第二十五話 魔族警報
「じゃあ、サファイアは売るとして、マッピングのスキルブックのほうはどうする?」
「マッピングってどんなスキル?」
「たぶんダンジョンとかの地図を作るスキルだと思う」
「地図か。私、地図見るの苦手だからパス」
「私もメンドイ」
「じゃあ、俺が使うか」
冬雅はアイテムボックスからマッピングのスキルブックを取り出して開き、マッピングを習得する。
マッピング
ダンジョン内の訪れた通路や部屋のマップを記録し描写する
「マップ、オン」と「マップ、オフ」で
マップウィンドウを開閉できる
「やっぱりダンジョンのマップを作るスキルみたいだ。よし、マップ、オン!」
冬雅がそう言うと、目の前に半透明ウィンドウが表示され、「闇の古代遺跡 地下一階」という文字と、このボス部屋のマップが表示されていた。
「なるほど、一度歩いた場所を記録して表示してくれるのか。ゲームみたいだ。これで複雑なダンジョンも攻略しやすくなる」
「ならマップのことは上泉君に頼むわね」
「じゃあ、帰ろ」
冬雅達はこのボス部屋から出て、地下一階の通路を戻っていく。すると冬雅の目の前のマップウィンドウに歩いた通路が追加されていく。
「ちょっと邪魔かな」
冬雅はマップウィンドウをタッチして、そのまま右下方向へ動かしてみる。するとマップウィンドウの表示場所を移動することができた。
「おっ、やっぱり移動できたか」
冬雅はマップウィンドウに地下一階のマップが作られていくのを見ながら歩いていく。
「マッパーなら全部のマップ埋めするんだろうな」
「まっぱ? 全裸ってこと?」
冬雅の独り言に凛子が反応する。マッパーとは、今回のようなマッピングシステムを持つゲームで、ゲーム内に存在するすべてのダンジョンの完全マップを作るという、やりこみ要素を極めたゲーマーのことである。
「いや、なんでもない。さっさと帰ろう」
冬雅は地下一階のボス部屋から一階の出入口までのマップを作り、闇の古代遺跡を出る。
「やっぱりフィールドのマップは作れないか」
冬雅は外に出てもダンジョンマップが闇の古代遺跡のままなのでそう判断する。マップウィンドウの上部には左右へのカーソルが表示され、それで一階と地下一階が切り替えられるようになっていたが、今いる外のマップは表示されてなかった。
「じゃあ、マップ、オフ!」
冬雅がそう言うとマップウィンドウが消える。
「これはいいスキルを手に入れた。弱いモンスターのダンジョンはレベルは上げづらいけど、ボス討伐報酬がうまいから、クリアしたほうがいいな」
冬雅はそんなことを考えながら歩いていき、三人は王都ニルヴァナの冒険者ギルドに戻ってきた。今の時刻は午後三時くらいで、冒険者ギルドの中はあまり人がいなかった。だが冒険者ギルド内が何かざわついていて、職員も忙しそうに走り回っている。
「ん? 何だろう」
「何かあったのかな?」
「素材を売る時、聞いてみたら?」
「わかった。俺が聞いてみる」
冬雅達は冒険者ギルドの一階フロアの奥にある素材買取カウンターへ行き、そこにいる若い男性の職員に話しかける。
「素材の買取りをお願いしたいんですけど」
「はい。では冒険者ギルドカードの提示をお願いします」
冬雅はDランク冒険者ギルドカードをカウンターの上に出し、さらにアイテムボックスからスケルトンナイトの魔石や、ほかのスケルトンシリーズの魔石を取り出す。
「Dランクのトウガさんですね。では魔族警報の説明は受けましたか?」
「えっ? 魔族警報というのは……」
「はい。昨日、この王都周辺で魔族の目撃情報が複数ありました。それでCランク以下の冒険者に、魔族と遭遇したら逃げることをお勧めしてます」
「ま、魔族ですか!」
