第二十四話 闇の古代遺跡のボス
「佐々木さん。耐熱マントの守備力っていくつ?」
「んーと、15」
「ということは、俺の鉄の胸当てより5高い」
「えっ? そのマント、鉄より防御力が高そうには見えないけど」
「うん。触った感じ、普通の布だよ」
凛子は装備した耐熱マントを撫でて感触を確かめている。
「たぶん防御力を上げる魔法が付与されてるんだと思う」
「へー、魔法って便利ね」
「科学が発展してない分、魔法が発達してるんでしょうね」
「じゃあ、このマント、凄いんだよね」
「凄いよ。火の耐性もついてるんだし」
「へへへ、これはいいものをもらった!」
凛子は耐熱マントを撫でながら喜んでいる。
「じゃあ、先に進……ん! モンスターの気配!」
「またゴーストだよ!」
「ウウウウウウウ……」
「よし、じゃあ俺が」
冬雅は鋼鉄の剣に魔力をまとわせ、ゴーストに向かって突撃する。
「錬気斬!」
「ギャアアアアア!」
冬雅の魔力の斬撃で一刀両断されたゴーストは、気持ち悪い叫び声を上げながら消滅した。
「もうゴーストは楽勝ね」
「幽霊と接近して戦うのは、気分がいいものじゃないけどね」
「そういえばゴーストには魔石はないのかな」
冬雅達はゴーストが消滅した場所の床をよく見るが、何も落ちてなかった。
「ゴーストに魔石はないみたい」
「あったら、魔石を壊せば倒せる、みたいに弱点になったのにね」
「魔族にも魔石はないし、すべてのモンスターに魔石があるわけじゃないんだろう」
「ゴーストは、倒しても経験値以外、何も手に入らないからあんまり戦いたくないかも」
「ああ、それがここのダンジョンが不人気な原因か」
冬雅達がこの闇の古代遺跡を攻略している間、ほかの冒険者に一度も会ったことがなかった。
「まあ、ゴーストとかスケルトンとかいるダンジョンは元々不人気でしょ」
「確かに。これでゾンビとかもいたら、私も来たくないよ」
「ゾンビが出てくるのは、これからかもね」
「うげっ」
「私もゾンビは嫌だし、出てこないことを祈りながら進みましょ」
冬雅達は地下一階の通路を進んでいく。するとこの闇の古代遺跡で一番広い部屋の入口の前に到着した。
「ここは……」
「広い部屋ね」
「真ん中に何かいるよ!」
「このダンジョンのボスかも」
三人がその部屋の入口から中を覗くと、鋼鉄製の全身鎧、鋼鉄の剣、鋼鉄の盾を装備したスケルトンが、部屋の中央に立っているのが見えた。
「あれは……Cランクのスケルトンナイトかな。Bランクのスケルトンジェネラルの可能性もあるけど、このダンジョンはDランクモンスターばかりだったから、ボスはCランクだと思う」
冬雅の考え通り、この部屋にいたのはCランクモンスターのスケルトンナイトだった。
「ねえ、あれ」
サキはスケルトンナイトの背後の部屋の奥にある宝箱に気づく。
「宝箱か。たぶんあの敵を倒すと手に入るんだと思う」
「ふふふ、報酬があるとやる気が出るよね!」
「まあね」
「じゃあ、やっちゃいましょ!」
冬雅達はボス部屋に入り、スケルトンナイトに接近する。
「ゴゴゴゴゴ、フシュー」
するとスケルトンナイトが不気味な声を上げながら動き出す。
「魔力チャージ!」
まず凛子が魔力チャージを発動し魔力をためる。
「堅牢!」
「加速!」
続いて冬雅とサキは能力強化のスキルを発動し、凛子より前に出てスケルトンナイトと対峙する。
「ガアアアアアア!」
その冬雅とサキに反応し、スケルトンナイトが鋼鉄の剣を振り上げながら、二人に向かって走り出す。それを見たサキは冬雅より数歩前に出て、鋼鉄の盾を構える。
「ガッ!」
