第五十四話 レッドドラゴン討伐の報酬
「なるほど。弟子ですか。それなら確かに……」
「リーナさんの弟子になれば、人前でも全力で戦えるのね」
「なら私は賛成!」
冬雅、サキ、凛子はリーナの弟子になることに前向きのようだ。
「リーナさんは、俺達が弟子でもいいんですか?」
「ああ、かまわんぞ。お前達とは短い付き合いだが、悪い奴等じゃないことはわかる」
(何か秘密はありそうだが……)
「なら、それでお願いします」
「うむ。まあ、私が教えられることはなさそうだから、表面上の師匠と弟子ということになるけどな」
「それだけでもありがたいですよ」
「よし。その件はこれでいいとして、レッドドラゴンの死骸はどうするか……」
リーナは倒れているレッドドラゴンの死骸を見ながらそう話す。
「俺のアイテムボックスでも運べないですよ」
「ほう。トウガはアイテムボックス持ちか」
「はい」
「確かにレッドドラゴンの収納は厳しいな。では後でワイバーンの死骸と共に騎士団で回収しよう」
「お願いします。……と、その前に」
冬雅はレッドドラゴンの死骸に近寄る。それにサキと凛子も続く。
「討伐報酬でしょ」
「またスキルブックになる予感」
『ベリル山、ボス討伐報酬をひとつ選んでください。
アロンダイト×1
アイテムボックス収納二倍のスキルブック×1
ドラゴンオーラのスキルブック×1』
冬雅は選択できるアイテムを二人に話す。
「おっ、今回はスキルブックが二つ!」
「アロンダイトっていうのは?」
「レジェンドオブアルカディアでは、闇属性の剣だったよ」
「アイテムボックス収納二倍は、そのままのスキルだよね」
「そう。最後のドラゴンオーラは、すべての能力を一定時間上昇させるスキルだったはず」
「じゃあ、私の戦乙女の誓いと同じね」
「やっぱり、スキルブックのどっちかでしょ。強い武器はあの武器屋に売ってたし」
「うーん。アイテムボックスの容量が倍になるのは魅力的だけど、その前に強くなったほうがいいから、ドラゴンオーラの方がいいかな」
「ならそれにして上泉が使っていいよ。私は魔力以外が上がってもあまり関係ないし」
「わかった。ありがとう」
冬雅はドラゴンオーラのスキルブックを選択してアイテムボックスから取り出す。その様子をリーナか不思議そうな顔で見ている。
「ええと……何の話をしてるんだ?」
「ああ、俺のスキルの効果でボスクラスのモンスターを倒したら、討伐報酬をもらえるですよ」
「なっ、そんなスキル聞いたことないぞ!」
(やはり、この子達は普通じゃない。特別な存在だ)
「あっ、そうか。リーナさんもレッドドラゴンの戦いに参加したから、この討伐報酬をもらう権利があるんですが」
「いやいや、私は大したことはしてない。お前達で好きにすればいい」
「ありがとうございます。では、このスキルブックは俺が使います」
そう言って冬雅はスキルブックを開いて新たなスキルを習得する。
ドラゴンオーラ
使用者の攻撃力、防御力、魔力、速さ、回避率が
十五分間20%上昇
消費MP 30
「なるほど。ドラゴンオーラの効果はゲームと同じみたいだ。ん?」
冬雅は自分のステータスウィンドウを開いてスキル欄を確認する。
「やはり怪力と加速が消えてる。上位互換を覚えたからだろう」
冬雅はドラゴンオーラを習得した時、怪力と加速のスキルがなくなっていた。
「少年よ、わしのレベルはどうなったかの」
「ああ、ええと、コロポックルじいさんはレベル25だって」
「コロポックルじいさんは長いから、コロじいと呼ぶがいいぞい」
「じゃあ、俺も冬雅って呼んでよ」
「うむ。冬雅じゃな。覚えておこう」
「そういえば、おじいちゃんは自分のステータスボード見れないの?」
冬雅とコロポックルの会話に凛子が加わる。
「ステータスボードってなんじゃ?」
「自分の能力が見れるやつだよ。ステータス、オープンって言えば見れるよ」
