第三十二話 傭兵崩れの盗賊
「サキ、行けるの?」
「大丈夫。私にはこのブラックメタルシリーズがあるし」
「なら俺も……」
「上泉君はここで凛子を守ってて。それなら私も安心して戦える」
「……わかった」
「じゃ、行ってくる!」
ブラックメタルシリーズを装備したサキが、分身している盗賊へ向かって走っていく。その盗賊は四体の分身と共に、腕を怪我した白狼の牙の騎士を取り囲んでいた。
「くっ、なんでBランクの俺が盗賊なんかに……」
「フフフ、俺は長年、戦場で戦って生き残ってきたんだ。お前等のような中途半端な奴とは違うんだよ」
「そうか。お前、傭兵崩れか」
「ふん。歴戦の傭兵の力を見せてやる。雷迅剣!」
盗賊は持っている剣に魔力で作り出した雷をまとわせる。それと同時に四体の分身の剣にも偽物の雷が発生した。
「ま、魔法剣か!」
「フハハハ! くらえ!」
白狼の牙の騎士を取り囲んでいる五人の盗賊が、同時に雷の斬撃を放つ。その時、
「させない!」
サキがブラックメタルシールドで、五人の盗賊のうちの一体の雷の斬撃を受け止めた。
「何っ!」
「き、君は……」
「早く倒れてる彼の治療をお願いします。こいつとは私が戦います」
サキは倒れている白狼の牙の戦士の治療を促す。
「だが……いや、わかった」
腕を怪我した白狼の牙の騎士は、倒れている仲間の体の傷に、持っていたハイポーションをかける。
「お前、何者だ? 俺の本体を見破り、さらに魔法剣を防ぐとは」
盗賊は今まで戦場で戦ってきた経験から、サキがただ者ではないと感じ取る。
「分身に影がないことくらい知ってるわ」
「ちっ」
サキは子供の頃に見た忍者漫画でそのことを知っていて、今それを思い出した。
(確かにその通りだが、こいつがヤバいのは俺の雷迅剣を受け止めた防御力のほうだ)
盗賊は自分の雷の魔法剣に絶対の自信を持っていたので、それを正面から防いだサキの防御力の高さを警戒する。
「ふん! どうせ、その黒い防具の性能が高いだけだろ!」
盗賊は本体をばれにくくするため、分身に複雑な移動をさせながらサキへ接近する。
「雷迅剣!」
五人の盗賊は、本物の雷の斬撃と、偽物の雷の斬撃をまぜながら、次々と雷の斬撃を放つ。それをサキは持ち前の動体視力で、本物の斬撃と偽物の斬撃を見極め、ブラックメタルシールドで完璧に受け止めた。
「くっ! この!」
盗賊はさらに雷の斬撃を何度も繰り出す。するとサキは今まで受け止めていた本物の雷の斬撃を、盾に当たる寸前で身を引いてかわし、前のめりになった盗賊を盾で殴る。
「シールドバッシュ!」
「ぐあっ!」
サキの盾の打撃を受けた盗賊は全身に衝撃が走り、ダメージを受けてふらつく。
(隙あり!)
