第二十〇話 ネームドモンスター
「ぐあっ!」
デーモンナイトが前のめりになったところに、サキが鋼鉄の盾をぶつけてダメージを与える。シールドバッシュは防御力の数字が攻撃力として計算されるので、今の「堅牢」と「守りの盾」の効果で強化されたサキの防御力によってデーモンナイトは大ダメージを受けた。
「錬気斬!」
サキの攻撃でデーモンナイトの体がよろけた直後、ポーションで回復した冬雅が、背後から魔力をまとわせた斬撃で右太ももを斬りつける。
「ぐおっ! き、貴様……また……」
デーモンナイトの右太ももは、冬雅の攻撃で傷だらけになっていて青色の血が流れていた。
「上泉君!」
「わかってる!」
冬雅とサキは急いでデーモンナイトから離れる。するとこの瞬間を待っていた凛子が魔法を発動する。
「ライトニングレイン!」
凛子が雷系中級魔法を発動するとデーモンナイトの頭上に複数の魔法陣が現れ、そこから複数の雷が雨のように次々と落ちて、それがすべてデーモンナイトに直撃した。
「ガアアアアアアアアア!」
その強烈な電撃の連続攻撃によって、デーモンナイトは全身が感電し大ダメージを受ける。今の凛子のライトニングレインは、魔力チャージの効果により二倍以上の威力になっていた。
「やった!」
「今度こそ!」
「ぐっ、ぐぐぐっ」
デーモンナイトは大ダメージを受けてふらふらになっていたが、漆黒の剣を杖のように使って倒れずにいた。
「なっ、これだけ攻撃してもまだ倒せないの!」
「いや、効いてる。もう一息だ!」
冬雅は、デーモンナイトの様子を見てそう判断する。一方のデーモンナイトは気力を振り絞り、漆黒の剣を構えて冬雅と対峙する。
「も、もう一息だと……なめるな! 人間風情が!」
「はっ!」
「させるか!」
冬雅が接近してくるのを見たデーモンナイトは、左手をかざして魔力を集中させる。デーモンナイトは冬雅が物理攻撃に対するカウンタースキルを持っているので、魔力衝撃波で迎撃しようとしていた。
(今度は逃げない!)
一度目の魔力衝撃波の時は、冬雅は後方に逃げて避けるのに失敗したので、今度は踏み込んでデーモンナイトの左手を狙って斬りつける。
「ちっ!」
その冬雅の斬撃を見たデーモンナイトは手をひっこめる。すると冬雅も剣を振り抜かずに引いて、彼はデーモンナイトの右太ももに視線を動かす。
(こいつまた!)
デーモンナイトは傷ついた右太ももに意識がいき、右手の漆黒の剣で冬雅の斬撃を斬り払おうと考える。その時、
「ガッ!」
デーモンナイトの喉元に冬雅の鋼鉄の剣が突き刺さった。
(バ、バカな……)
意識が右太ももにいっていたデーモンナイトは、冬雅の喉元を狙った突きを防げず、意識が薄れていき、足から崩れるように倒れた。
「はあ、はあ、はあ……」
冬雅は肩で息をしながら引き抜いた鋼鉄の剣を構え、倒れたデーモンナイトを警戒している。すると冬雅達の頭の中にレベルアップ音が鳴り響き、彼等はレベル20になっていた。
「や、やった……」
「た、倒せた……」
デーモンナイトを倒したことを確認した冬雅とサキは全身に疲労感を感じ、レベルアップに喜ぶ余裕もなく、その場にしゃがみ込む。
「ちょっと二人とも、大丈夫?」
二人の所へ、離れた場所にいた凛子が走って近寄る。
「私は大丈夫よ。ちょっと緊張が切れただけ」
「俺も大丈夫……いや、まだHPが全快してなかった」
そう言って冬雅はアイテムボックスからポーションを取り出してまた飲む。今の冬雅はレベルが上がって最大HPが増え、ポーション一本では全快しなかった。
「ふぅ。これで大丈夫」
冬雅はポーションの空瓶をアイテムボックスにしまって立ち上がる。
