第二十一話 漆黒の武具
「確かにランクは上げたいよね」
「でも登録したばかりでランクを上げたら目立つんじゃない?」
サキは冒険者ランクを上げることを心配する。
「いや、冒険者になる前に、傭兵とか兵士とかだった場合は最初からレベルが高いから、登録してすぐにランクアップするのは珍しいことじゃないと思う」
「なるほど、ならランクアップ試験、受けてもいいかもね」
「でも今日は無理。激戦で疲れたし」
「そうね。というか、休みも欲しい」
「なら明日は休みにして、明後日にランクアップ試験を受けるのはどう?」
「うん、私はそれでいいよ」
「私も賛成」
「じゃあ、それで決まりとして、まずは……」
冬雅は鋼鉄の剣の刃についている、デーモンナイトの青い血を見る。
「クリーン!」
冬雅がクリーンのスキルを発動すると、刃についていた青い血が消えて綺麗になった。さらに冬雅自身と身に着けている服や鉄の胸当ても綺麗になる。
「えっ? 何、それ?」
「クリーンのスキルだよ。魔道具屋で買ったスキルブックで覚えたやつ。自分の体と身に着けてる物を一瞬で綺麗にできるんだ」
「それってもしかして歯磨きとかしなくていいようになるやつ?」
「そう」
「そんなのずるい! 私も欲しい!」
「私も!」
サキと凛子は虫歯になりたくないので、毎日、朝と夜に歯磨きをしていたが、それが面倒だと思っていた。
「あー、魔道具屋にクリーンは一冊しかなかったような」
「そんな……」
「ん? 身に着けている物も一緒に綺麗になるの?」
「そうだよ。さっきの剣みたいに俺が触ってる物が綺麗になるんだ」
「じゃあ!」
凛子は冬雅の右手を取って握る。
「えっ?」
いきなり凛子に右手を握られ、冬雅はドキッとする。
「これでクリーン使ってみて」
「ああ、待って! 私も!」
そう言ってサキは冬雅の左手を握り、彼はさらにドキドキしてしまう。
「じ、じゃあ、いくよ。クリーン!」
サキと凛子に手を握られた状態で、冬雅はクリーンのスキルを発動する。
「これは……体がさっぱりしてる!」
「髪の毛もサラサラ! 服も綺麗になってる!」
サキと凛子は、自分達の体と身に着けている物が綺麗になったことを確認している。
「これでもう歯磨きしなくていいのね」
「じゃあ、これから毎日、朝と夜、お願いね」
「う、うん」
冬雅はこれから毎日二人に手を握られることになり、ドキドキしている。
「じゃあ、そろそろ帰る……あっ、あれはどうするの?」
サキに指摘され、冬雅と凛子は倒れているデーモンナイトを見る。
「ああ、戦利品を回収したいんだけど……これをアイテムボックスに入れるのは……」
「ほとんど人間と同じだからね」
冬雅と凛子はデーモンナイトの姿が、肌の色と頭の角以外、人と変わらないことを気にしている。
「ああ、それはわかる。というか人間と同じ姿のモンスターと戦うのって、もっとちゅうちょすると思ってたけど」
「こいつ、強すぎて、そんなことを考える余裕がなかった。一歩間違ったらこっちがやられてたし」
「そうね。私も初めて恐怖を感じたよ」
「うん、俺も怖かった。だから勝てて良かった」
冬雅とサキはこのギリギリの勝利をかみしめている。
「それでこれ、どうする?」
「鎧だけ回収できればいいんだけど、体を触るのはちょっと……」
「アイテムボックスの回収で鎧だけってできない?」
「どうかな。やってみるか」
冬雅は倒れているデーモンナイトに右手をかざして口を開く。
「黒い鎧だけ回収!」
するとデーモンナイトが身に着けていた漆黒の鎧だけアイテムボックスに回収できた。
漆黒の鎧×1
「できた! なら鞘も回収!」
漆黒の剣の鞘×1
冬雅はデーモンナイトの腰についている鞘も回収する。
「じゃあ盾は私が持ってきてあげる」
そう言って凛子が落ちている漆黒の盾を拾いに行く。
「じゃあ、この剣も回収ね」
