第二十九話 ブラックメタル
「それでメイル国にはいつ行くんだ?」
「明日だよ。明日、冒険者の護衛付きの乗合馬車隊が出るんだ」
「護衛付きか。それなら安心だな。向こうまで何日かかるんだ?」
鍋島と本多が、冬雅に次々と質問する。
「馬車で七日だって。ああ、それと、もし何かあった時にすぐに戻ってこれるように、グライン王国に一番近いメイル国内の大きな町を拠点にするつもりだよ」
「そうか。七日くらいなら、そんなに遠くないか」
「うん。あと、メイル国で余裕が出てきたら、元の世界に戻れる方法を探してみるよ」
「おお、頼む。俺達もレベル上げしながら王都で調べてみよう。おっと、そろそろギルドに行かないと」
「そうだな。じゃあ、またな。メイル国まで気を付けて行けよ」
「鍋島達も無茶するなよ」
鍋島、本多、ほか二名が、冒険者ギルドに向かって歩いていく。
「もうすぐ九時ね。武器屋に歩いていくうちに時間になるかな」
「じゃあ、行きますか」
冬雅、サキ、凛子は王都の大通りにある武器屋に向かって歩いていき、到着すると開店していたので中に入る。
「いらっしゃいませ!」
「あの、これを引き取りに来たんですけど」
サキは漆黒の武具の預かり証を、若い女性の店員に渡す。
「ああ、あれですね。できてますよ。カウンターへどうぞ」
冬雅達は店の奥のカウンターへ向かい、女性店員が店の奥に入っていく。するとドワーフの男と女性店員が、黒い剣と鎧と盾を持って出てきた。
「おお、よく来たな。これが預かってたやつだ」
ドワーフの男がカウンターの横にあるテーブルの上に、スタイリッシュなデザインになった漆黒の武具を並べて置く。
「あっ、全然違う!」
「かっこよくなってる!」
「前のまがまがしさがまったくない!」
「そうだろ! 俺の会心の出来だ!」
サキはデザインが変更された漆黒の武具を気に入ったようだ。
「そうだ。こいつらに新しい名前をつけたらどうだ?」
「えっ、勝手に名前を変えちゃっていいんですか?」
「ああ、こいつらは生まれ変わったんだ。自由に名前を付けて構わん」
「それじゃあ、ええと……」
サキはいい名前を付けようと考えている。
「うーん。武具に名前をつけるの。いざとなると難しい」
「いいのが浮かばないなら、遊んだことがあるゲームに出てくる装備品の名前にするのは?」
「なるほど、黒い装備品なら、ブラック……そう、ブラックメタルってどう?」
「ほー、いい名前だ。ならブラックメタルソード、ブラックメタルアーマー、ブラックメタルシールドだな」
「はい。あと、今まで使ってたのを売りたいんですけど」
そう言ってサキは魔法のかばんから軽鉄の鎧、鋼鉄の盾を出し、腰の軽鉄の剣もテーブルに乗せる。それらはすでに冬雅のクリーンのスキルで綺麗な状態になっていた。
「では査定しますので少々お待ちください」
「じゃあ、俺も新しいのを買いたいから、これを売ります」
「私も売っちゃおう」
冬雅は鋼鉄の剣と鉄の胸当てをテーブルに置き、凛子は魔導士の杖と魔導士のマントを置く。
「ではこちらも査定しておきます」
「じゃあ、どれを買おうか……」
冬雅は剣が展示してある場所に行き、サキと凛子は杖が展示してある場所に行く。そして冬雅がどの剣を買うか悩んでいる。
「ミスリルの剣は攻撃力50で、6000ゴールドか。ちょっと手が出ないな。こっちの魔鋼の剣は攻撃力38で、3000ゴールド。これなら買えるけど、防具の予算が……」
展示してある剣のそばに、名前、値段、攻撃力などが書かれたカードがあり、冬雅がそれらを見比べながら悩んでいると、サキがやってくる。
「上泉君。前に言った通り、私のサファイアの分の金貨十六枚を使っていいよ」
「えっ? いや、それをもらうのは……」
「私はブラックメタルシリーズが手に入ったし、凛子にも、もうあげたから遠慮しないで。上泉君がこの分、いい武器を買って強くなったら、私達も助かるし」
