上げつつ、目立たなくて済む方法を考えてみるか」
それから約二十分後、場面は辺境の町ベールの冒険者ギルドに変わる。ここにベール騎士団の訓練場から来た冬雅達がいた。彼等は銀の地下迷宮での捜索依頼の件を知っている受付嬢に声をかける。
「すみません。ギルドマスターは戻ってますか?」
「あっ、トウガさん。いえ。まだです。でも午後には戻ってくると思います。先ほど銀の地下迷宮からアイアン・スピリッツと一緒にこちらに向かっていると連絡がありました」
「わかりました。では午後にまた来ます」
「はい。ギルマスが帰ってきたらそう伝えておきます」
ギルドマスターのことを聞いた冬雅達は、冒険者ギルドを出る。
「午後までまだ三時間くらいあるけど、どうする? お昼にはまだ早いし」
「魔族国との戦いのために買い物でもする?」
「買い物は、午後からギルマスに会って、救助依頼の報酬をもらってからにしよう」
「なら私、アンヴァルに乗る練習をしておきたいんだけど」
「ああ、そういえば、凛子はひとりで馬に乗ったことなかったか」
「そう。そのために乗馬用の服を買ったんだし」
「じゃあ、町の外に出て練習してみよう」
「その前に宿屋に寄って着替えてくるね」
冬雅達は一度宿屋に帰り、凛子が乗馬のために買った動きやすい服に着替え、辺境の町ベールを出る。
「よーし! アンヴァル召喚!」
「私も、ウルスラグナ召喚!」
「じゃあ、影馬召喚!」
冬雅達はそれぞれの馬を召喚する。そして冬雅とサキは、影馬とウルスラグナの背中に手を置いてジャンプして乗る。
「あっ。私、ひとりじゃアンヴァルに乗れないんだけど。鞍もないし」
「いや、たぶん乗れると思うよ。佐々木さんもレベルが上がって普通の人より能力値が上がってるから、馬の背中くらいならジャンプして乗れるはず」
「えっ? そうなの」
「おじょうちゃん。やってみるんじゃ!」
「わかった……えい!」
肩に乗っているコロポックルに背中を押されて、凛子はアンヴァルの背中に左手をそえたままジャンプして、そのままアンヴァルの背中に乗る。
「やった! 乗れた!」
「ヒヒーーン!」
凛子を背中に乗せてアンヴァルも嬉しそうに鳴く。
「よし。それじゃあ、街道を走らせてみよう」
「ええと、どうやって走らせるの?」
「この子たちは普通の馬じゃないから、走ろうって言えば走ってくれるよ」
「なるほど。じゃあアンヴァル! 走って!」
「ヒヒーーーン!」
アンヴァルは凛子を乗せて軽快に走り始める。
「私達も行くよ!」
「ヒヒーーン!」
「俺達も行こう!」
「ヒヒーーン!」
サキを乗せたウルスラグナと、冬雅を乗せた影馬も一緒に走り出す。そしてしばらく走っていると、
「アンヴァル! もっと速く!」
「ヒヒーーン!」
「ホホホ! これは速いぞい!」
「いけーー!」
乗馬に慣れた凛子は、アンヴァルの走るスピードを上げる。それにサキもウルスラグナでついていく。だが影馬に乗った冬雅は、前の二人についていけず、徐々に離されていった。
次回 名前 に続く