「しかし、こいつは強かった。何でこんな強い奴が一階の通路をうろついていたのか」
「移動するタイプのボスだったんじゃない?」
「この世界にはそんなのもいるの……ん?」
冬雅は倒れているデーモンナイトを見る。するとそのそばに、
『デーモンナイト、ネームドモンスター、ガウルの討伐報酬をひとつ選んでください。
ダイヤモンド×1
ミスリルの剣×1
剣速強化のスキルブック×1』
というメッセージが表示されてるのに気づく。
「あっ、討伐報酬がもらえる……こいつネームドモンスターだったのか」
「ネームドモンスターって?」
「個別の名前を持ってるモンスターだよ。ネームドモンスターは、普通の個体より強いんだ」
「ふーん。それで報酬は、またいくつかから選べるの?」
「ええと、ダイヤモンドと、ミスリルの剣と、剣速強化のスキルブックだって」
「ダイヤモンド!」
「ミスリルって強いやつだよね」
「そう。でもミスリルの剣は武器屋にも売ってた。高かったけど」
「じゃあダイヤモンドで!」
凛子はダイヤモンドという言葉に目を輝かせる。
「いやいや、ここはスキルブックでしょ」
「上泉、そのスキルブックは魔道具屋で売ってた?」
「いや、なかった」
「そうかー、じゃあダイヤはいいや」
「やっぱり売ってない物にしたほうがいいでしょ」
「じゃあ、スキルブックにするよ」
冬雅は剣速強化のスキルブックを選択して入手し、アイテムボックスから取り出す。
「それでこのスキルブックなんだけど……」
「サキか上泉でしょ」
「私より速さの高い上泉君が使ったほうが効果が高いんじゃない?」
「うん。俺もそれを言いたかった」
「じゃあ上泉君が使って」
「わかった。ありがとう」
冬雅はスキルブックを開き、剣速強化のスキルを習得した。
剣速強化
剣を振るう速度が上昇し、攻撃回数が増える
「じゃあ、ステータス、オープン!」
上泉冬雅 17歳 人間
職業 侍
称号 魔族キラー
レベル 20
HP 1847/1847
MP 42/257
攻撃力 56(+20)
防御力 49(+15)
魔力 48
速さ 105
経験値 32425
スキル
言語理解 アイテムボックス
ゲートオブアルカディア 斬撃強化
異性運上昇 錬気斬 気配察知
後の先 加速 罠看破 気配遮断結界
クリーン 見切り 竜牙一閃
剣速強化
仲間
宮本サキ レベル20 騎士
佐々木凛子 レベル20 魔法使い
装備
鋼鉄の剣 攻+20
鉄の胸当て 防+10
守りの指輪 防+5
「うおっ! 剣速強化のほかにスキルが二つ増えてた!」
見切り
命中率と回避率が30%上昇
竜牙一閃
剣に破壊の力が宿る特殊な魔力をまとわせて
攻撃力の三倍のダメージを与える剣技
消費MP 30
「私も確認してみよ」
「ステータス、オープン!」
サキと凛子もステータスボードを表示する。
「あっ、二つ増えてる!」
「私も!」
サキ
乗馬
乗馬技術が上昇
癒しの盾
敵の攻撃を防御した後、HPが小回復する
消費MP 25
凛子
魔力高揚
使用者の魔力が十五分間20%上昇
消費MP 20
マジックバインド
魔力で相手の体を拘束して行動不能にする
拘束力は使用者の魔力により可変
消費MP 18
「たぶん強敵を倒してたくさんの経験値をもらえたから、一気にレベルが20になったんだよ」
「そういえば、レベル20ってBランク冒険者相当だったような」
サキは「冒険者の心得」にそう載っていたのを思い出す。
「私達、またEランクなのにね」
「じゃあ、そろそろランクアップ試験、受けてみようか」
次回 漆黒の武具 に続く