第四十五話 オーガキング
「オーガキング?」
「そう。この洞窟にいたオーガの上位種だよ」
冬雅はアイテムボックスからモンスター図鑑を取り出し、オーガキングのページを開く。
「耐性属性はないけど、弱点属性もないって」
「じゃあ、私の火も雷も使えるよね」
「うん。でも洞窟内だから、どっちも効く場合は雷の方でお願い」
「わかった」
「それで作戦は? Aランクなら、あのレッドワイバーンくらい強いんでしょ」
「大丈夫だよ。俺達はあの時より強くなってるし、転職もしたし、それに必殺技と最上級魔法もあるし」
「ああ、新しく覚えたやつね」
「そう。だからボス戦が始まったら、まず能力強化スキルを使って、それから俺が影縫いで動きを止めて、宮本さんと俺は必殺技、その後、佐々木さんは魔力チャージからの雷系最上級魔法を使って」
オーガキングは、力とHPは高いが魔力は低いので、影縫いで動きを止められるはずだと冬雅は考えていた。
「今までとそうは変わらないわね」
「もし怪我しても、わしの回復魔法で治してやるぞい」
「そうそう。必殺技だけじゃなく回復魔法もあった」
「なるほど、これならAランクモンスターとも戦えそうね」
「でも油断はできないよ。たぶん、一撃づつでは倒せないだろうから、佐々木さんの魔法の次は、臨機応変に戦おう」
その後、セーフエリアで十分休養を取り、冬雅達はセーフエリアから出て大地の洞窟の最深部へ向かう。するとすぐに洞窟内の広い場所に到達した。その場所の壁は光を放っていて、ライトを使わずに戦える場所だった。
「ここがボス部屋?」
「敵がいないよ」
「もう少し進んでみよう」
冬雅達は広い場所に踏み入り、奥の方へ進んでいく。すると一番奥に宝箱があり、その前に大きな魔法陣が現れた。
「何か出てくる!」
すると魔法陣から身長四メートルくらいある筋肉質な体で、緑の肌、頭に二本の角を持つ人型のモンスターが現れた。そのモンスターは、手に巨大な斧を持っている。
「あれがオーガキングだ!」
「グルルルルルル!」
魔法陣から出現したオーガキングは冬雅達を認識し、巨大な斧を構えて三人をにらみつける。オーガキングはオーガが進化したモンスターで、強靭な肉体を持つAランクモンスターである。持っている斧は大地の斧と呼ばれる魔力が宿っている武器だった。
「加速! 怪力!」
「戦乙女の誓い!」
「魔力高揚! そして魔力チャージ!」
冬雅達は能力強化スキルを発動し、その後、冬雅とサキはオーガキングに向かって走り出す。
(おっ、宮本さんのスピードが上がってる!)
戦乙女の誓いの効果で、速さの能力値が上がっているサキに合わせて冬雅も走っていく。
「グオオオオオオオオオオ!」
接近してくる二人に対し、オーガキングは口を大きく開けて雄たけびを上げる。この雄たけびは、レベルの低い者に恐怖を与え、スタン状態(一時的に行動不能)にするスキルだった。
「むっ!」
冬雅とサキはその大きな声に少し驚いたが、それに恐怖せずに走り出す。彼等はレベルが30になり、Aランク相当の実力を得たので、オーガキングの雄たけびに恐怖することなく動くことができた。
「ガアアアアア!」
その接近してきた冬雅とサキに対し、オーガキングは大地の斧を振り上げる。それを見た冬雅は、走りながら右手で魔力手裏剣を作り出す。
「影縫い!」
冬雅がオーガキングの足元を狙って魔力手裏剣を投げ、それがオーガキングの影に突き刺さる。
「グガッ!」
するとオーガキングは大地の斧を振り上げたまま動けなくなった。その隙を突いてサキがオーガキングに接近し、特殊な魔力をまとわせたブラックメタルソードで斬撃を放つ。
「ソウルブレイク!!」
サキは魂をも砕く必殺技を、動けなくなったオーガキングの左足に放つ。今の彼女は戦乙女の誓いの効果により攻撃力が強化されていたので、その一撃はまさに必殺技と呼ぶのにふさわしい威力だった。
「ガアアアアアア!」
「天羽々斬!!」
さらに冬雅がオーガキング右足を狙って超高速の剣技を何度も放つ。それは彼の剣速強化と怪力のスキルの効果でさらに剣速と威力が上がり、とても目で追えないほどの必殺の斬撃になっていた。
