第〇〇五話 武器屋へ
「究極魔法というのは、よくわからないけど……」
冬雅は凛子の職業選択ウィンドウの魔法使いの文字をタッチする。すると彼女の体が一瞬光った。
「私も光った!」
「凛子、確認、確認」
「はいはい。ステータス、オープン!」
凛子はステータスボードを表示して、職業欄が魔法使いになっていることを確認する。
「やった! これで私は魔法使いだ!」
さらに凛子の所持スキルに火魔法適応、雷魔法適応、ファイアーボムが追加されていた。
火魔法適応
火系魔法が使用可能
レベルアップで火魔法を習得する
雷魔法適応
雷系魔法が使用可能
レベルアップで雷魔法を習得する
ファイアーボム
爆発する火を放つ火系下級魔法
消費MP 15
「おっ、ファイアーボムだって! 私、火の魔法が使えるみたい」
「ん? ファイアーボム? 魔法使いの初期スキルはファイアーボールだったような……」
「ファイアーボール? 似てるけど違うよ。増えたのはファイアーボムと火魔法適応と雷魔法適応だよ」
「火魔法適応? そんなスキルはなかったような……」
冬雅はゲートオブアルカディアとこの世界のシステムが少し違っていることに気付く。
「もしかしてゲートオブアルカディアのシステムそのままじゃなくて、こっちの世界のシステムに矛盾しないように少し変化してるのかもしれない」
「ゲートオブアルカディア?」
冬雅の言葉を聞いて、サキがそう質問する。
「そう。ゲートオブアルカディアが俺の持つスキルの名前。俺の好きなゲームと同じ名前なんだけど、そのゲームのシステムが使えるようなんだ」
「ふーん。私もゲームはやるけど、それは知らないゲームね」
「私も知らない。まあ、最近はゲームしないからなあ。子供の頃はモンスターを集めるやつは好きで遊んでたけど」
サキと凛子は、ゲートオブアルカディアのことを知らなかったようだ。
「まあ、あまり売れなかったし有名じゃないからね。でも俺が一番好きなゲームなんだよ」
「ということは、上泉君がそのゲームを好きだったおかげで、私達が転職できたってことか。それが転職できるゲームでほんと助かったわ」
「ほんと、マジで感謝だよ。それで転職も出来たことだし、これからどうする?」
「えーと……上泉君は何かいい案ある?」
「その前に二人とも、国からもらった金貨が何枚か数えた?」
「数えてないよ。城の中では人前で数えづらいし、城を出てからは、この袋を持ってることは知られないほうがいいって鍋島君が言ってたし」
「そうそう。私もポケットに袋ごと入れたまま」
「そうか。俺も数えてないんだけど、触った感じ、四、五十枚くらいだと思うんだ」
冬雅はポケットに入れた金貨の入った袋の中に手を入れて金貨を触っている。
「うん。私もそのくらいだと思う。人目のない所で全部出して数えたいんだけどね。今思えば、もらう時に何枚入ってるのか聞いておけばよかったよ」
「確かに。なら次は宿屋に行く? 今日、泊る部屋も確保したいし」
(それにアイテムボックスの使い方を試してみたい。もしアイテムボックスが貴重なスキルだった場合、人前で使うのはまずい)
冬雅は異世界ものの漫画やアニメを色々見てきたので、アイテムボックスの重要さと危険さをよく知っていた。
「私は宿屋より、早く魔法を使ってみたいんだけど」
そう言いながら、凛子は右手を胸の前に出して、魔法を発動するようなしぐさをする。
「なっ、凛子、こんな所で使わないでよね」
「さすがに私も街中で魔法は使わないよ。早く街の外に出て戦ってみたいってこと」
「ちょっと待って。このままじゃ戦えないでしょ。まずは装備を整えないと」
「じゃあ、武器屋が先かな。鍋島達が入っていった武器屋に私達も行ってみる?」
「そうね。それでいいよね。上泉君」
「うん。武器屋は俺も行ってみたい。宿屋は後でもいいし」
「それじゃ、決まりね!」
サキと凛子が武器屋へ向かって歩いていく。冬雅はその後を考えごとをしながらついていく。
(クラスで人気が高い二人が俺の仲間になるなんて……やっぱり異性運上昇の効果なのかな……)
サキと凛子が話しかけてきたのは、冬雅が異性運上昇のスキルを習得した直後だったので、彼はそう考える。
(異世界でこれからひとりで生きていくと思ってたから、二人が仲間になってくれたのは嬉しい。でも、スキルの力で二人を巻き込んでしまったみたいで後ろめたい……。戦いと関係ない生活をおくるはずの二人が、俺のスキルのせいで危険な目にあったとしたら……)
冬雅は今の状況を素直に喜べなかった。
(それに異性運上昇って、恋愛運上昇とは違うのかな。同じような気がするし、違うような気もする。もし同じだったら、スキルの力で彼女を作るって、女性を洗脳してるみたいな気が……。いや、考えすぎか。元の世界では恋愛運が上がるお守りを持ってたとしても、それは悪いことじゃないし)
冬雅は色々な妄想で頭がいっぱいになる。するとサキが、後ろで考え込んでいる冬雅に気付き、声をかける。
「上泉君、どうしたの?」
「えっ、ええと……何でもない」
「なら早く入りましょ」
「う、うん」
凛子はすでに武器屋に入っていて、サキと冬雅がその後に続いていく。
(よし! 決めた! 俺は二人を絶対に守る! そして二人には手を出さない! これ以上、俺のスキルのせいで彼女達に迷惑はかけない!)
冬雅は心の中で固くそう決意する。だが、異性運上昇のスキルの効果が、
異性運上昇
パーティ内のリーダーの異性の運が上昇する
(運は隠しパラメーター)
ということを冬雅が知るのは、まだまだ先のことだった。
その後、冬雅、サキ、凛子は、噴水広場の武器屋に入る。すると、武器屋の一階にたくさんの武器や防具が値札と共に展示されていた。そして何人かの客が、その展示されている武器や防具を見ていて、一番先に入った凛子も展示されている武器を見ている。
「鍋島達はいないな」
「二階もあるみたいだから、そっちにいるのかもね」
武器屋の一階の奥に階段があり、「装飾品は二階へ」という看板が壁にあった。
「それで上泉君は何を買うの?」
「まずは剣かな。俺は侍だから日本刀があれはいいんだけど」
そう言って冬雅は店内を見渡す。だがここには日本刀は置いてなかった。
「さすがに日本刀はないか。なら普通の剣にするか」
「そういえば上泉君の侍ってどういう職業? 戦士と騎士とはまた違うの?」
「侍は攻撃力と速さが高くて、HPと防御力は戦士と騎士より低い、みたいな感じかな」
「へー、同じ前衛職でも色々あるのね」
「まあね。それで侍が強いのは『後の先』というカウン……」
「いらっしゃいませー」
その時、若い女性の店員が二人に話しかけてきた。
次回 グライン草原へ に続く