第三十一話 盗賊団との戦い
「かかれ!」
「うおおおおお!」
盗賊のひとりが合図すると、ほかの盗賊達が声を上げながら突撃していく。
「奴等を馬車に近づけるな!」
「おお!」
「こっちは俺にまかせろ!」
「なら俺はこっちだ!」
護衛の冒険者達が馬車隊を守るように散らばっていく。白狼の牙のリーダー、グリードは、腰の剣を抜いてひとりで正面にいる六人の盗賊に向かって走り出す。
「フロストエッジ!」
馬車隊の防衛戦が開始され、白狼の牙の魔法使いが、魔力で作り出した氷のやいばを、遠くで弓を構えていた盗賊へ向けて猛スピードで放つ。
「ぐあっ!」
その氷系中級魔法が、盗賊団唯一の弓使いの体を突き刺して倒す。
「うおおおお!」
続いてグリードと前方の六人の盗賊達の戦いが始まり、彼は一番先頭にいた剣を持った盗賊を狙って斬撃を放つ。
「オーラブレード!」
「ぐああっ!」
グリードの魔力の斬撃で、六人のうちのひとりが斬られて倒れる。さらに彼はその隣にいた盗賊にも斬りかかり、グリードは一瞬で二人の盗賊を倒した。
「なっ! 止まれ!」
目の前で簡単に二人倒されたのを見た盗賊達は、走るのを止めてグリードから距離をとる。
「ちっ、こいつ強いぞ!」
「俺のそばに集まれ!」
盗賊のひとりが残った三人に指示し、四人の盗賊が集まってグリードと対峙する。
(こいつが盗賊団のボスか!)
盗賊団のボスは鋼鉄の剣と鋼鉄の胸当てを装備していて、この場の盗賊の中で一番いい武具を装備していた。
(まずはボスを倒す)
「紅蓮剣!」
グリードは持っていた剣に魔力で作り出した火をまとわせて突撃し、火の斬撃を放つ。それを盗賊団のボスは両手で持った剣で受け止める。
「ぐっ、今だ!」
盗賊団のボスが火の斬撃を受け止めた直後、グリードの隙を突いて、ほかの三人の盗賊が一斉に剣や斧で攻撃する。
「ちっ!」
それに対し、グリードは火をまとった剣を引いて、後方へステップしてその攻撃かわす。
「フン! 俺達にひとりで勝てるわけないだろ!」
(ちっ、馬車隊が取り囲まれているから、ここは俺がひとりで戦うしかない)
グリードは馬車隊を取り囲んでいる盗賊に対抗するため、仲間をそちらへまわして、ひとりで盗賊六人と戦うことを決めたのである。
場面は乗合馬車隊の周囲の冒険者と盗賊が戦ってる場所に変わる。馬車隊を取り囲んでいた盗賊団は全部で十二人いたが、馬車を守るのは白狼の牙の三人とCランクの冒険者パーティ四人で、全部で七人だった。護衛側の七人は盗賊達を馬車に近づけないように戦っている。
「盗賊の方が多いぞ!」
馬車の中で外の様子を見ている低ランク冒険者達が、周囲の盗賊の数を見て焦る。
「このままじゃまずい!」
「俺達もやるか!」
「しかたない。弱そうな盗賊なら俺達でも戦えるだろ」
「そうだな。よし、行くぞ!」
乗合馬車隊の三番目の馬車に乗っていた低ランク冒険者パーティの四人が、馬車から降りて盗賊達と戦いに参加する。それを冬雅が見ている。
「護衛の人達にまかせようと思ってたけど、俺達も戦わないとまずいか」
冬雅は客として乗っていたほかの低ランク冒険者が戦うのに、自分達が戦わないのは心苦しいと思い始める。
「よし、準備できた!」
「上泉君、これでいつでも戦えるよ!」
「なら俺達も戦おう」
「了解!」
冬雅、サキ、凛子も馬車の後部から降りる。これで馬車を守る冒険者側は十四人になった。冬雅達は、馬車の後部で身を隠しながら周囲の様子を確認する。
