第三十〇話 メイル国へ
Bランク冒険者パーティ「白狼の牙」は、同年代の男性四人組で、そのそばに立派な馬が四頭いる。彼等は今回の道中、その馬に乗って馬車隊と共に移動することになっていた。
「グリード、そろそろ出発の時間だ」
「もうそんな時間か」
グリードというのは白狼の牙のリーダーで、長髪黒髪、三十歳くらいの男の剣士だった。そしてほかの白狼の牙のメンバーは、剣と盾を装備した騎士、槍を持った戦士、灰色のマントの魔法使いという構成だった。
「あっちにも強そうな人達がいるよ」
「あの人達も護衛の冒険者かな」
「俺達みたいに避難する冒険者かもしれない」
冬雅達が周囲を見渡すと、ほかにも冒険者風の男女がいた。今回の護衛は白狼の牙のほかに、Cランク冒険者パーティの四人組も参加していた。さらに集まった人の中には、避難目的の低ランクの冒険者パーティも何組かいた。
「あの人達がBランクか。白狼の牙ってパーティの名前……ん? 私達のパーティ名って何?」
凛子は疑問に思ったことを冬雅に聞く。
「俺達のパーティ名はまだないよ。Cランクから登録できるんだって」
「ああ、Cランクからが、一人前って言ってたよね」
「じゃあ、私達もCランクになったら、パーティ名をつけれるんだよね」
「そう」
「じゃあ、今のうちに決めとかない?」
「うーん。パーティ名って大事だから、よく考えて決めたほうがいいよ」
「なら、メイル国に着くまでに、候補をいくつか考えておくってのはどう?」
「わかった。いい時間つぶしになりそう」
冬雅達がそんな話をしていると、乗合馬車を運営している男が大声で集まった客達に話す。
「馬車の準備ができました! お客さんは一番車から四番車に乗ってください!」
用意された馬車は屋根付きで、その屋根は何本かの柱で支えられているので、乗客席から周囲がよく見渡せるようになっていた。
「じゃあ、早く席を確保しよう。三人一緒のほうがいいでしょ」
「ならあれに乗ろう!」
馬車は全部で五台あり、それが一列に並んでいて、冬雅、サキ、凛子は馬車券を見せてから二台目の馬車に乗り込み、空いている席に座る。馬車の中は八人くらいが乗れる広さで、冬雅達の後に一般の男女の客も乗り込んでくる。そして護衛のCランク冒険者パーティは、最後尾の五台目の馬車にたくさんの荷物と共に乗っていた。
「では出発します! 二時間進んだら休憩を取ります!」
五台の馬車と馬に乗った白狼の牙の四人が、王都ニルヴァナの東門まで来る。その時に冒険者は冒険者ギルドカードを見せて、カードを持ってない人は通行税10ゴールドを払い、順次、東門をくぐって外に出る。
(何事もなく出発できた。もしかしたら城の人達に止められるかもと思ってたけど、心配しすぎだったか)
アンサズ宰相は鍋島達のことは国外に出ないように手を打っていたが、生産職の異世界人のことは眼中になかった。
(後はメイル国に無事、着くのを祈るだけだ)
冬雅達を乗せた乗合馬車隊が、草原の街道を順調に進んでいく。そして王都から出発して一時間が過ぎた頃、街道の先に複数の獣型モンスターが現れた。
「シルバーウルフの群れだ!」
「馬車を止めてくれ!」
馬に乗っていた白狼の牙のメンバーがそう叫び、五台の馬車が止まる。それと同時に、白狼の牙の四人は馬から降りて戦闘態勢になり、Cランク冒険者達も馬車から降りて周囲を警戒する。
「上泉君、私達はどうする?」
「シルバーウルフはDランクだから、彼等なら楽勝だよ。俺は一応、周囲を気配察知で警戒しておくけど」
「じゃあ、私は彼等の戦いを見学しましょうか」
そう言ってサキは凛子を見る。
「ん? さすがにモンスターに襲われてるのに昼寝はしないよ」
「まだ何も言ってないでしょ」
「ウオーーーン!」
冬雅達がそんなやりとりをしていると、シルバーウルフの群れと白狼の牙の戦いが始まる。
「オーラブレード!」
