第三十四話 辺境の町ベール
「み、宮本さん」
サキに急に手を握られ、冬雅はドキドキする。いつも朝と夜にサキと凛子に同時に手を握られていたが、今回はサキひとりで、さらに何の心構えもなかったので、彼は心拍数が一段階上がっていた。
「どう? 手の震え、止まった?」
「う、うん」
「なら良かった。それとまだお礼を言ってなかった。さっきはありがとう」
「う、うん」
冬雅は動揺していて、何を話していいかわからなかった。
「ほほう。これがリアルラブコメか!」
冬雅とサキの様子を見ていた凛子がにやにやしている。その彼女の言葉を聞いてサキは手を離し、顔が赤くなる。
「いいもの見させてもらったわー」
「ちょっと、凛子!」
「ふふふ。さて、からかうのはこのくらいにして、上泉に聞きたいことがあるんだけど」
「な、何?」
「あのBランクの人達、私達の強さに驚いてたよ。でも私達のレベルってBランク相当なのよね。おかしくない?」
凛子の質問に冬雅が少し考えてから答える。
「ああ。たぶん、スキルのおかけだと思う。俺達の持つスキルが特別なんだよ」
「それは上泉君のゲートなんとかのスキルのおかげ?」
「そう。ゲートオブアルカディアね。そのシステムのおかけで強力なスキルを入手できてるから、レベルが同じでも強いんだと思う」
「そういえば、あの人達、能力強化スキル使ってなかったような」
サキは、白狼の牙が盗賊と戦っている場面を思い出す。
「なるほどねー。あっ、そういえば、レベルが上がったから新しいスキルを覚えたかも」
「そうだった」
「私も確かめよ」
冬雅、サキ、凛子はステータスボードを表示する。
「来た! ダブルマジックだって」
「私はなし」
「俺もなし」
凛子はダブルマジックを習得し、冬雅と凛子は能力値が上昇しただけだった。
ダブルマジック
消費MP30以下の魔法を二つ同時に発動できる
消費MPは同時に発動させた魔法の合計になる
「ダブルマジックは、消費MP30以下の二つの魔法を同時に使えるんだって」
「おお! ということは合成魔法が使えるかも」
「合成魔法?」
「例えば火と風でファイアーストームとか、風と氷でアイスストームとか」
「私は火と雷が使えるから……どうなるの?」
「ファイアーサンダー……ライトニングフレイム……何か意味あるの?」
「火と雷じゃ進む速さが違いすぎるから、合成してもどうなるのか」
サキと冬雅は、火と雷が合成された様子を想像するが、何かしっくりこなかった。
「えー、じゃあ、私には、はずれスキル?」
「いや、同じ魔法を使えば威力が二倍だし、もしかしたらマジックバインドも二人分使えるかもしれない」
「なるほど、これはいいスキルを覚えたわ!」
冬雅達がそんな話をしていると、護衛の冒険者達が盗賊の後始末を終え、三十分くらい休憩した後、再び乗合馬車隊が進みだす。その後の道中は問題なく進み、馬車の旅の七日目になり、彼等はグライン王国とメイル国の国境を超える。そしてさらに街道を進んで行くと、その先に立派で巨大な城壁が見えてきた。
「あれが目的の町?」
「たぶんそう」
「はー、やっと着いたか!」
疲労の表情だった凛子が、明るい表情になる。その城壁に囲まれた場所が目的のメイル国の辺境の町ベールだった。
「たぶん、城門を通過するのに冒険者ギルドカードが必要だから、今のうちに用意しとこう」
冬雅達は辺境の町ベールの西の城門で冒険者ギルドカードを提示し、無事町の中へ入れた。
「はー、もうしばらくは馬車には乗らないよ」
乗合馬車隊が、西の城門の前の広場に止まり,凛子は一番先に馬車から降りて体を伸ばしている。彼女に続き、冬雅とサキも馬車から降りていた。