続けてサキは右手に持っていたブラックメタルソードで、隙が出来た盗賊を突き刺そうと構える。
「……」
だがサキはブラックメタルソードを突き出さかった。するとふらついていた盗賊が立ち直り、後方へステップしてサキと距離を取る。
「ちっ! やってくれたな!」
盗賊はまた分身と共に雷の斬撃を次々と放つ。それをまたサキはブラックメタルシールドで防ぎつつ、今度は相手の攻撃の隙を見極め、盗賊に一瞬で接近して盾で殴る。
「シールドバッシュ!」
「がっ!」
盗賊は再び全身に激しい衝撃を受けて体がよろめき、今度は意識まで失いそうになる。その隙にサキはブラックメタルソードを構えるが、また攻撃しなかった。すると盗賊は、ふらふらになりながらも何とか立ち直る。
「つっ……なんて威力のシールドバッシュだ……」
サキの堅牢のスキルとブラックメタルシリーズの性能のおかげで、防御力が攻撃力になるシールドバッシュの威力が高められていた。
(この小娘、俺の分身攻撃を完全に見切ってた。防御力が高いだけじゃない……)
盗賊はサキの強さを知って、さらに考える。
(だが何で俺に剣で攻撃しないんだ? さっきの隙に攻撃すれば、俺を倒せたはずだ……)
盗賊はサキが攻撃しない理由を考える。
(ま、まさか、俺をもてあそんでいるのか。いつでも倒せるのに、シールドバッシュで俺を痛めつけてて、俺が苦しんでるのを見て楽しんでる……)
そう考えた盗賊は顔が青ざめ、及び腰になる。
場面は冬雅と凛子がいる二番目の馬車の後ろに変わる。
「さっき、隙だらけだったよね」
「うん。たぶん人の命を奪うことを、ためらってるんだよ」
「やっぱりね。優しいサキには、人を斬るなんてできないよ」
「なら、俺が行ってくる。佐々木さんをここに置いていくことになるけど」
「私ならオートバリアもあるし、盗賊の数も少なくなってるし、心配しなくていいよ」
「わかった」
冬雅は右手で持っていた魔鋼の剣を両手で持つ。
「サキのこと、お願いね」
「うん。俺が必ずあの盗賊を倒すよ」
冬雅は魔鋼の剣を構えながら、サキと戦ってる盗賊に向かって走り出す。
「今の、ちょっとかっこよかったかも」
そんなことを考えながら、凛子は冬雅を見送った。
「うおおおおおお!」
「何だ?!」
「上泉君!」
サキと五人の盗賊は、猛スピードで突撃してくる冬雅の方を見る。
「ちっ、また冒険者か!」
盗賊はサキには勝てないことを悟り、今度は冬雅へ向かって分身と共に走り出す。
(こいつを斬って、そのまま逃げる!)
「雷迅剣!」
五人の盗賊が複雑な移動をしながら、冬雅を狙って次々と本物と偽物の雷の斬撃を放つ。それを冬雅は、偽物の斬撃も含めてすべて回避した。これは冬雅が持つ見切りのスキルの効果のおかげだった。
「なっ! ぐはっ!」
盗賊は自分の攻撃がすべてかわされたことに驚く。と同時に、冬雅の放った突きが本物の盗賊の胸を貫いていた。彼も本体には影があることを知っていた。
「馬鹿な……速すぎ……」
冬雅の高速の突きが見えなかった盗賊は致命傷を受け、四体の分身が消えて本体はそのまま地面に倒れた。盗賊を倒した冬雅は、そのままサキの元へ走っていく。
「か、上泉君」
「宮本さん。無理しないでいいよ」
「う、うん」
盗賊との戦いが終わり、サキは緊張が解けてホッとする。
「そうだ!」
サキは振り向いて倒れた白狼の牙の戦士を見る。
「大丈夫だ。傷はふさがった。すぐには動けないだろうが」
倒れた仲間のそばにいる白狼の牙の騎士がそう話す。彼は自分の腕の怪我にもハイポーションを使って治療していた。
「よかった」
「それより、ほかの盗賊は……」
サキと冬雅と白狼の牙の騎士は、周囲の状況を確認する。するとすでに馬車隊の周囲にいた盗賊は残りひとりになっていて、白狼の牙の魔法使いとCランクの冒険者の二人が、その盗賊を追い詰めていた。
それとほかのCランクの冒険者二人と、低ランクの冒険者の四人は、軽めの怪我をしていて、その治療をしている。
「こっちは何とかなりそうか。リーダーはどうなった」
白狼の牙の騎士は馬車隊の前方を見る。すると白狼の牙のリーダーと盗賊団のボスが一対一で対峙していた。
次回 連戦 に続く




