第二十二話 ランクアップ試験
「おお、剣にも鎧にも軽量化と自動修復が付与されている。こっちの盾は魔法ダメージカットもついてるぞ。これはレアものだ!」
ドワーフの男が興奮しながら、テーブルの上の漆黒の武具を見ている。
(このドワーフの人、鑑定のスキルを持ってるのか)
鑑定のスキルは、人や物の強さや詳細を知ることができる異世界ものの定番スキルのひとつだった。
「お客さん。これを売ってしまうのか? どう考えても、もったいない。今あんたらが身に着けてるうちのやつより凄い装備品だぞ」
「そんなに凄いんですか?」
「うむ。では詳しく教えてやろう。ああ、鑑定に金は取らないから安心しろ。これは客へのサービスだ」
ドワーフの男は鑑定した漆黒の武具の性能を冬雅達に話す。
漆黒の剣
攻+50
軽量化 自動修復
漆黒の鎧
防+40
軽量化 自動修復 自動サイズ調整
漆黒の盾
防+20
軽量化 自動修復 魔法耐性20%
「なるほど。全部に魔法が付与されているんですか。確かに凄い性能ですね」
「そうだろ。それとお前達は冒険者か?」
「はい」
「それなら自分達で使ったほうが絶対いい。今すぐ金が必要というならうちで買い取るが。そうだな。これを装備できるのは……お嬢ちゃんか」
そう言ってドワーフの男はサキの方を見る。
「私ですか」
「うむ。まあ、剣だけならお主が使ってもいいだろうが、せっかくなら黒色の装備で揃えたいだろ」
ドワーフの男は冬雅とサキを見ながらそう話す。
「だって。宮本さん。どうする?」
「そうね。強い装備品なのはいいんだけど、このまがまがしいデザインがちょっとね」
「ふむ。それなら心配いらん。うちは装備品のデザインの変更もやってるからな」
「では、もっとかっこよくできますか?」
「おお、まかせておけ。そうだな。三日もあればできるだろう。ああ、こっちは有料だ。まあ、300ゴールドでいいだろ」
「じゃあ、それでお願いします」
「うむ。では預り証を準備してくれ」
「はい!」
女性の店員が預かり証を持ってきて必要なことを書いてサキに渡す。
「では漆黒の武具はデザイン変更で、こっちの武器と防具は買取でいいですか?」
「はい。それでお願いします」
冬雅達は漆黒の武具の預かり証とスケルトンの武具の代金をもらって武器屋を出る。その後、宿屋に帰って彼等の今日の冒険者活動は終了した。そして次の日は冒険者活動は休みにして、三人は買い物、買い食い、読書などして一日が終わった。
そして次の日、冬雅、サキ、凛子は、冒険者ギルドの一階の買取カウンターでスケルトンソルジャーなどの魔石を売る。その後、受付カウンターへ移動して、受付嬢にランクアップ試験を受けることを告げる。
「Dランクへの試験は試験官との模擬戦です。ギルドの裏にある訓練場で戦ってもらいます」
「模擬戦というのは一対一で戦うんですか?」
「いえ、試験を受けるパーティ全員で試験官と戦ってもらいます。それで試験官があなた達をDランクと認めれば合格です。試験官に勝つ必要はありません」
「なるほど」
「では訓練場に案内しますね」
受付嬢に連れられて冬雅達は冒険者ギルドの裏にある訓練場にやってきた。そこでは数人のランクの低い冒険者と冒険者ギルドの指導員がいて戦闘訓練をしている。
「アルベルトさん。ランクアップ試験お願いします」
そのアルベルトと呼ばれた指導員は、筋肉質の体の中年の男だった。
「おお、試験か。何ランクだ?」
「Dランクです」
「Dか。試験を受けるのはそいつらか」
「はい」
「見ない顔だな。ここに来た事ないだろ」
「俺達は登録したばかりなので」
「そうか。登録したばかりでランクアップ試験を受けるか」
指導員のアルベルトは冬雅達を見ている。
(若そうに見えるが、登録する前は何かやってたのかもしれんな)
この世界では、冒険者は犯罪歴以外、過去の経歴は問わないというのが一般的で、冒険者の過去を聞くのはマナー違反だと考えられていた。
「よし、ちょっと待ってろ」
アルベルトは訓練場の隅に移動して、置いてある鎧を身に着けて戦いの準備をする。その間に受付嬢が、冬雅、サキ、凛子に首飾りを渡す。
「それは身代わりの首飾りです。この訓練場内で大ダメージを受けた時、一回だけダメージを肩代わりしてくれます。それでその首飾りが壊されたら負けです」
「なるほど。これ、ダンジョン内では使えないんですか?」
「ダンジョンで使える身代わりアイテムは残念ながら、ないですね。あればダンジョン探索が安全になるんですが」
冬雅が受付嬢とそんなを話していると、鋼鉄の鎧、鋼鉄の盾、身代わりの首飾りを装備したアルベルトが、木剣を三本持って戻ってきた。
「お前達にはこれで俺と戦ってもらう」
アルベルトは、冬雅とサキに木剣を渡す。
「俺は現役のBランク冒険者だ。一対三でも遠慮なくかかってきていいぞ。それでお前達がDランクモンスターと戦えると俺が判断できたら合格だ」
「はい。お願いします」
アルベルトと冬雅達は訓練場の中央に移動し、それをほかの冒険者と受付嬢が見守っている。
「俺達の本当の力を見せると、たぶん目立つと思う。だから手加減しよう」
冬雅達は集まって小声で話している。
「私達、Bランク冒険者相当のレベルだもんね」
「そう。だから俺と宮本さんは攻撃スキルを使わないで、佐々木さんはファイアーボムと魔法障壁だけにしよう」
「わかった」
「私も了解」
作戦が決まり、冬雅はアルベルトの前に移動して木剣を両手で持って中段の構えで立ち、そのとなりに移動したサキは木剣と鋼鉄の盾を構える。その後方で凛子が魔導士の杖を構える。
「準備できたようだな。まあDランク試験なんて簡単なんだから気楽にいこうぜ。万が一の時は身代わりの首飾りがあるしな」
そう言ってアルベルトも木剣と鋼鉄の盾を構えて三人と対峙する。
「じゃあ、いつでもいいぞ。先手はくれてやる」
「ではいきます」
冬雅とサキが同時にアルベルトに向かって走り出す。すると速さで勝る冬雅が先行し、アルベルトに木剣で斬撃を放つ。
「はっ!」
「ぐっ」
(こいつ、速い!)
冬雅は木剣で何度も斬撃を放ち、アルベルトは鋼鉄の盾でそれを防ぐ。冬雅の持つ剣速強化は常時発動スキルなので、その効果によって彼の剣速が強化され、アルベルトは防戦一方になり少しづつ押されていく。そこへ遅れて来たサキが、アルベルトの足を狙って木剣で斬撃を放つ。
「ちっ!」
アルベルトはサキの斬撃までは対応できないと判断し、後方へステップして冬雅とサキから距離をとる。それを見た二人は、その場から左右に素早く移動する。
「ファイアーボム!」
冬雅とサキがアルベルトから離れたのを見て、凛子が火球を放つ。
「うおっ!」
その火系下級魔法をアルベルトは鋼鉄の盾で受け止める。すると火球が爆発し、その衝撃によって彼の体がよろけた。
「はっ!」
その隙を逃さず、冬雅は素早くアルベルトに接近して木剣で突きを放とうとする。
次回 再び闇の古代遺跡へ に続く