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第三十三話 連戦

「馬鹿な……」


 盗賊団のボスは、一緒にいた五人の手下を倒され、さらに馬車隊の周囲にいた盗賊も残りひとりになったのを見て愕然とする。


「これで終わりだ! 紅蓮剣!」


 グリードは剣に火をまとわせ、盗賊団のボスへ斬りかかる。


「ちっ!」


 それを盗賊団のボスは、また剣で受け止めようと両手で構える。するとグリードは、相手の剣にぶつかる直前に自分の剣を引き、すかさず火をまとわせた剣を突き出す。


「ぐあああああ!」


 盗賊団のボスは、火をまとった剣に胸を貫かれ、さらにその火によって全身を焼かれて、そのまま地面に倒れた。


「な、何とか倒せたか。もうMPが尽きた。危なかった」


 白狼の牙のリーダー、グリードはひとりで六人の盗賊を倒したので、MPが枯渇したようだ。そして最後に残った盗賊も、冒険者達によって倒され、この場に現れた盗賊団は全滅した。


「クリーン!」


 盗賊団が全滅したのを確認した冬雅は、魔鋼の剣に付いた血を綺麗にするためにクリーンを使い、その後、腰の鞘に収める。


「はー、対人戦は思ってた以上に疲労する」

「ごめん。上泉君」

「宮本さん。気にしなくていいよ」


 冬雅とサキがそんな話をしていると、凛子が二人の元へ来る。


「サキ、大丈夫?」

「うん。怪我もしてないよ。精神的に疲れたけど」

「まあ、それはしょうがない。無事、勝てたからいいでしょ」

「そうね」

「グレイ! 大丈夫か!」


 冬雅、サキ、凛子が話していると、馬車隊の前方にいたグリードが、倒れている白狼の牙の戦士の所へ走ってくる。グレイというのが、その倒れている戦士の名前だっだ。


「大丈夫だ。傷はふさがってる。しばらくは動けないだろうが」

「そうか。ん? お前も怪我してるのか」


 グリードは白狼の牙の騎士の右手の関節の傷を見る。


「ああ、しばらくは剣は持てないだろう。そうだ。俺達は彼等に助けてもらったんだ」


 そう言って白狼の牙の騎士が冬雅達を見る。


「おお、君達は客で乗ってた……って、凄そうな装備だな」


 グリードはサキのブラックメタルシリーズを近くで見てそう話す。


「君達は冒険者か?」

「はい。Dランクですけど」

「Dランク?」


 冬雅の言葉を聞いて白狼の牙の騎士が驚く。


「いや、君達は俺達が倒せなかった傭兵崩れの盗賊を圧倒してただろ」

「ああ、俺達は登録してまだ十日くらいなので」

「ああ、そうなのか」

(元傭兵……いや、それにしては若い。何か訳アリか……)


 冒険者の過去を聞くのはマナー違反なので、白狼の牙の騎士はそれ以上は何も聞かなかった。すると馬車隊の反対側にいた白狼の牙の魔法使いも、冬雅達がいるこの場所に走ってくる。


「グリード! グレイは?」


 白狼の牙の魔法使いは、倒れている仲間を見て心配する。


「大丈夫だ。傷はふさがってる」

「そうか。よかった」

「そうだ。仲間を助けてもらったんだ。何かお礼をしないとな」

「いえ、そんなに気を使わない……むっ!」


 話の途中、冬雅は強い気配を感知し、馬車隊の右側方向を見る。


「何か来る!」

「何っ!?」


 この場にいたサキ達とグリード達もその方を見ると、巨大なサソリのモンスターが岩場の上から現れた。


「シャーーーーッ!」

「モンスターだ!」

「あれは……Bランクのデススコーピオンか!」


 この場に現れたのは、体長が十メートル以上ある巨大なサソリのモンスター、デススコーピオンだった。デススコーピオンは両手が硬いはさみになっていて、さらに尾の先に毒針を持っているBランクモンスターだった。


