第五十七話 銀の地下迷宮
「救助隊の皆さんですね。お待ちしてました」
銀の地下迷宮の入口にいた兵士達が、ギルドマスターに挨拶する。
「我々は、すぐにダンジョンに入ります」
「ではこちらをどうぞ」
兵士が小さな鐘の形の魔道具を四つ、ギルドマスターに渡す。
「ではアイアン・スピリッツ、不死鳥の火、ひかりのつばさ、それと俺が持つか」
冒険者ギルドマスターは、冬雅やジーク達にその魔道具を渡す。それが何なのか知らない冬雅が質問する。
「これは?」
「救難信号の魔道具だ。この銀の地下迷宮では、中に入る冒険者パーティにひとつずつ、これが渡されるんだ。そして救助が必要な時は、魔力を込めてこれを鳴らせば、今のような状況になるというわけだ」
救難信号の魔道具を使用すると、兵士達の詰所内にある救難信号受信の魔道具が反応し、冒険者ギルドに長距離通信の魔道具で連絡がいくようになっていた。これは高ランクの優秀な冒険者を失うことを防ぐための施策だった。
「なるほど」
「救難信号は今日の朝、届いたから、まだ間に合うはずだ。だがどこにいるのかまではわからない。おそらく迷宮内にある七つあるセーフエリアのどれかに避難してるはずだ」
「ではセーフエリアを目指して進めばいいんですね」
「ああ。それと迷宮内では、三つの班に分かれて進む。ひかりのつばさには俺と職員二人がついていく。お前達は実力はあるが、一応、Bランクだしな」
「ひかりのつばさの活躍は聞いてますよ」
「騎士団長の弟子の力を見せてもらうわね」
「はい。よろしくお願いします」
男性職員と女性職員のあいさつに冬雅が答える。ギルドマスターと彼等は元Aランクの冒険者だった。
「あと、俺達の救助活動は一週間だけだ。それで見つけられなかったら、ベール騎士団が救助を引き継ぐことになっている。だから迷宮内で一週間たったら引き上げてくれ」
「はい」
「わかりました」
「了解した」
各パーティのリーダーがそう答える。
「よし、じゃあ中に入るぞ」
救助隊は全員で銀の地下迷宮に突入する。
「よし、不死鳥の火は、一階から探索をしながら下の階に進んでくれ。ほかは最短ルートで地下へ進もう」
「了解」
「俺達はここを攻略済みなので、俺達が先導します」
「ああ、頼む」
不死鳥の火の四人は、ここで冬雅達と分かれて捜索を開始し、残りの救助隊はアイアン・スピリッツが先頭に立って一階の通路を進んでいく。銀の地下迷宮内は、壁や床や天井は石のようなブロックで作られていて、明かりもあるのでライトのスキルは使う必要はなかった。
「よし、戦闘はなるべく避けながら先に進もう」
アイアン・スピリッツのメンバーの弓使いの女性が、地図を見ながら進む道を指示し、ジークが先頭に立って先へ進んでいく。一方、冬雅も地図を開きながら歩き、さらにマッピングを発動する。
「この地図の情報をマッピングで取り込めればいいんだけど、無理かな」
冬雅はマップウィンドウに地図をかざしたり下側から広げたり色々試す。すると地図の情報がマップウィンドウに表示された。
「おっ! いけた!」
「何をしてるんだ?」
変な行動をしている冬雅を見たギルドマスターがそう聞く。彼にはマップウィンドウが見えてなかった。
「いや、マッピングに地図の情報を取り込めるか試してたんですよ」
「マッピング?」
ギルドマスターはマッピングを初めて聞いたような表情をしている。
(ん? マッピングはこちらの世界にはないスキルなのか)
「いえ、何でもないです」
冬雅は地図をアイテムボックスにしまい、マップウィンドウを表示したまま歩いていく。
「むっ、モンスターだ!」
「あいつは避けられそうにない。先制攻撃するぞ!」
ジーク達が、迷宮の通路の先にいるキマイラを発見する。キマイラは、ライオンやヤギなど複数の動物が合成された姿の獣型のAランクモンスターだった。
「オーラアロー!」
「コールドストーム!」
アイアンスピリッツの魔法使いの男性と弓使いの女性が、離れた場所にいるキマイラに先制攻撃する。さらに剣を構えたジークと、大きな盾を持った全身鎧の戦士の男性が突撃して物理スキルを繰り出し、キマイラと交戦して難なく倒した。