「結構、大きな町ね」
「これなら拠点として十分だ」
サキと冬雅は辺境の町ベールの街並みを見ている。この広場から大通りが繋がっていて、その両脇に宿屋、飲食店、お店などが複数並んでいた。
「まずは宿屋の確保……」
「君達!」
街並みを見ていた冬雅達に、白狼の牙のリーダー、グリードが走ってきて話しかける。
「ああ、グリードさん。何でしょうか?」
「君達へのお礼がまだだったろ」
「ええと、それは盗賊の後始末を……」
「いや、それは元々の俺達の仕事だ。それで仲間達とも話し合ったんだが、これをやろう」
そう言ってグリードは三種類の指輪を冬雅に渡す。
「それは力の指輪と速さの指輪と守りの指輪だ」
「こんなの、もらっちゃっていいんですか?」
「ああ、俺達はそれより上位互換を装備してるからな。それはもう使わないから売ろうと考えてたものだ。遠慮なくもらってくれ」
「そういうことなら、もらっておきます」
「おう、じゃ、またな」
そう言ってグリードは仲間がいる場所に戻っていく。
「さて、これ、どうしようか?」
「三つあるから、ひとつずつ?」
「上泉、どれが誰に必要か考えてよ」
「うーん。俺は今、守りの指輪を装備してて……」
「私は魔力の指輪を装備してるよ」
「私はなし」
今は冬雅が守りの指輪(防御力+5)、サキはなし、凛子が魔力の指輪(魔力+5)を装備していた。
「そうだ。まずアクセサリーがいくつ装備できるか、試してみよう」
冬雅はステータスボードを表示しながら、ひとつずつ指輪を装備していく。すると指輪を四つ付けた状態で、
装備
魔鋼の剣 攻+38
守りの指輪 防+5
力の指輪 攻+5
速さの指輪 速+5
と表示されていた。
「やっぱりアクセ枠は三つだった。ゲートオブアルカディアでもアクセ枠は三つだったんだよ」
「じゃあ、指輪を四つ装備しても、四つ目は効果がないのね」
「へー、指は十本あるのにね」
「ああ、アクセサリーは指輪だけじゃなくて、首飾りとかお守りとか色々あるよ」
「そうなの。それで指輪はどう分ける?」
「うーん。俺が力の指輪で、宮本さんが速さの指輪、佐々木さんが守りの指輪かな」
「私、速さ?」
サキが冬雅にそう聞く。
「宮本さんは軽量化されてるとはいえ重装備だから、動きやすくなるように速さを上げるのがいいと思う」
「なるほど。攻撃をかわしてカウンター攻撃する時に役立つかな」
「で、私は守りの指輪?」
「ほんとは宮本さんの守備力を上げたほうがいいんだけど、三人で分けるならそうかな」
「私、オートバリアがあるけど」
「もしMPがなくなった時はオートバリアが発動しないから、その時のためだよ」
凛子は、冬雅の話す理由が弱いような気がした。
「ああ、もしかして、三人で分けるって言ったからか。なら今回は私はいいよ。サキが使って」
「いいの?」
「いいよ。前の武器屋で金貨もらったしね」
「わかった。じゃあ、今回は私が二つもらうね」
「なら俺もこの指輪を……」
「それはいいよ。上泉君の貸しは、また後で返してもらうから」
「わかった。その時はお手柔らかに頼むよ」
冬雅はサキに守りの指輪と速さの指輪を渡し、彼女はそれらの指輪を装備する。
「さて、今度こそ、宿屋を確保……」
その時、辺境の町ベールに緊急警報の鐘の音が鳴り響く。
「この鐘の音は?」
「な、何?」
「緊急警報だ!」
「何が起きた?」
周囲にいた町の人達は、この鐘が緊急警報だということを知っていた。そして西の城門にいた兵士が大声で叫ぶ。
「ワ、ワイバーンだ! ワイバーンが現れた!」
次回 火を吐く飛竜 に続く