第五十三話 師匠と弟子
「ガアアアアアアアア!」
凛子の二度目の雷系最上級魔法がレッドドラゴンの全身を感電させて、再び大ダメージを与える。
「グオオオオオオオオ!」
だがレッドドラゴンはまだ倒れず、雄たけびを上げて気合を入れる。
「これだけダメージを与えても、まだ倒せないの?」
「さすがSランクに限りなく近いといわれるだけあるわね」
「いやいや、レッドドラゴン相手に一方的に攻撃してるお前達の方に驚いてるんだが……」
「はっ!」
まだ倒れないレッドドラゴンの姿を見た冬雅は、ブレスを使われないように急いでその背中に飛び乗って、先ほどと同じように体にまとわりつきながら、風魔の剣で赤いうろこを斬っていく。
「じゃあ、私もやるか。魔力チャージ!」
凛子は三度、魔力をため始める。
「お嬢ちゃん。今度は新しい召喚獣を呼んでみたらどうじゃ?」
「うーん。でもどんな能力を持ってるのか、わからないしなー」
「確かスパルナじゃったか」
「スパルナ?」
凛子とコロポックルの会話が聞こえていたリーナが、二人の会話に加わる。
「スパルナって風の霊鳥スパルナのこと?」
「風かどうかはわからないけど、鳥の召喚獣のスパルナだよ」
「なっ、君は召喚獣を呼べるのか?」
「まあね。私、召喚士だし」
「それは凄い!」
「リーナさん。それでスパルナを知ってるんですか?」
凛子達の会話に今度はサキが加わる。
「ああ、スパルナは強力な風を操る神話に登場する霊鳥だ」
「じゃあ、召喚したら風属性の攻撃をしてくれるんですか?」
「ほんとにあのスパルナを召喚できるならな」
「じゃあ、魔力チャージからのスパルナ召喚で、とんでもない風の攻撃ができるかも」
「やってみる価値はあるかもね」
「じゃあ、私は魔力チャージに集中するよ」
凛子は精霊の杖を掲げたまま、魔力をため続ける。
「竜牙一閃!」
一方、冬雅はレッドドラゴンの背中を白い破壊のオーラをまとわせた風魔の剣で斬ってダメージを積み重ねていく。それに対しレッドドラゴンは、彼を両手の爪で振り払おうとするが、やはり冬雅の動きをとらえることはできなかった。
「よし! 魔力チャージできた! じゃあ、スパルナ召喚!」
凛子は目の前の地面に召喚の魔法陣を作り出し、そこから体長が三メートルくらいの美しい緑色の羽根に覆われた霊鳥スパルナを召喚した。
「キゥオーーン!」
「これがスパルナ……綺麗……」
「スパルナ、風の攻撃できる?」
「キゥオーーーン!」
凛子の目の前に着地した霊鳥スパルナは、彼女の言葉に答えるように元気よく鳴いて、レッドドラゴンの方を向く。
「いけるみたい」
「上泉君! 急いで離れて!」
サキの言葉を聞いた冬雅は、急いでレッドドラゴンから離れる。
「スパルナ! お願い!」
「キゥオーーーーーーン!」
全身に魔力をまとったスパルナが飛び上がり、魔力をまとわせた翼を羽ばたかせる。すると発生した複数の風のやいばレッドドラゴンに向かって飛んでいき、さらにその風のやいばがどんどん大きくなって威力が上がっていく。
「ガアアアアアアアアアア!」
霊鳥スパルナが巻き起こした複数の風のやいばがレッドドラゴンに命中し、その全身を切り刻む。
「グオオオオオオオ!」
全身に複数の傷を負ったレッドドラゴンは、まだ倒れずに雄たけびを上げる。だがそれは断末魔の叫びだった。その後、レッドドラゴンの目から光がなくなり、そのまま地面に倒れて動かなくなった。そして凛子が召喚したスパルナは帰還し、冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
「や、やった! 倒した!」
「もう周りに敵はいない。ステータスボードを確認しよう」
上泉冬雅 17歳 人間
職業 忍者
称号 魔族キラー ドラゴンキラー
レベル 37
HP 3175/3175
MP 62/367
攻撃力 86(+75)
防御力 73(+35)
魔力 68
