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第〇〇二話 スキルブック

 この場にいる全員が、文官が持ってきたスキルブックに注目する。


「この高難度ダンジョンから発見されたスキルブックで、物理系最強技であるファイナルギガバーストを習得できる。これをアサイに習得してもらいたい」

「そんな凄いものを俺に……」

「ファイナルギガバーストは、あまりに強力なスキルだ。君には習得する前に、このスキルを私利私欲のためには使わず国のために使うという契約をしてもらいたい」

「それはかまいませんが」

「では契約書の準備を」


 後方に控えていた文官が契約書を持ってきて、浅井はそれにサインする。


「確かに。ではこれを開いてみてくれ」


 アンサズ宰相はスキルブックを浅井に渡し、彼はそれを開く。すると浅井の体が光り出し、ファイナルギガバーストを習得した。


「おお! これで我が国は最強の勇者を得た! これで魔族国に勝てる!」

「おおおおおお!」

「やった!」

「俺達は救われた!」


 この場にいた文官や騎士達が喜んでいる。


「あの、戦闘職と錬金術士じゃない者は、どうなるんでしょうか?」


 責任感が強いクラス委員長の浅井は、国に雇われなかった生徒達のことをアンサズ宰相に質問する。


「うむ。心配は無用だ。生産職でも、この国での生活で苦労はさせない。まずこの国で暮らすため十分な支度金を渡そう」


 アンサズ宰相がそう言うと、文官達が金貨の入った袋の用意を始める。


「その支度金があれば、この王都で三か月は暮らせるだろう。そして王都には商業ギルド、生産ギルド、冒険者ギルドがある。そこで自分に合った職業を探せばいい」

「やっぱり冒険者ギルドがあるのか! 異世界に来たんだから、俺は冒険者になるぞ!」

「俺も自由な冒険者がいい。鍋島なべしま、俺と一緒にパーティー組もうぜ」

「ああ、これからよろしく!」


 騎士団に入るか迷っていた戦闘職の生徒達は、冒険者になることを決めたようだ。


「私は生産ギルドかな。まあ、命を賭けて戦うとか無理だから丁度いいか」

「私も生産職でよかったよ」


 落ち込んでいた生産職の生徒達は、少し希望が見えてきて表情が明るくなる。


「羊飼い……羊を飼育する職業なのか?」


 一方、冬雅は、羊飼いがどういった職業なのかよく知らず、不安でいっぱいだった。


「では城を出る方はこちらに来てください。支度金をお渡します」


 この儀式の間の入り口付近にある机の上に複数の金貨が入った袋が置かれていて、そこに複数の文官が立っている。


「上泉はどうするんだ?」


 冬雅にクラスメイトの武藤むとうが話しかけてきた。彼は冬雅の数少ない友人のひとりである。


「ああ、生産職だったから、城を出ないといけないみたいだ。武藤は?」

「俺は二刀流剣士だ。スキルは斬撃強化だったよ」

「そうか」

「俺は騎士団に入る。国に就職すれば安定した収入がもらえるし、俺のこの力があれば、騎士団で成り上がることも可能だろう」

「あんまり無茶するなよ」

「おお、そっちもな」


 武藤が手を振りながら騎士団に入ることになった生徒達の所へ歩いていく。一方、冬雅は支度金をもらうため、この部屋の入り口付近にいる文官の所へ行く。生産職の生徒と城を出る戦闘職の生徒は、そこへ集まって並んでいた。


「支度金を渡す前に、職業鑑定を受けてもらいます。それで今後の就職のアドバイスをさせてもらいます」


 冬雅が並んでいるとすぐに自分の番になり、文官から職業鑑定を受ける。


「君は羊飼い……ですか。羊飼いなんて職業、初めて見ました」

「それで俺はどうすれば……」

「まずは城を出て大通りをまっすぐ進んで噴水広場に行ってください。そこには各種ギルド、武器屋、宿屋、飲食店などがあるので、そこでこの王都で生活する準備を整えてください。羊飼いの君は生産ギルドに行って、働く場所を斡旋してもらうといいでしょう」