サキは近くに落ちている漆黒の剣を拾って冬雅に渡し、彼はアイテムボックスに収納し、さらに凛子が持ってきた漆黒の盾も収納する。
漆黒の剣×1
漆黒の盾×1
「これは高く売れそうだ。帰ったら武器屋で売ってしまおう」
「そういえば、こいつは魔石とかないのかな? モンスターは魔石を持ってるんだよね」
「いや、こいつはたぶん魔族だから、魔石はないと思う」
「魔族……ステータスボードの称号にあったやつ?」
三人は自分のステータスボードの称号に、魔族キラーという文字が書かれていることに気づいていた。冬雅はステータスボードを表示して、その文字をタッチしてみる。
称号
魔族キラー(魔族を倒した者に贈られる称号)
魔族に与えるダメージ10%上昇
「そう。こいつは魔族だと思う。魔族は人間と同じで、魔石がなくても魔力を持ってるらしい」
「ああ、冒険者の心得に載ってたね」
この世界では、モンスターの中で人間に近い種族は魔族と呼ばれ、魔族は魔石がなくても魔力を持っていた。ちなみにエルフやドワーフなども、魔石がなくても魔力が使える種族だった。
「じゃあ、これはこのままにしとく?」
「それしかないんじゃない。触りたくないし」
「そういえばダンジョンで死んだら、その死骸はダンジョンに飲み込まれて消滅するらしい」
冬雅は「冒険者の心得」に載っていた情報を思い出す。
「ああ、そういうことか。戻ってきた時、私達が倒したスケルトンの骨がなくなってるから、どうなったのかと思ってたよ」
凛子は一階フロアを戻っていく途中、そのことに気づいていた。
「そういえば、確かに骨がなくなってる」
「ということは、私達がダンジョンで死んだら、ダンジョンに飲み込まれるの?」
「たぶん……」
「まじか!」
三人は自分達の体がダンジョンに飲み込まれていく姿を想像してしまう。
「ダンジョン怖い。早く出よう」
「そうね」
「じゃあ、帰ろう」
冬雅、サキ、凛子の三人は闇の古代遺跡の一階フロアから出て、王都に帰るため、草原の道を歩いていく。
「そういえば、凛子が使ったライトニングレインって広範囲魔法じゃなかった? さっきのデーモンナイトに全部命中してたよね」
「あの時は、空中に作り出す魔法陣の角度を調整して一点に集中させたからね」
「すごっ、天才か!」
「私、天才だったみたい!」
サキと凛子はそんな話をしながら草原の道を歩いていく。その後、三人は王都ニルヴァナに到着し、まず大通りの武器屋へ入る。
「いらっしゃいませー!」
以前、冬雅達に対応した若い女性の店員が三人に声をかける。
「すいません。モンスターが使ってた武器とかは売れますか?」
「はい! もちろん買取できますよ。壊れた武器や防具でも買い取れます!」
「じゃあ、買取をお願いします」
「ではこちらへどうぞ!」
女性の店員は、店の奥のカウンターのそばにある大きなテーブルがある場所に三人を案内する。
「このテーブルの上にお願いします」
冬雅はスケルトンから手に入れた剣、盾、弓、矢をアイテムボックスから取り出し、さらに漆黒の剣、漆黒の鎧、漆黒の盾も取り出す。
「これは……」
女性の店員が漆黒の武具をじっと見ている。その漆黒の鎧には戦いの時についたデーモンナイトの青い血がついていた。
「ああ、その鎧、俺が綺麗にします」
そう言って冬雅はテーブルの上の漆黒の鎧をクリーンのスキルで綺麗にする。
「あ、ありがとうございます。いえ、私が見てたのはそういうことではなくてですね。ちょっとお待ちください」
そう言って女性の店員は店の奥へ走っていく。しばらくすると、女性の店員と共にひとりの男が現れた。その男は、背が低くて筋肉質の体でひげを生やしている中年のドワーフだった。
「ほう、これか」
「はい。鑑定をお願いします」
ドワーフの男はテーブルの上の漆黒の鎧をじっと見ている。
「ほう。これはなかなかの鎧だ。うちで売ってる一番強いのと互角の力を持ってる。むっ、こっちの剣もいいぞ」
次回 ランクアップ試験 に続く