速さ 154(+10)
経験値 233415
スキル
言語理解 アイテムボックス
ゲートオブアルカディア 斬撃強化
異性運上昇 錬気斬 気配察知
後の先 加速 罠看破 気配遮断結界
クリーン 見切り 竜牙一閃
剣速強化 マッピング 怪力
危険察知 天羽々斬 影縛り 影馬召喚
軽業 分身
仲間
宮本サキ レベル37 姫騎士
佐々木凛子 レベル37 召喚士
コロポックル レベル25 妖精
装備
風魔の剣 攻+65 風魔法付与
ミスリルの胸当て 防+35 魔法耐性20%
怪力の指輪 力+10
疾風の指輪 速+10
睡眠無効の指輪 魔法やスキルによる睡眠状態を無効化
「おおお! レベル37!」
「いっきに4も上がったから、スキルも覚えたよ!」
「私も!」
冬雅、サキ、凛子はレベルが37に上がり、新たなスキルを習得した。
冬雅
分身
五分間、自分と同じ姿と能力値の実体のある分身を
一体作り出し、操作できる
分身はスキルの見た目の再現はできるが、それに効果はない
消費MP 35
サキ
聖竜斬
攻撃力の三倍の光属性の魔力の斬撃を放つ剣技
消費MP 35
凛子
ティターニア召喚
妖精の女王ティターニアを召喚する
消費MP 40
「分身か。やっと忍者っぽくなってきた」
「私は光の剣技だった」
「私は妖精の女王を召喚できるみたい」
「ああ、それと、とうとうドラゴンキラーの称号が来た!」
称号
ドラゴンキラー(竜族を倒した者に与えられる称号)
竜族に与えるダメージ10%上昇
「ええと……色々聞きたいことがあるんだけど」
冬雅達の様子を見ていたリーナが話し始める。
「レッドドラゴンを倒してレベルが上がるのはいいが、普通はとどめを刺した者が経験値をもらえるだろ。お前達、もしかして経験値を分配できるスキルか装備品を持ってるのか?」
「えっ、ええと……」
「それにリンコとかいったか。神話に出てくるスパルナを召喚って普通じゃないぞ。スパルナの存在は、今まで確認されたことがないんだ」
「ええと、か、上泉……」
「それだ。リンコはトウガをカミイズミと呼んでるだろ。それはあだ名か、家名か?」
「……」
「いやいや。それ以前に今のお前達の強さはBランクじゃない。とくに最初にトウガとサキが使ったスキルの威力は間違いなくSランク級だった」
「リ、リーナさん」
「それに私の知らないスキルもいくつも持ってるし」
リーナは興奮しながら、冬雅達が答える前に次々と疑問点を指摘する。彼等の力が、彼女の好奇心を刺激したようだ。
「それに……」
「リーナさん!」
「むっ、はっ」
冬雅に大きな声で名を呼ばれ、リーナは冷静さを取り戻す。
「あー、色々すまん」
「いえ、それで、俺達の力は内緒にして欲しいんです」
「ふむ。何か事情があるようだな。まあ君達は命の恩人だし、その力を秘密にするのはかまわない」
「はい。ありがとうございます」
「それはいいが、レッドドラゴンはどうするんだ? レッドドラゴンの討伐に成功したことが知られたら、君達は間違いなく目立つことになるだろ」
リーナはレッドドラゴンの死骸を見ながらそう話す。
「それは困ります。俺達は目立ちたくないんです」
「目立つと、厄介ごとに巻き込まれるからか?」
「はい。貴族や色々な組織に、ちょっかいを出されるのが嫌なんです」
「気持ちはわかる。でもこのレッドドラゴンの素材を売れば大金が手に入る。だが素材を売ったら、誰がどうやって倒したのかという話になる」
「ああ、確かにそうですね」
「じゃあ売れないの?」
「せっかく倒したのにね」
リーナは少し考えて、思いついたことを提案する。
「ひとつだけ解決方法がある。お前達が私の弟子ということにするんだ」
「弟子ですか?」
「そう。私の後ろ盾があれば、貴族や色々な組織は簡単には手に出せない。それに君達が強いのは私の弟子だからといえば、皆、納得できるだろ」
次回 レッドドラゴン討伐の報酬 に続く