「はい。魔族は高い魔力と強靭な肉体を持つ種族で、魔族国から来た可能性があります。冒険者は自己責任が基本なので、逃げることは強制ではないですが、Cランク以下の冒険者では絶対勝ち目がありません。だから逃げて生き残ることを優先してください」
「はぁ、わかりました」
冬雅達はまさかEランクの時に魔族を倒したとは言えず黙っている。
「では買取の査定を始めますね」
「あっ、それと、ここで宝石の買取ってやってますか?」
「はい。宝石はダンジョンの宝箱から見つかることがあるので、うちでも買取できますし、王都の宝石店でも買取してます。ですが宝石店では、冒険者は宝石に詳しくないと扱われることが多くて、安い値段で買取られることが多いんです。ですから、ここで売ったほうが安全です。私はアイテム鑑定のスキルを持ってるので確実です」
「なるほど。二人とも、どうする?」
「ここでいいんじゃない」
「とりあえず値段を聞いてみようよ」
「わかった。ではこれを……」
冬雅はアイテムボックスからサファイアを取り出す。
「これは……サファイアですね」
冒険者ギルドの職員はサファイアを白い手袋をつけた手で取り、アイテム鑑定のスキルで本物であることを確認し、カウンターの隅にあった量りを持ってきて、サファイアの重さを調べる。
「なるほど、これなら……5000ゴールド(金貨五十枚)で買取りできます」
(5000ゴールド……五十万円くらいか)
「どうする?」
「思ってたより、いい金額だと思う」
「うん。売っちゃっていいよ」
「では買取をお願いします」
「わかりました。ではこちらの魔石の査定に少し時間がかかるので、預かり証をお渡しします」
冒険者ギルドの職員が預かり証に、査定するために預ける物を書き出して、冬雅の冒険者ギルドカードと共に彼に渡す。冬雅達はそれを持って買取カウンターから一階フロアのテーブルと椅子が置いてある場所に移動して、査定が終わるのを待つ。すると周囲にいる低ランクの冒険者達の話し声が聞こえてくる。
「魔族がこの王都周辺に現れたということは、魔族国軍が攻めてくるかもしれん」
「魔族国軍が来るとしても、まだ王都での戦いにはならないだろ。西グライン砦には、ゼル将軍率いるグライン鉄騎兵団がいるからな」
「そうだな。だが西グライン砦が落ちたら、次はこの王都ニルヴァナだ。魔族国軍が来ないうちに、この国から避難したほうがいいんじゃないか」
「うーん。なら行くとしたら東のメイル国あたりか」
「よし、じゃあ、メイル国への馬車がいつ出るか、馬車乗り場に行って聞いてこよう」
そう言って低ランクの冒険者パーティは冒険者ギルドを出ていく。
「そうか。この国から避難する冒険者もいるのか」
「私達はどうする?」
「そうだな……」
「トウガさーん」
査定が終わり、三人は再び買取カウンターへ戻る。
「では先ほどの査定どおり、宝石は5000ゴールド、こちらの魔石は2300ゴールド、合わせて7300ゴールドでどうでしょう」
「はい。それでお願いします」
「では皆さんの冒険者ギルドカードをこの水晶にかざしてください。今回のランクアップポイントを登録します」
冬雅達は冒険者ギルドカードをカウンターの上にある丸い魔法の水晶にかざし、今回の取引のランクアップポイントを登録する。そして7300ゴールド(金貨七十三枚)を手に入れた。
「ありがとうございました。魔族警報の件、十分注意してください」
「はい」
冬雅達は冒険者ギルドを出て、噴水広場のベンチに座る。
「魔族警報だって」
「私達が魔族を倒したことは報告しなくてもいいよね」
「うん。俺達の強さがばれたら、絶対に面倒なことになるからね」
「それに警報が出る原因となったのは、私達が倒したのとは違う魔族だよね」
「昨日、目撃って言ってたからね。その魔族がデーモンナイトと同じくらいの強さならまだいいけど、それ以上という可能性もある。この王都周辺で活動するのは危ないかもしれない」
次回 作戦会議 に続く