白狼の牙のリーダー、グリードが剣を振るって魔力の斬撃を放ち、一撃でシルバーウルフを倒す。ほかのメンバーも剣や魔法で次々とシルバーウルフを倒していき、冬雅の言う通りシルバーウルフの群れはすぐに全滅した。
「さすがBランクだ!」
「あのリーダーの人、カッコいい!」
「冒険者の護衛つきの馬車でよかったわ!」
冒険者達の活躍を見ていた一般人の客達が喜んでいる。戦いが終わり、白狼の牙の四人が馬に乗り、Cランクの冒険者達も馬車に戻り、乗合馬車隊がまた出発する。
その後、乗合馬車隊はメイル国への街道を休憩をはさみながら進んでいき、途中、Eランクモンスター、毒蛇キラースネークや、緑色の巨大蟻グリーンアントなどとも遭遇したが、護衛の冒険者達が問題なく討伐して一日目の移動が終わり、冬雅達はテントで野営してその日が終わる。
二日目以降も順調に進み、途中、町や村を経由して食べ物などを補給してさらに日は進んで六日目になり、乗合馬車隊は現在、周囲が岩場の道を進んでいる。
「今日って六日目だよね」
「そう。メイル国には明日つくはず」
「はー、馬車に座ってるだけなのに、なんでこんなに疲れるの?」
凛子はこれまでの長旅の疲れがたまっているようだ。
「馬車の揺れだとか、慣れない野営とか、原因は色々あるでしょ」
「やっぱりお風呂だよ! 王都を出てから、途中の町で一回入っただけだもん!」
「まあね。上泉君のクリーンがなかったら、恐ろしいことになってたかも」
「ほんと、ほんと」
冬雅は朝と夜にサキと凛子の手を握り、クリーンのスキルを使って、彼女達を綺麗にしていた。そのおかげで彼等は清潔に過ごすことが出来ていた。
「明日にはメイル国に着くんだし、もう一日だけ頑張ろう」
「わかった。はぁ。今、考えると長旅の護衛の依頼なんて受けなくてよかったよ。今の状態に加えて、モンスターとの戦闘までしてたらと思うと……」
「私は別に平気だけど」
「日頃、運動して鍛えてるサキはそうだろうけど、帰宅部の私には無理!」
「俺も。帰宅部は体力ないからね」
「はー、しょうがない。護衛の人達が手に負えないモンスターとか出てきたら、私が手伝うしかないか」
サキはブラックメタルシリーズを手に入れてからまだ戦ったことがないので、早くその性能を確かめたかった。彼女がそんなことを考えているその時、馬に乗っている白狼の牙の騎士を狙って矢が飛んできた。
「むっ」
狙われた白狼の牙の騎士はそれを盾で防ぐ。
「どこからだ?」
「と、盗賊だーーー!」
「何っ!」
「馬車を止めて、周囲を警戒しろ!」
グリードがそう指示し、五台の馬車がすべて止まる。護衛のCランクの冒険者達も馬車から降りて周囲を警戒する。
「盗賊は何人だ?」
「前方に六人、周囲にも何人かいる。十人以上いるかもしれん」
「すでに取り囲まれてるんじゃないか?」
「よし、俺は前方の六人を倒す。お前達は周囲の奴等を頼む」
「わかった」
グリードは馬から降りて先頭の馬車の前に立ち、ほかのメンバーも馬から降りて周囲の盗賊を警戒する。
「お客さん! 矢で撃たれないように身を低くして隠れてくれ!」
「は、はい!」
馬車の御者が乗合馬車の後方に来て、客達と共に身をかがめる。
「か、上泉君!」
「わかってる。一応、戦う準備だけしておこう」
「うん」
「わかった」
冬雅はアイテムボックスから魔鋼の胸当てを取り出して装備し、凛子は魔法のかばんから雷撃の杖を取り出す。サキは魔法のかばんからブラックメタルアーマーとブラックメタルシールドを取り出す。
「凛子、手伝って!」
「わかってる」
「俺は周囲の気配を警戒しておく」
凛子はサキがブラックメタルアーマーを装備するのを手伝い、冬雅は腰の魔鋼の剣の柄を握りながら、馬車の中から周囲の様子を見ている。
「なるべくなら護衛の人達にまかせたいけど、盗賊の中に強くてヤバい奴がいる時は、外に出て戦おう」
「う、うん」
「わかった」
次回 盗賊団との戦い に続く