「ぐあっ! お、おのれ……」
白狼の牙の騎士が盗賊のひとりを倒す。すでに馬車の周囲にいた盗賊は二人倒されていて、冬雅達が馬車の外に出た時点で、残りが十人になっていた。
「加速!」
「堅牢!」
「魔力高揚!」
戦闘前に冬雅達は自分達の能力を強化するスキルを発動する。
「私、魔法を使おうか?」
「いや、今の状況だと味方を巻き込むから、止めたほうがいい」
冒険者達と盗賊達は接近戦をしているので、今、攻撃魔法を使うのは危険だと冬雅は判断する。
「まず俺がやってみる。よし、あいつだ!」
冬雅は、盗賊と若いCランクの男の冒険者が戦ってる場所に向かって突撃する。
「はっ!」
「なっ、ぎあああああ!」
その盗賊は、冬雅の接近には気づいたが、その高速の動きと斬撃に対応できず、身に着けていた皮の胸当てごと体を斬られて倒れた。
「おお、助かった。ああ、客で乗ってた奴か」
Cランク冒険者の男が、冬雅に声をかける。
「……」
「ん? どうした?」
「ひ、人を斬ったのが初めてなので……」
「そうか。なら無理はするな」
そう言ってその冒険者は、ほかの盗賊がいる場所に走っていく。その後、冬雅は地面で血を流して倒れている盗賊を見ないようにして、サキと凛子がいる馬車の後部に走って戻る。
「はあ……」
「上泉君、大丈夫?」
「う、うん。覚悟を決めたつもりだったけど、やっぱ命を奪うのは気が重い……」
冬雅は初めて人を斬って動揺し、手が少し震えていた。
「それが普通でしょ。上泉は少し休んでて」
「うん」
「それで私、考えたんだけど」
「何?」
「まあ見てて」
そう言って凛子は馬車の後部で隠れながら周囲を確認する。
「よし、あいつだ!」
凛子は雷撃の杖を、一対一で冒険者と戦ってる盗賊に向ける。
「マジックバインド!」
凛子が魔法を発動すると、狙った盗賊の体の周りと足元に魔力のロープが現れ、それが盗賊の両手と両足を締め付けて動けなくした。
「ぐあっ、なん……ぐあっ!」
その盗賊と戦っていた冒険者が、魔力のロープで拘束された盗賊を斬りつけて倒した。その冒険者は周囲をキョロキョロと見ている。
「やった! 上手くいった!」
「なるほど。今の魔法なら味方を巻き込まないわね」
「でしょ。よーし、じゃあ次は……」
「ギャアアアアアア!」
その時、冬雅達が見ていた反対方向で戦っていた白狼の牙の槍を持っていた戦士が、盗賊に体を斬られて倒れる。
「なっ!」
「何だ?」
冬雅達や周囲にいた冒険者達が叫び声が聞こえた方を見ると、地面に倒れた白狼の牙の戦士の周囲に、まったく同じ姿の盗賊が五人立っていた。
「あれは………」
「うおおおお! よくもグレイを!」
仲間の悲鳴を聞いた白狼の牙の騎士が、その五人の盗賊達へ突撃して剣で斬撃を放つ。すると五人いた盗賊のひとりが斬られ、その体が消滅する。
「消えた?! ぐあっ!」
白狼の牙の騎士が、残った四人の盗賊のひとりに腕の関節を斬られて持っていた剣を落とす。そこへ盗賊が追撃しようとするが、彼は盾を構えながら、盗賊からなんとか離れる。
「そうか。あれは分身か」
冬雅の言う通り、その盗賊は幻影分身のスキルによって、自分と同じ姿の実体のない分身を五体作り出していた。
「あの倒れてる人の気配は消えてない。まだ死んでない!」
「じゃあ、早く治療しないと!」
「私のマジックバインドはひとりにしか使えないから、あいつには使えないんだけど」
「なら今度は……私が行くよ」
次回 傭兵崩れの盗賊 に続く