突撃してきたスケルトンナイトが、サキに向かって鋼鉄の剣を振り下ろす。それを彼女は鋼鉄の盾で受け止める。
「竜牙一閃!」
続いて冬雅が、鋼鉄の剣に白い破壊のオーラををまとわせて、サキに攻撃した直後のスケルトンナイトを狙って高速で重い斬撃を放つ。
「グゴッ!」
その斬撃はスケルトンナイトの鋼鉄の鎧を切り裂き、さらに骨も切り裂く。すると大ダメージを受けたスケルトンナイトがよろける。
「今だ!」
冬雅とサキは、急いでスケルトンナイトから離れる。
「フレイムピラー!」
そこへ凛子が火系上級魔法を発動し、魔力チャージで強化された巨大な火の柱がスケルトンナイトの全身を飲み込む。
「ガアアアアアア!」
その高熱の火の柱の中でスケルトンナイトの骨が燃えてボロボロになり、身に着けていた鋼鉄の装備品と共に地面に落下して散らばった。
「えっ? もう倒した?」
冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響き、彼らはレベルが21に上がった。
「ダンジョンのボスがこんな弱いわけない。連戦系のボスか!」
三人は武器を構えながら周囲を警戒する。だが何も起きず、冬雅の前にメッセージウィンドウが表示される。
「闇の古代遺跡、ダンジョンボス討伐報酬をひとつ選んでください。
力の指輪×1
氷結の杖×1
マッピングのスキルブック×1」
「討伐報酬を選んでってメッセージが出た。ボス戦は終わったみたい」
「あの魔族との戦いの後だと、何か物足りないような」
「確かに。あいつの強さは異常だったしね。それで、その報酬ってのは?」
冬雅は、サキと凛子に表示された三つの報酬を伝える。
「氷結の杖と力の指輪は。たぶん武器屋で買えると思う」
「じゃあスキルブック一択でしょ」
「そうね。店で売ってない物がいいと思う」
「わかった」
冬雅はマッピングのスキルブックを入手し、さらに地面に落ちているスケルトンナイトの装備品も回収する。
スケルトンナイトの魔石×1
鋼鉄の剣×1
壊れた鋼鉄の鎧×1
鋼鉄の盾×1
「じゃあ、あれを開けよ!」
「罠はないみたいだよ」
冬雅の罠看破のスキルが反応しないので、三人は安心して宝箱に近づいて蓋を開ける。
「これは……」
凛子が宝箱を開けると、中に宝石のような透明の青い石と、赤色の液体が入った小さな瓶が入っていた。
「これ……サファイアじゃない?」
「ブルーサファイアってやつかな。本物かな」
「アイテムボックスに入れれば名前がわかるよ」
「じゃあ、お願い」
冬雅がそれらをアイテムボックスに収納する。
サファイア×1
フルポーション×1
「おっ、二人のいう通りサファイアだった。あと赤色のはフルポーションだって」
「やった! サファイア!」
「本物なら高く売れるんじゃない?」
「えっ? 売っちゃうの?」
「えっ? 売らないの?」
サキはサファイアを売るつもりで、凛子はそれとは反対の意見だった。
「私は漆黒のやつがあるから、このサファイアを売って二人の新しい装備の資金にすればいいと思ったんだけど」
「で、でもこのサファイアに何か凄い効果があるかもしれないよ」
「なるほど。じゃあ、装備してみよう」
冬雅は今装備している守りの指輪を外し、サファイアをアイテムボックスから取り出して手に持ち、ステータスボードの装備欄を見る。
装備
鋼鉄の剣 攻+20
鉄の胸当て 防+10
「……サファイアが表示されてない」
「宝石って、指輪とかと違って装備できないんじゃない?」
「そうみたいだ」
「はー、それならしょうがない。売って新しい装備の資金になってもらうか」
次回 魔族警報 に続く