第四十一話 装飾品合成
「装飾品合成には、Bランク以上のモンスターの魔石が必要だって」
サキは表示された文字を、冬雅と凛子に伝える。
「Bランクの魔石なら……はい。これ」
冬雅はアイテムボックスからアイアンゴーレムの魔石を取り出してサキに渡す。
「ありがと。Bランクの魔石はこれひとつだけよね。じゃあ、一回だけ合成できるよ」
「それなら、守りの指輪二つでやってみて」
「わかった」
サキはテーブルの上にアイアンゴーレムの魔石を置き、そのそばに守りの指輪を二つ置いて、両手をかざして装飾品合成を発動する。すると目の前にウィンドウが表示され、
守りの指輪 防+5
守りの指輪 防+5
アイアンゴーレムの魔石
MP20
合成しますか?
はい いいえ
と表示され、サキは、はいを選択する。すると二つの守りの指輪とアイアンゴーレムの魔石が魔力に包まれて光り出し、その三つがテーブルの上でひとつに重なってその光が消えると新しい指輪が現れ、さらにウィンドウが表示された。
防護の指輪 防+10
「これが装飾品合成か!」
「なんか凄そうなのができた!」
「防護の指輪だって。防御力が10上がるみたい」
(手先の器用さは関係なかった……)
サキは「はい」を選択しただけで合成に成功したので、そう感じている。
「じゃあ、宮本さんがその防護の指輪と毒無効の指輪と生命の指輪を装備して。俺は力の指輪二つと速さの指輪。佐々木さんは魔力の指輪かな」
「わかった」
「私は前と変わらずひとつかー」
「佐々木さんに必要な装飾品が手に入ったら使ってもらうから」
「わかってるって。私に力の指輪とか速さの指輪とか必要ないし」
「なら、今回の報酬で結構稼げたから、武器屋に行って装飾品、買ってみる?」
装飾品がひとつしかない凛子のために、サキがそう提案する。
「ああ、それ、いいね」
「あと、これからは合成に必要なBランクモンスターの魔石も必要だよ」
「なら明日、Bランクダンジョンに行ってみるか」
「じゃあ、今日は武器屋ね」
「ああ、その前に戦利品を換金してこよう」
冬雅達は宿屋を出て、冒険者ギルドで試練の塔で手に入れた宝石やモンスターの死骸を売り、6200ゴールドを手に入れてから大通りの武器屋にやってきた。
「結構、種類があるのね」
「指輪じゃないのも結構あるじゃん」
武器屋には指輪、首飾り、イヤリング、ベルトなど色々な種類の装飾品が、値段と効果が書かれたカードと共に展示されている。
「私の装備枠は二つ余ってるから、二つ買おう」
「魔力の指輪を二つ買って魔力を上げるか、それより状態異常無効系の方がいいのか」
状態異常無効系の装飾品は、毒無効の指輪、睡眠無効の指輪、混乱無効の指輪、麻痺無効の指輪などが展示されていた。
「状態異常無効系は値段の桁がひとつ違うよ」
「それだけ重要な装飾品ってことだよ」
「じゃあ、今回は魔力の指輪でいいよ。後で合成して強くなれるし」
「それもそうね」
凛子は800ゴールドの魔力の指輪を二つ購入し、武器屋を出てその日の冒険者活動を終える。そして次の日、冬雅達はダンジョンに入る準備をしてから、辺境の町ベールから西方向へ歩いて二時間くらいの場所にある大地の洞窟の入口に来ていた。
「ここがBランクダンジョンの大地の洞窟か」
「ここには転移の石碑がないよ」
凛子は大地の洞窟の入口付近に転移の石碑がないことに気づく。
「この洞窟の中には、モンスターが近寄れないセーフエリアがあって、そこで休憩や野営できるんだって」
「へー、そんなのがあるんだ」
「あと、最深部にいるボスを倒せば、入口に瞬間移動できるらしいよ」
冬雅は「メイル国 冒険者マップ」に載っていた情報を二人に話す。
「それはいいわね」
「ここで戦ってれば、たぶんレベルが30になれると思う。ゲームだと30になったら、上級職に転職できるんだ」