「……わかった。じゃあ、使わせてもらうよ。そのかわり、貸しひとつってことで」
「わかった。何かあった時は、その貸しを返してもらうからね」
そう言ってサキは金貨十七枚を冬雅に渡して凛子の元へ戻る。
「予算が増えた。これでこっちも買える」
冬雅は魔鋼の剣と魔鋼の胸当てを選んでカウンターへ持っていく。すると凛子も黄色の宝玉が先についている杖を持って、サキと共にカウンターへ来る。
「その杖は?」
「雷撃の杖だって。私の雷魔法が強くなるみたい。そっちは?」
「魔鋼の剣と胸当てにした。これで前よりかなり強くなるよ」
「お客さん。さっきの査定は終わってます。今、代金を計算しますね」
冬雅達は今まで使っていた武具を売って、差し引いた代金を払い、新たな装備品を手に入れた。
冬雅
魔鋼の剣 攻+38
魔鋼の胸当て 防+25
守りの指輪 防+5
サキ
ブラックメタルソード 攻+50
ブラックメタルアーマー 防+40
ブラックメタルシールド 防+20 魔法耐性20%
凛子
雷撃の杖 攻+15 魔+20 雷強化20%
耐熱マント 防+15 火耐性50%
魔力の指輪 魔+5
「このブラックメタルシリーズ装備して街中歩いたら、かなり目立つよね」
「かなりかっこいいからね。注目の的だよ」
「この国で目立つのはまずいから、街中では鎧と盾は魔法のかばんに入れておいたほうがいい」
「そうする」
サキはブラックメタルソードだけ腰に装備して、ほかの装備は魔法のかばんに収納する。凛子も杖を魔法のかばんに入れて、耐熱マントと魔力の指輪だけ装備している。冬雅もアイテムボックスに魔鋼の胸当てを収納し、魔鋼の剣だけ腰に装備する。
「これでよし。さあ、次はどこに行く?」
「メイル国への道中に必要な物を買いに行こう」
「まずは食料よね」
「うん。アイテムボックスに入れとけば時間が止まるから、買えるだけ買っとこう」
サキと凛子の魔法のかばんには時間停止機能がないので、食料は冬雅のアイテムボックスに入れておく必要があった。
「あと、野営するとか言ってたから、テントとかランタンとか必要になると思う」
「またお金がなくなるよ」
「しょうがないよ。必要最低限の物だけ買いましょ」
冬雅達は武器屋を出て、雑貨屋や市場などに行って旅の準備をする。
「結構、お金使っちゃった」
「アイテムボックスに、モンスターの素材がまだあるから、メイル国に行ったら全部売っちゃおう」
冬雅は短い間にたくさんの素材を売ると目立ってしまうと考え、まだアイテムボックスに売れるものがかなり残っていた。
「メイル国に行ったら、もう力を隠さなくていいのよね」
「そう。城の人達の目も、メイル国までは届かないからね」
「それで、これからどうしようか」
今はまだ午前中なので、サキが冬雅にそう聞く。
「明日から長旅が始まるから、今日は体力を消耗しないほうがいいと思う」
「じゃあ、午後からは休みでいい?」
「そうしよう。俺は新しく買った『モンスター図鑑』を読みたいし」
「冒険者の心得」に乗っているモンスターは、ランクの低いモンスターばかりなので、冬雅は高ランクモンスターの情報が乗っている「モンスター図鑑」を買っていた。
「私は宿屋の部屋の掃除しようかな。明日の朝であの部屋とお別れだし」
「じゃあ、私は昼寝しよ」
「いや、凛子も手伝いなさいよ」
「はぁ、掃除してるとなりでは寝れないか。しょうがない」
冬雅達は大通りの飲食店でお昼ご飯を食べた後、宿屋に帰って明日の準備などをしてその日が終わった。
そして次の日の朝、朝食を食べた後、冬雅達は宿屋を出て東門の馬車乗り場までやってきた。そこにはすでにたくさんの人が集まっていて、その中に豪華な剣と鎧を装備した強そうな男達がいた。その彼等を見て、集まっている人達が話をしている。
「あの人達が護衛の冒険者ね」
「彼等はBランク冒険者パーティ、白狼の牙だよ」
次回 メイル国へ に続く