「この場の血の匂いにつられて現れたのか!」

「まずい……俺は盗賊との戦いでもうMPがない」

「俺も右手の怪我で剣が持てない」

「俺はまだ二、三発、魔法を使えるが、それだけでは……」


 白狼の牙の三人に絶望感が漂う。


「勝ち目がなくても、皆が逃げる時間くらい……」

「あの……俺達が戦いましょうか?」

「何っ?」


 いきなりの冬雅の提案にグリードは驚く。


「いや、君達は客の立場だ。まずは俺達が戦わないと」

「デススコーピオンの素材もらえるなら、俺達が戦いますよ」

「それは君達が奴を倒したのなら、当然、その素材は君達の物だが」

「では俺達にまかせてください。加速!」

「堅牢!」

「魔力高揚!」


 冬雅、サキ、凛子は、能力強化スキルを発動する。実はまだ十五分経ってないので、現在も彼等の能力強化スキルは発動中なのだが、重ねて使うことで効果時間を更新することができた。


「魔力チャージ!」


 さらに凛子は雷撃の杖を構えながら魔力をため始める。それと同時に冬雅とサキは、岩場の上から降りてきたデススコーピオンに向かって一緒に走り出す。


「キシャーーーーッ!」


 するとデススコーピオンは接近してきた冬雅とサキを狙って、右のはさみで攻撃する。それをサキが前に出てブラックメタルシールドで受け止めた。


「なっ!」

「彼女、デススコーピオンのはさみを片手で受け止めたぞ!」

「とんでもない防御力だ!」


 グリード達はサキの防御力に驚く。彼女は冬雅を守っている状態なので、守りの盾の効果で防御力が30%上昇していた。


「シャーーーーッ!」


 右のはさみを止められたデススコーピオンは、今度は左のはさみで冬雅を攻撃する。その攻撃を冬雅は素早い動きでかわして、左のはさみの根本部分を魔鋼の剣で斬り落とす。


「ギギャアアア!」


 左のはさみを失ったデススコーピオンは、今度はサソリの尾の毒針で冬雅を攻撃する。その攻撃も冬雅は見切ってかわし、さらにサソリの尾の毒針も斬り落とした。


「速っ! 今の剣さばき、見えなかったぞ!」

「俺もだ」

「なんて速さだ」


 グリード達は今度は冬雅の速さに驚く。その間にも冬雅はデススコーピオンの左足を次々を斬り落とす。その後、冬雅とサキは、デススコーピオンから急いで離れる。


「ライトニングレイン!」


 この状況を待っていた凛子が雷撃の杖を掲げ、雷系中級魔法を発動する。するとデススコーピオンの頭上に複数の魔法陣が現れ、そのすべてから強烈な雷撃が放たれた。


「ギャギャアアアアアアアアアア!」


 それらの電撃が命中してデススコーピオンは全身が感電し、それが致命傷となって目から光がなくなり、その場で動かなくなった。


「……」

「……」

「……」


 グリード達は凛子の魔法の凄さに言葉も出なかった。今のライトニングレインは魔力高揚、魔力チャージ、雷撃の杖の効果により、常識を超えた威力になっていた。


「おっ、レベルが上がった!」


 冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。彼等はデススコーピオンを倒し、レベルが22に上がった。


「グリード……」

「ああ、彼等は俺達より格上のようだ」

「俺達よりだいぶ若いのにな」


 グリード達は今の戦いを見て、冬雅達の強さをを認める。戦いが終わり、冬雅はデススコーピオンの死骸をアイテムボックスに収納し、三人はグリード達の所へ帰ってくる。


「ありがとう。君達のおかげで馬車隊は守られたよ」

「いえ、こちらもデススコーピオンの素材が手に入ったので」

「そうだ。君達へのお礼がまだだったな」

「いえ、お礼なんて……あっ、じゃあ、ひとついいですか?」

「おお、何でも言ってくれ」

「盗賊達の後始末をお願いしていいですか?」


 そう言って冬雅は倒れている盗賊を指さす。


「ああ、それはまかせてくれ。元々、護衛の仕事だしな」

「ありがとうございます。では俺達は馬車に戻ります」


 そう言って冬雅達は自分達の馬車に戻り乗車席に座る。


「盗賊戦、何とか乗り切った……」


 冬雅は席に座るが、また盗賊を斬った時の感触が手に残っていた。そして彼の手がまた震えだす。すると、そのことに気づいたとなりに座っていたサキが冬雅の手を握る。



 次回 辺境の町ベール に続く

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