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第六十六話 新たな加護

「トウガはまず訓練用のかかし相手に、木剣でどれだけ動けるか試しててくれ」


 そう言ってリーナは訓練場に設置してある太い木の杭の訓練用のかかしを指さす。


「わかりました」


 冬雅は重鉄の籠手とブーツを装備したまま、訓練用のかかしの前まで歩いていく。


「これは……歩くのも大変だ。でもこれに慣れれば、もっと強くなれるはず!」


 冬雅は訓練用のかかし相手に木剣を振るって、どれだけ動けるか確かめる。


「よし、次はサキだ。おーい! レイラ!」

「はい!」


 リーナは騎士団の女性の名前を呼ぶ。すると乗馬の訓練をしていた女性が、馬に乗ってリーナの所へ走って来て馬から降りる。


「団長、どうしました?」

「レイラ。こいつはサキ。この子相手に木剣で馬上戦をして欲しい」

「馬上戦の模擬戦ですか」

「そうだ」

「わかりました」

「サキ。レイラは乗馬技術も優秀だが、彼女の馬はうちの騎士団の馬の中で一番強くて速い。彼女と模擬戦すれば、いい修行になるだろう」

「わかりました。よろしくお願いします」

「はい。こちらこそ。でも団長。この子もさっきの子と同じように強いんですよね。私で相手になりますか?」

「ああ、ハンデが必要か」

「いえ。私、乗馬しながらの戦闘はしたことないので、ハンデはいらないと思います」

「そうなのか。じゃあ、馬はどうする?」

「あっ、私は馬を召喚できます」

「おっ、さすがだな。じゃあ、まずレイラとサキで馬に乗って、敷地内を軽く走って来い。それでお互いの乗馬技術がわかるだろ」

「はい。では私の馬を呼びますね。ウルスラグナ召喚!」


 サキは召喚の魔法陣を作り出し、黄金の装飾品を身に着けた美しい白い白馬を召喚する。


「ヒヒーーーン!」

「おお! いい馬ですね」

「ウルスラグナって、まさか伝説の……」


 リーナはウルスラグナという名前に聞き覚えがあった。


(ウルスラグナは勝利を司る軍神……いや、その軍神にあやかって、馬に名前をつけたのか)

「リーナ師匠。どうかしましたか?」

「いや。何でもない」

「では走らせてきます」


 サキとレイラはそれぞれの馬に乗り、一緒に訓練場から出て詰所の敷地内を走っていく。


「よし。あとはリンコだな。魔法の修行はあっちだ」


 リーナはそう言って、凛子と一緒にこの広い訓練場の端にある魔法練習場に行く。そこには二メートルくらいの石柱が六本立っていて、その石柱にはルーン文字のようなものが刻まれていた。


「この場所からあの石柱を狙って魔法を放つんだ」

「なるほど」

「あの石柱は魔法防御力が強化されているから、簡単には壊れない。昔、私が全力で魔法を使って、一度だけ一本壊したくらいだ。だから全力で魔法を使っていいぞ」

「わかりました」

(なら私は、六本全部、狙ってみよう)

「魔力高揚! からの魔力チャージ!」


 凛子は賢者の杖を構え、魔力を高めつつ魔力をためる。


「うおっ!」

(こっちも強くなってる!)


 リーナは、凛子がレッドドラゴンと戦った時より魔力が強くなってることに驚く。そして凛子の魔力チャージが完了する。


「サンダーブレイズ!」


 凛子は魂をも感電させる特殊な雷を大量に作り出し、それを六本の石柱すべてを狙って解き放つ。その雷系最上級魔法が六本の石柱に命中した瞬間、轟音と衝撃が発生し、さらに六本の石柱すべてを粉々に破壊した。