「上級職?」
「そう。ゲームと同じなら、宮本さんは聖騎士か暗黒騎士のどっちかを選べるよ」
「聖騎士と暗黒騎士……どっちも強そう」
「うん。聖騎士は回復魔法と光系のスキルを使えて、暗黒騎士は闇系のスキルを使える」
「私は?」
「佐々木さんは賢者か召喚士だよ。賢者は回復魔法と攻撃魔法を使えて、召喚士は召喚獣を呼び出して戦わせることができるんだ」
「ほー。どっちも凄そう。それで上泉は?」
「俺は剣聖か忍者なんだけど、忍者を選ぶよ。二人もレベル30になる前にどっちがいいか考えておいて」
「わかった」
「じゃあ、洞窟に入ろう。マップ、オン!」
冬雅達は大地の洞窟の入口から中に入る。すると洞窟の奥の方は薄暗く、このまま進むのは危険だった。
「佐々木さん。ライトのスキルをお願い」
「はいよー。ライト!」
凛子はライトのスキルを発動し、彼等の周囲が明るくなる。
「松明とかランタンとか持ちながら戦うのは大変だから、これは助かるよ」
「でも魔力がなくなると消えちゃうから、ずっとは無理だよ」
「その時は魔石のランタンがあるから大丈夫。それにマナポーションもあるし」
「なら節約しなくてもいいか」
冬雅達は洞窟のマップを作りながら進んでいく。ここには身長が二メートル以上あり、頭に角を持ち筋肉質の人型のモンスター、オーガや、呪いを操る巨大な黒色の蜘蛛のモンスター、ナイトメアスパイダーなどのBランクモンスターが出現したが、冬雅達は能力強化スキルを駆使して問題なく倒し、その死骸を回収しながら進んでいく。そして探索開始から約二時間後、最初のセーフエリアに到着した。
「ここがセーフエリアか」
「この女神像のおかげでモンスターが寄ってこないのかな」
セーフエリアは洞窟内の小部屋にあり、その中心には石製の女神像が立っている。さらにセーフエリアの壁が発光していて、ライトを使わなくても十分な明るさだった。
「女神像の周囲にいると、HPやMPの自然回復速度が上がるって本に載ってた」
「じゃあ、休憩しましょう」
冬雅達はここで飲み物や軽食を食べて休憩する。
「ふー、一息ついた!」
「Bランクダンジョンだけあって、宝箱が当たりばかりだったわ」
冬雅達はここに来るまでにハイポーション、クリエイトウォーターのスキルブック、睡眠無効の指輪、ルビーを手に入れていた。
「そういえば、私達ってBランクになったけど、ランクを上げると何かいいことがあるの?」
凛子がふと思いついたことを冬雅に聞く。
「ランクが上がると、高収入の依頼を受けれるのと、ギルドでの扱いがよくなるのと、あとはSランクまで上がると貴族と同じ身分になれるみたい」
「貴族!? それって凄いんじゃない?」
「そうだけど、俺達はしばらくはランクを上げないほうがいいと思う」
「どういうこと?」
「Aランクになると、貴族とか、どこかの組織とかから勧誘があるらしい。それでその勧誘を断ったら、いやがらせを受けるかもしれない」
「ああ、異世界ものの定番の展開ね」
異世界ものの漫画や小説を知っているサキは、冬雅の話に納得する。
「はー、異世界の冒険者も色々大変なのね」
「うん。いちおうBランクなら、周囲からなめられないし、かといって目立たないから、一番安全だと思う」
「ランクアップ試験でやらかしてるけどね」
サキはCランクアップ試験の時、ギルドマスターや見学していた冒険者達が自分達の力に驚いてたことを指摘する。
「ああ、確かにあの時は失敗した。よく考えないで全力で戦っていいって言っちゃって」
「まあ、終わったことはしょうがないよ。これからは人前ではBランク相当の力で戦ってれば、何とかなるでしょ」
「そうしよう。じゃあ、そろそろ攻略を再開しよう」
冬雅達は最初のセーフエリアから、さらに洞窟を進んでいく。
次回 大地の洞窟 に続く