第二十三話 再び闇の古代遺跡へ
「ん?」
冬雅はよろけたアルベルトに接近し、突きを放とうとするが、何か違和感を感じて攻撃を止める。
(気配を感じない)
冬雅は目の前のアルベルトから気配を感じず、彼の気配が後方に移動しているように感じる。
「まぼろしか!」
冬雅は気配がする方向を意識して見ると、アルベルトが離れていくのが見えた。
「何かのスキルか!」
冬雅は目の前の偽物のアルベルトを無視し、本物のアルベルトの方へ突撃する。今、アルベルトが使ったのは「幻影」というスキルで、敵に使用者のまぼろしを見せて、使用者自身は相手に意識されないようにするスキルだった。
「なっ! 見破られた!?」
「はっ!」
冬雅はアルベルトに接近し、相手の胸を狙って木剣で突きを放つ。それに対しアルベルトは鋼鉄の盾で身を守ろうとしたが、あまりに速い冬雅の突きに対応できず、その突きがアルベルトの胸部分に命中する。
「ぐっ」
その高速の突きによって、アルベルトの胸部分にあった身代わりの首飾りが破壊された。
「し、しまった!」
アルベルトは、冬雅の狙いが自分への攻撃でなく、身代わりの首飾りだったことに気づく。
「確かに身代わりの首飾りが壊れたら負けなんだが、まさか直接狙ってくるとは……」
「それで試験は……」
「もちろん合格だ」
「やった!」
「ふー」
「何とか勝てた」
「俺に勝つ必要はなかったんだがな。俺に火の魔法を当てた時点で合格にするつもりだったんだが、まさか負けるとは思わなかった」
冬雅達は試験官との模擬戦に勝利し、EランクからDランクに昇格して喜んでいる。
「しかし凄いな。俺の幻影のスキルを初見で見抜くとは」
「やはりスキルでしたか。まあ、たまたまですよ」
「三人の連携も完璧だったし、お前達はCランクくらいの実力があるんじゃないか?」
「そうだといいんですが」
「俺の見立てに間違いない。Cランクへのランクアップポイントがたまったら、すぐに試験を受けても合格できるだろう。ああ、Cランク試験は三対三の模擬戦になるから、今より連携が大事になってくるぞ」
Cランク試験は、試験を受けるパーティと同じ数の試験官との模擬戦だった。
「じゃあ、彼女にカードの更新を頼んでくれ。俺は訓練に戻る」
そう言ってアルベルトは訓練場にいたランクの低い冒険者達の指導に戻り、冬雅達は受付嬢がいる場所に行く。
「おめでとうございます! ランクアップの手続きをするので、ギルドカードを回収させていただきます」
冬雅達は受付嬢にEランクの冒険者ギルドカードを渡す。
「では受付カウンターへ戻りましょう」
冬雅達は冒険者ギルドの一階フロアの受付カウンターに戻り、彼らは一階フロアの椅子に座ってカードの更新を待っている。
「上泉、私達、あのBランクの人に勝っちゃってよかったの? 目立つんじゃないの?」
「大丈夫だと思う。あの人は俺達のことCランク相当だって言ってたし、Cランク冒険者ならいっぱいいるから」
「それならいいけど」
「トウガさーん!」
「はい!」
冬雅達は受付カウンターへ行き、受付嬢から緑色のDランク冒険者ギルドカードを受け取って、その後、冒険者ギルドを出る。
「これでDランクか」
「それで今日はどうする? まだ時間、早いよね」
「昨日、休みだったし、このまま帰るのもね」
サキと凛子は、ランクアップ試験で本気を出せなかったので、何か物足りないと感じているようだ。
「なら今からまた闇の古代遺跡に行ってみる? まだクリアしてないし」
「あそこって、また魔族が出るんじゃない?」
「いや、ネームドモンスターは、倒したら同じのは出てこないと思う。もしデーモンナイトが出たとしても、あそこまで強くないと思う」
「私達、レベルが上がったし、スキルも増えたし、また戦うことになっても大丈夫でしょ」
「そうか。ならいってみてもいいかな」
「じゃあ、買い物してから行ってみよう」
冬雅達は大通りで食料や飲み物を買ってから王都ニルヴァナを出て、また一時間くらいかけて移動し、闇の古代遺跡にやってきた。
「今日はこの前、行ってない場所に行ってみよう」
冬雅達はスケルトンソルジャーなどと戦いながら一階フロアを進み、地下一階へ降りる階段を見つける。
「地下に降りる階段よね。どうするの?」
「行くしかないでしょ。ちょっと怖い気もするけど」
サキはアンデッドモンスターが出現する闇の古代遺跡の地下から、不気味な雰囲気を感じている。
「ああ、フロアが変わると、出てくるモンスターも変わるかもしれないから、慎重に行こう」
冬雅達は階段を降り、地下一階フロアを警戒しながら進む。すると、
「うわっ! もしかして幽霊?」
「こわっ!」
「ウウウウウウウ……」
「あれはたぶんゴーストだ!」
冬雅達の前に、Dランクモンスター、ゴーストが出現した。そのゴーストは男の姿で体が透けていて足が見えてなかった。
「ゴーストには物理攻撃が効かなかったような」
「じゃあ、私の出番ね」
そう言って凛子が魔導士の杖を掲げる。
「まかせた」
「うん。はあああああ!」
凛子は魔導士の杖をゴーストに向けて魔力を集中させる。
「ウウウウウウウ……」
一方、ゴーストはゆっくりと、三人に近づいてくる。
「フレイムピラー!」
そこへ凛子が火系上級魔法を発動し、ゴーストの足元から火の柱が出現してゴーストの全身を飲み込む。
「ガアアアアアアアア!」
その火の柱の中でゴーストは燃え尽きて消滅した。
「やった! 私の上級魔法なら一撃みたいね」
「次、ゴーストが現れたら、今度は俺が戦ってみるよ」
「えっ? ゴーストには剣は効かないんじゃないの?」
「剣に魔力をまとわせれば、たぶん斬れると思う」
「なら私のオーラブレードでもいけそうね」
「何だ。私だけが倒せるんじゃないのか。パーティ内での魔法使いの価値が上がると思ったのに」
「いや、ひとりで戦いたいなら戦ってもいいよ。そのほうが私達が楽だしね」
そう言ってサキは冬雅の方を見て同意を促す。
「えっ? ええと……」
それに冬雅が戸惑う。
「ああ、ウソウソ。価値なんてどうでもいいから、みんなで戦おう」
「じゃあ、地下一階の探索を続けましょ」
冬雅達は地下一階を進み、ゴースト、スケルトンシリーズ、そして動く骨の犬、スケルトンドッグ(Dランクモンスター)と戦いながら、闇の古代遺跡の通路を進んでいく。その探索で宝箱を三つ発見し、ハイポーション、解毒薬、耐熱マントを手に入れた。
「耐熱マントは凛子の装備かな」
「うん。魔法使いは鎧系を装備できないから、佐々木さんでいいと思う」
「サンキュー! さっそく装備してみるよ」
凛子は魔導士のマントを外して藍色の耐熱マントを装備し、ステータスボードを表示して装備欄を見る。
装備
魔導士の杖 攻+5 魔+10
耐熱マント 防+15 火耐性50%
魔力の指輪 魔+5
「名前通り、耐熱マントに火の耐性がついてるみたい。守備力も上がったよ」
火耐性50%
火属性の物理ダメージと魔法ダメージを50%カット
次回 闇の古代遺跡のボス に続く