「なっ! 馬鹿な!」

「やった! 全部、壊せた!」


 今の凛子の魔法は、レベルが上がって強化された魔力と装飾品や賢者の杖によって強化されていたので、とんでもない威力の魔法になっていた。


「リーナ師匠! 大丈夫ですか!」


 凛子の雷魔法の轟音に気づいたサキが、ウルスラグナに乗ってこの場にやってくる。


「あ、ああ。私達は大丈夫だ」

「ちょっとやりすぎちゃったみたいで」

「まさか異世界もの定番の、やりすぎたシーンを凛子がやるとは……」

「リンコ。お前の凄さはわかった。だが、これからはここで全力で魔法を使うのは禁止な。あの石柱、結構高いんだよ」

「あっ、はい」

「まあ、予備の石柱があるし、アイテムボックス持ちが飛び散った石柱の破片を回収すれば、すぐに元通りになるが」

「ああ、そうなんですか」

「じゃあ、リンコの魔法の修業は石柱を交換してからな。それと装飾品とその杖も使うのは禁止だ」

「はい」


 実は凛子は今の魔法の使用で、新たな加護を習得していた。


 破壊神シヴァの加護

 敵に与えるダメージが50%上昇


 凛子は雷魔法ですべての石柱を破壊したことにより、破壊神の加護を得たようだ。その加護を習得したことに気づくのは、彼女達が帰る時になる。


「じゃあ、頼んだぞ」

「はい」


 リーナが魔法を訓練していた騎士団員達に、予備の石碑を持ってくるように指示している。その時、レイラが馬に乗って戻ってきた。


「リ、リーナ団長……」

「ん? どうした?」

「彼女の馬、とんでもなく速いです。とても私では追いつけません」

「そうか」

(やはり彼女の馬も普通じゃないのか)

「では次は馬上戦の模擬戦を始めよう」

「はい」

「あっ、やっぱりハンデは必要だ。サキはスキルや魔力の使用は禁止な」

「わかりました」

「レイラは念のため防御系のスキルだけ使って戦ってくれ」

「はい」


 サキとレイラは広い場所に移動して、馬上模擬戦を開始する。次にリーナは、トウガがいる訓練用のかかしがある場所に行って話しかける。


「トウガ。その装備には慣れたか?」

「いえ。重くてまだ無理ですよ。まあ、普通に歩くくらいならできますけど」

「それで十分だ。よし。私が剣術を実戦形式で教えよう」


 冬雅とリーナは木剣を持って訓練場の空いてる場所に移動し、冬雅は木剣を中段に構える。


「トウガはスキルと魔力の使用は禁止だ。純粋な剣術だけで戦うんだ」

「はい」

「じゃあ、模擬戦を始めよう」


 冬雅は中段の構えから、すり足でリーナに少しずづ接近する。そしてあと一歩踏み出せばリーナに剣が届く範囲まで距離を詰めると、一歩踏み出して木剣を振るう。


「はっ!」

「やっ!」


 そのトウガの斬撃をリーナは木剣で弾く。さすがにスキルも魔力も使わず、さらに両手両足が重い状態では、リーナに冬雅の斬撃は届かなかった。


(くっ、手がしびれる……。魔力もスキルも使わずこの強さか)


 斬撃を弾いたリーナは、平然を装い木剣を構える。一方、冬雅はまた中段の構えを取り、一歩踏み出して今度は突きを放つ。


「うりゃっ!」

「はっ!」


 その突きをリーナは身をひるがえしてかわす。


「いい突きだ。なるほど。中段の構えから、斬りと突きの二択で攻撃できるわけだ」

「はい。俺が使える剣術はこれくらいです。あとは狙う場所を変えるくらいです」

「ふむ。敵の一番近い場所に剣を構えて、最短距離で斬りと突きが放てる。いい剣術じゃないか」

「ありがとうございます」

(見よう見まねの、なんちゃって剣道だけど……)


 冬雅に剣道の経験はなく、剣道をしている彼の友人の真似をしているだけだった。


「ただ実戦ではそれだけでは厳しいな。その剣術は一対一用だろ。実際は一対二とか、一対三とかの場面も出てくるからな」

「ああ、確かに」

「それとトウガは対人戦は慣れてないだろ」

「まあ、そうですね」

「対人戦では相手の急所を狙うのが普通だ。頭、首、心臓とかだな。さっきの三対一の模擬戦でも、相手の急所は狙ってないだろ」

「はい。対人戦の殺し合いは、あんまりやりたくないので」

「あまい考えだ」

(トウガのように強いのに優しい奴は珍しい。どういう人生を送ってきたのか)

「まあ、相手からしかけてきたら、俺も覚悟を決めて戦いますよ」

「お前はそれくらいでいいのかもしれんな。よし。じゃあ、修行を続けるぞ。今度は私からしかけよう。はっ!」


 冬雅とリーナは木剣で実戦形式の剣術の修行を続ける。そして時間が過ぎてお昼になり、午前中のベール騎士団の訓練が終わる。


「よし、今日はここまでだ。私は午後からは町の巡回だからな」

「はい。ありがとうございました」

「そうだ。お前達にこれをやろう」


 そう言ってリーナは、魔法のかばんから三つのバッジを取り出して冬雅に手渡す。



 次回 急報 に続く

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