「ならば……すてーたす、おーぷん!」
凛子の肩の上のコロポックルがそう叫ぶと、彼の目の前にステータスボードが表示される。
「ほえー、これがすてーたすぼーどかの! おお! 確かにレベル25じゃ!」
コロポックルは目の前の自分のステータスボードを初めて見て興奮している。
「おお! これはわしのスキルかの。ん? 知らないスキルがいくつかあるんじゃが」
「なんてスキル?」
「知らんのは言語理解と空気摂食と……経験値全員増加じゃ。あとエリアヒールが追加されてるの」
「じゃあ、ステータスボードのスキルの文字を指でさわれば、その効果が表示されるよ」
「なるほど、ではやってみるかの」
コロポックルは自分のステータスボードのスキル欄を色々タッチしてみて、そこに書かれていることを冬雅達に話す。
言語理解
人族の言葉の読み書きと会話ができるようになる
空気摂食
生きるためのエネルギーを空気から得ることができる
経験値全員増加
スキル所持者とその仲間全員の獲得経験値30%上昇
エリアヒール
一定の範囲内の対象者を小回復する回復魔法
消費MP 30
「……じゃ!」
「経験値全員増加! 仲間全員に効果があるのか!」
「それは凄い!」
「おじいちゃんがいるだけで、みんなの経験値が増えるって凄すぎ!」
「ほっほっほっ。元々、ヒールとキュアとハイヒールは使えたんじゃが、エリアヒールも使えるようになったわい!」
コロポックルは新たなスキル習得し喜んでいる。その会話を聞いていたリーナは、冬雅達に驚くことに疲れた様子で話す。
「お前達、ほかにこの場で何かやることはあるのか?」
「いえ。もうないですね」
「なら、帰ろうか」
リーナは目の前に地面に魔法陣を作り出し、この場所まで乗ってきた馬を召喚する。
「リーナさんも馬を召喚できるんですか」
「も、ということは、お前もか」
「はい。影馬召喚!」
「私も! アンヴァル召喚!」
冬雅と凛子は影馬とアンヴァルを呼び出して乗り、彼等は辺境の町ベールへ帰るため馬を走らす。その途中、ベリル山から撤退した騎士や冒険者達と合流し、ワイバーン討伐隊は無事、辺境の町ベールに帰還した。
「はー、やっと一息つける!」
「私は領主様に今回のことを報告しに行く。冒険者ギルドへの報告はジークがしといてくれ」
「はい。まかせてください」
「じゃあ、トウガ、サキ、リンコ。また後でな」
「はい! 師匠!」
リーナと騎士団は領主の館へ向かい、冒険者達は冒険者ギルドに向かう。冬雅達はここに来る途中、冒険者達や騎士達にリーナの弟子だということを話していた。
「今回の報酬は、ギルドに行けばもらえるのかな?」
「ワイバーンの死骸はまだ回収してないから、まだもらえないんじゃない」
「俺達も冒険者ギルドに行って、そのあたりを確認してこよう」
冒険者達は一緒に歩いていき、冒険者ギルドに到着して中に入る。今回の冒険者の中で一番ランクの高いジークが受付嬢と何か話して、その後、ギルドマスター室のある二階へ上がっていく。一方、冬雅達は受付嬢に今回の報酬のことを聞いてみた。
「今回の作戦の報酬は騎士団とも話さないと決まらないので、まだ支払えません。すみませんが、後日ということになります。早くてもワイバーンの死骸の運搬が終わってからになると思います」
「わかりました」
受付嬢の話を聞いて、冬雅達は冒険者ギルドから出る。
「はー、疲れたからお風呂いこ!」
「そうね。しばらくゆっくりしたいかな」
女性陣の要望で冬雅達は大衆浴場に行き、その後、夕食を食べて宿屋に戻り、その日は終わった。そして次の日の朝。冬雅達は宿屋の一階の食堂で朝ご飯を食べている。
「昨日の戦いは大変だったから、冒険者活動はしばらくは休みにしよう」
「やった! 休みだ! サキ、何する?」
「そうね……って、その前に一度確認しておきたいんだけど」
「何の確認?」
「私達の今後の行動の確認」
次回 新たな武器と防具 に続く