「さすがSランクに一番近いといわれている奴等だ」
「彼等に先導してもらえば安全ですね」
ギルドマスターと女性職員は、ジーク達の戦いを見て感心している。
「ジーク。倒したモンスターは魔石を取るくらいにしてくれ。解体している時間がもったいない」
「わかってますよ」
ジークは倒したキマイラから魔石を取り出してクリーンを使った後、弓使いがアイテムボックスに収納する。
「では先に進みましょう」
「ああ、道中、宝箱があったら中身はお前達が入手していいぞ。それくらいなら許されるだろう」
「わかりました」
その後も救助隊は銀の地下迷宮を進んでいき、上半身が女性の姿で、下半身がクモの姿のAランクモンスター、アルケニーや、一つ目で頭に一本の角を持つ巨人の人型のAランクモンスター、サイクロプスなどが出現したが、すべてジーク達が倒し、地下三階まで進む。
「まずは地下四階のセーフエリアを目指そう。そこからはトウガ達にも戦ってもらう」
「わかりました」
「ジーク! モンスターだ!」
「あれは……デュラハンか!」
地下三階の比較的広い通路でジーク達が発見したのは、黒い鎧を装備した黒い馬に乗り、黒い剣、黒い鎧を装備した人型のAランクモンスター、デュラハンだった。デュラハンはその体には首がなく、その左手でデュラハンの頭を抱えて持っているアンデッド族のモンスターだった。
「グオオオオオオオ!」
デュラハンと黒い馬は、全身から濃い闇のオーラを放出して身にまとう。
「こいつはAランクでも中位にいる奴だ。全力でいくぞ! 怪力!」
「堅牢!」
「魔力高揚!」
「感覚強化!」
ジーク達は四人全員が能力強化魔法を使い、デュラハンと戦闘を始める。
「くっ」
「何だ?!」
「こいつは……」
ジーク達は魔法や物理スキルで攻撃するが、デュラハンと黒い馬は無傷だった。
「おかしい。確かにデュラハンは強敵だが、ここまで強いわけ……」
「まさか、変異種か!」
変異種とは通常のモンスターが戦いを繰り返し、進化して強くなったモンスターのことである。モンスターが変異種に進化することは珍しく、めったに遭遇しないモンスターだった。
「グオオオオオオオ!」
デュラハン変異種が、闇のオーラをまとわせた剣を高速で振ると、闇のオーラが闇のやいばとなって、離れた場所にいるギルドマスターに向かって猛スピードで飛んでいく。その闇のやいばのあまりの速さに、ジーク達もギルドマスター自身もまったく反応できなかった。
「はっ!」
その闇のやいばが、ギルドマスターの直前まで飛んできた瞬間、近くにいたサキが彼の前に出て、光の盾でその攻撃を防ぐ。
「ふー、危なかった」
サキは光の装備のおかげで闇属性の攻撃を無効化できるので、闇のやいば受けても無傷だった。
「た、助かった」
「凄っ、今のまったく見えなかったわ」
「俺もだ」
ギルドマスターのそばにいた元Aランク冒険者だった二人の職員も、今の闇のやいばに反応できなかった。
「ぐああああ!」
「なっ!」
一方、デュラハン変異種と直接戦っているジーク達は苦戦していた。それを見かねた冬雅が、ギルドマスターに提案する。
「ギルマス! 俺達も参戦していいですか?」
「お、おう。頼む」
「はい! ドラゴンオーラ!」
「戦乙女の誓い!」
「魔力高揚! さらに魔力チャージ!」
冬雅達は能力強化スキルを使い戦闘準備が整う。その見たことのないスキルを近くで見ているギルドマスター達は驚く。
「それは能力強化スキルか?」
「そうですよ。あっ、佐々木さんは雷魔法をお願い」
「わかった」
「宮本さんの剣は光属性だから、闇のモンスターに大ダメージを与えられるよ」
「うん。高い分、役に立ってもらわないとね」
「じゃあ、俺が先制するから、続いて必殺技をお願い」
「わかった」
「ぐあああああ!」
アイアン・スピリッツの戦士の男性がデュラハン変異種に吹き飛ばされて、迷宮の壁に激突する。
「まずい! はっ!」
冬雅は轟雷の剣を構え、全力でデュラハン変異種に向かって突撃する。
次回 デュラハン変異種戦 に続く