第四十〇話 アイアンゴーレム
次の日の午前中、冬雅達は試練の塔の十二階に戻ってきた。彼等は辺境の町ベールから試練の塔に来るまでにEランクやDランクのモンスターとの戦闘もあったが、まったくHPとMPを消費せずここまで来ていた。
「さあ、ボス戦だ。ここのボスはアイアンゴーレムらしい」
「下にいたストーンゴーレムの鉄バージョンだよね」
「そう。鉄といっても、俺のミスリルの剣と宮本さんのブラックメタルソードなら、魔力を込めれば斬れると思う」
「鉄なら雷魔法、効くよね」
「たぶん」
「じゃあ、今回は雷系上級魔法を使ってみよ」
凛子は火炎の杖を魔法のかばんにしまい、代わりに雷撃の杖を取り出す。
「ボス部屋に入ったら、いつもの戦い方でいいよね」
「うん。最初に能力強化スキル、次に佐々木さんが魔力チャージで、俺と宮本さんは敵に突撃」
「わかった」
冬雅達は準備を終え、ボス部屋の扉を開いて中に入る。すると広い部屋の中央に身長二メートル五十センチくらいの体が鉄製の人型のモンスター、アイアンゴーレムが立っていた。アイアンゴーレムはBランクモンスターで、その胸部分に巨大な魔石が埋め込まれている。
「グゴゴゴゴ」
冬雅達がボス部屋に入ると、アイアンゴーレムがゆっくりと動き出す。
「加速! 怪力!」
「堅牢!」
「魔力高揚! からの魔力チャージ!」
「はっ!」
冬雅とサキが一緒にアイアンゴーレムに向かって走り出す。今回はサキと連携するため、冬雅は彼女の移動速度に合わせて一緒に走る。
「竜牙一閃!」
冬雅はミスリルの剣に白い破壊のオーラをまとわせ高速の斬撃を放つ。するとアイアンゴーレムの左足の関節部分を切り裂いた。
「グガッ!」
「オーラブレード!」
さらにサキが態勢が崩れたアイアンゴーレムを狙ってブラックメタルソードに魔力をまとわせ斬撃を放つ。するとアイアンゴーレムの右足の関節部分を切り裂いて動けなくした。
「グゴゴゴゴゴ」
「二人とも! 離れて!」
凛子のその言葉を聞いて、冬雅とサキは急いでアイアンゴーレムから離れる。
「サンダーストーム!」
凛子は雷撃の杖を掲げながら雷系上級魔法を発動する。すると雷撃の杖から、けたたましい雷鳴と共に大量の雷が放たれ、その雷が嵐のように激しく飛んでいく。
「ガガガガ!」
その電撃がアイアンゴーレムに命中し、全身が感電したアイアンゴーレムは、煙を上げながら仰向けに倒れて動かなくなった。そして冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
「やった! レベルが上がった」
「27になった!」
「スキルはどうかな?」
三人はステータスボードのスキル欄を確認する。だが彼等は何も習得してなかった。
「スキルはなしか」
「それより、思ったよりボスが弱かった」
「能力強化スキルのおかげだよ。というか佐々木さんの魔法の威力が凄いんだけど」
「でしょ。これで上級魔法もダブルマジックで使えればよかったんだけど」
ダブルマジックは、消費MPが30以下の魔法が対象なので、上級魔法は二つ同時には使えなかった。
「そうだ。討伐報酬を確認しないと」
冬雅は倒れているアイアンゴーレムに近づく。
『試練の塔、ダンジョンボス討伐報酬をひとつ選んでください。
ミスリルの盾×1
ダイヤモンド×1
装飾品合成のスキルブック×1』
「これはスキルブック一択かな」
冬雅はサキと凛子に報酬候補を伝え、二人は彼の選択に同意し、アイテムボックスから装飾品合成のスキルブックを取り出す。
「装飾品合成って、この指輪を合成できるってこと?」
「たぶん。二つを合成して強い装飾品を作れるスキルだと思う」
「それはいいスキルね。誰が習得する?」
「生産系のスキルだから、手先が器用な人がいいと思う」
「じゃあ、サキね。サキは料理が得意だし」
「生産系なら、凛子の香水作成のスキルもでしょ」
「私、そのスキル持ってるだけで香水なんて作ったことないし、手先器用じゃないし」
「俺も不器用なほうだから、宮本さんが使って」
「そういうことなら、私が覚えてみようかな」
サキはスキルブックを開き、装飾品合成を習得した。
「後はこのアイアンゴーレムだけど」
「ストーンゴーレムと同じように魔石だけ持ってくの?」
「いや。これは回収しておこう」
冬雅は倒れて動かなくなったアイアンゴーレムの体をアイテムボックスに収納する。彼等は下の階でストーンゴーレムを何体か倒していたが、その体は石製で重く、さらに高く売れないので、胸部分の魔石だけ回収していた。
「あれ、宝箱だよね。開けてみよ」
サキが部屋の奥にある宝箱に気づき、三人はその宝箱を開ける。この宝箱はアイアンゴーレムを倒さないと開かない宝箱で、これが本来のボス討伐の報酬だった。
「指輪が二つ入ってる!」
「アイテムボックスに入れて名前を確認してみよう」
毒無効の指輪×1
生命の指輪×1
「毒無効の指輪はその名の通り、毒が効かなくなる指輪だろう。生命の指輪の方は……最大HPが上がるのかな」
冬雅はステータスボードを表示して、三つ装備してる指輪のうちのひとつを外し、アイテムボックスから取り出した生命の指輪をはめてみる。
「おお、これはHP自動回復だ!」
生命の指輪は、HPが減っている時、時間経過でHPが少しづつ回復する能力を持っていた。
「これは宮本さんが使ったほうがいい。ああ、毒無効の指輪も宮本さんが使ったほうがいいよ」
「装飾品は三つまでだよね。どれを装備……あっ、そうか。装飾品合成!」
「なるほど、装飾品が増えてきたから、合成すればもっと強い装飾品になるはず」
「ボスの討伐報酬って、ちょうど私達が必要な物が選べるようになってるんじゃないの?」
凛子はこれまでのボス討伐報酬から、そのことに気づく。
「そうかもしれない。これは次のボスの討伐報酬も楽しみだ」
「じゃあ、ベールに帰りましょ。装飾品合成は落ち着いた所で試したいし」
「まだ午前中だけど、今日はもう冒険者活動は終わりにしようか」
「さんせー!」
冬雅達は転移の石碑を使って塔の一階の入口に戻り、一時間くらいかけて辺境の町ベールに戻る。そして三人は、宿屋のサキと凛子の二人部屋に入る。
「じゃあ、私達が持ってる装飾品をテーブルの上に置いてみて」
冬雅達は装備している指輪をすべて外し、アイテムボックスに収納してあった物も、すべてテーブルの上に置く。
「力の指輪と守りの指輪が二個、あとは速さの指輪、魔力の指輪、毒無効の指輪、生命の指輪ね」
「それで、どれとどれを合成するの?」
「力の指輪が二個あるから、まずそれで試してみたら」
「わかった」
サキはテーブルの上の力の指輪を二つ手に取り、装飾品合成のスキルを発動する。すると彼女の目の前にウィンドウが現れ、
「この合成には、Bランク以上の魔石がひとつ必要です」
と表示された。
次回 装飾品合成 に続く