「グアアアアアア!」
サキと冬雅の必殺技を受け、オーガキングは両足に大ダメージを受けて膝をつく。それを見た冬雅とサキは、急いでオーガキングから離れる。その後、魔力チャージが完了した凛子が、雷撃の杖を掲げて雷系最上級魔法を放つ。
「サンダーブレイズ!」
凛子が放った相手の魂をも感電させる特殊な雷が、ひざをついているオーガキングに直撃する。その雷は魔力チャージと魔力高揚と雷撃の杖の効果でとてつもない威力の電撃になっていた。
「ガガガガガガガ!」
全身が感電したオーガキングは、大ダメージを受けて意識がもうろうとしている。
「グオオオオオオオ!」
だがオーガキングは雄たけびを上げながら、斧を杖替わりにして立ち上がる。この雄たけびは敵に恐怖を与えるのが目的ではなく、自分を奮い立たせるためのものだった。
「やはりまだ立ち上がるか!」
冬雅はミスリルの剣を中段に構え、サキはブラックメタルシールドを構えてオーガキングと対峙する。
「お、お嬢ちゃん達……とんでもないのう」
凛子の肩にいるコロポックルが、冬雅達の強さ見て驚いている。
「でしょ。でもまだ終わらないみたいよ。だから、魔力チャージ!」
凛子は次の魔法のため、電撃の杖を構えて再び魔力をため始める。
「グオオオオオオ!」
一方のオーガキングは、サキの方を向いて大地の斧を構える。すると大地の斧が赤いオーラに包まれる。
「むっ、攻撃スキルか」
オーガキングはサキへ向かって突撃し、赤いオーラをまとった巨大な斧を振り上げる。これは「大地割り」という斧系の攻撃スキルだった。
「影縫い!」
その時、冬雅は再びオーガキングの足元を狙って魔力手裏剣を投げ、それが影に命中する。するとオーガキングは、また斧を振り上げたまま動きが止まった。
「グガッ!」
「ハイオーラブレード!」
「ガアアアア!」
「竜牙一閃!」
「グアアアア!」
動きが止まったオーガキングに、サキと冬雅が連続で攻撃してダメージを与える。
「これは……もしかしてハメ技……」
「サンダーブレイズ!」
「ガガガガガガ!」
さらに凛子の魔力チャージで強化された雷系最上級魔法がオーガキングに命中し、それが致命傷になってオーガキングは前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。そして冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
「やった! 倒した!」
「レベルが上がった!」
「スキルを確認してみよう」
冬雅達はステータスボードで、レベルとスキルを確認する。
「レベルが32になってる!」
「新しい召喚魔法を覚えた!」
「私は……新たなスキルはないか」
「俺もなかった」
凛子は新たにアンヴァル召喚を習得した。
アンヴァル召喚
聖獣アンヴァルを召喚する
消費MP 30
「しかし、この影縫いはヤバい。ボス戦なのに一方的に攻撃できてしまう。ゲームだったら、ボスには状態異常系のスキルは効かないのに……」
一般的なゲームでは、ボスモンスターに麻痺や睡眠などの状態異常が効いてしまうと簡単になってしまうので、状態異常系のスキルは効かないものが多かった。
「上泉、どうしたの?」
「いや、俺の影縫いが、ほかのボスにも効けは安全に戦えるかなと思って」
「ああ、確かに相手を動けなくするのはヤバいかもね」
「影縫いは、俺の魔力より低い魔力のモンスターにしか効かないから、魔力が低い系のボスがいるダンジョンを狙えば安全に戦えると思う」
冬雅が買った「メイル国 冒険者マップ」には、メイル国内にあるダンジョンの大まかな情報と、そのボスモンスターの名前も載っていた。
「あの手裏剣のやつ、凄いスキルじゃん」
「でも忍者の魔力はあまり高くないから、影縫いが有効な奴はそんなにいないと思うし、影縫い自体が効かない敵もいるかもしれない。だから過信はできないよ」
「強いスキルだけど制約もあるのか。まあ、そのことはいったん置いといて、早くあの宝箱を開けたいんだけど」
そう言ってサキは洞窟の奥にある宝箱を指さす。
次回 アンヴァル召喚 に続く