「あの、質問があるんですけど、転職って出来ないんですか?」

「転職ですか。ああ、確かに転職を望む者は多いですね。ですがステータスの職業の転職はできません。人は生まれた時にすでにステータスの職業は決まっていて、死ぬまで変わることはありません」

「そう……ですか」

(俺も戦闘職がよかったのに……)


 冬雅は文官の言葉を聞いて落ち込む。


「まあ、ステータスの職業とは違う職業に就く人はいますよ。でも職業適性がないと苦労することになるでしょう」

「はあ」

「ではこちらが支度金です」

「はい」


 冬雅は金貨がずっしりと入った袋を受け取り、制服のポケットにしまう。


「ではこの儀式の間の出入口付近で待っていてください。希望者全員に支度金を渡し終わったら、みなさんを城の外まで案内します」


 冬雅が儀式の間の出入口で待っていると、城を出る全員の支度金受け取りが終わり、冬雅達は儀式の間を出て豪華な装飾のある廊下を歩いていく。


「もったいない。何で出ていく奴等にあんな大金を渡すんだ?」


 儀式の間にいた文官が、小さな声で隣にいる文官にそう話す。


「勇者達に、同胞が丁重に扱われているのを見せて、我々を信用させるためだろ。彼等には魔族国のモンスターに奪われた領土を取り戻すために、命をかけて戦ってもらう必要があるからな」

「なるほど。必要経費ってやつか」

「おい!」

「はっ」


 アンサズ宰相が、ひそひそ話をしている文官達を呼ぶ。


「勇者のみなさんを応接室に案内するのだ。それと彼等の正装の準備をしろ」

「はい」

「お前は錬金術師の彼を工房に案内するのだ」

「はっ」


 浅井達四人は文官に連れられて儀式の間を出ていく。さらに国に仕えることになった生徒達とゼル将軍も出ていく。そしてこの部屋にアンサズ宰相と数人の文官だけが残った。


「アンサズ宰相。こちらが城の外に出た者達の名前と職業のリストです」


 文官が先ほどの職業鑑定の結果が書かれた一覧表をアンサズ宰相に渡す。


「ふむ……強い力を持つ職業の者はいないようだな」

「はい。それで彼等の監視はどうしますか?」

「生産職の者は不要だ。だが冒険者ギルドに行くと言っていた戦闘職の者は監視が必要だ。ギルド内の協力者にそう伝えておけ」

「はっ」

「異世界人は我々より強い力を持ってる場合が多いと伝承にある。強い力を持つ者は、我等の監視下におく必要があるかなら」

「了解しました」



 場面はグライン城の城門に変わる。そこに文官の案内で冬雅達がやってきていた。城を出ることを決めた生徒は、全部で十六人だった。


「この大通りをまっすぐ進んでいけば噴水広場です。そこを目指してください」


 文官が城門に繋がっている大通りを示しながらそう話す。


「城を出たみなさんは、これからはグライン王国の一般人になります。もう城へは戻って来れないので注意してください」

「えっ?」

「どういうこと?」


 文官の言葉を聞いた生徒達は困惑する。


「グライン城には国王様がいらっしゃいます。一般人が簡単に入れる場所ではないのです」

「じゃあ、城に残った奴等とは、もう会えないということですか?」

「いえ、休日に彼等が城を出れば、また会えますよ」

「ああ、なるほど」

「ではみなさんが静かにこの国で暮らせることを願っています」


 そう言って文官は城の中へ入っていった。


「よし、噴水広場にいくか。そこまでみんな一緒に行った方がいい」

「そうだな。ここは日本じゃない。治安がいいと考えない方がいいぞ。さっきもらった金貨の袋も、持ってることを知られないようにしたほうがいい」


 異世界ものの物語を知っている冒険者志望の鍋島とその友人の本多ほんだがそう提案する。


「そうね。私達も一緒に行きましょ」

「サキがそういうなら私も」


 生産職だったクラスメイトの女子達は鍋島達の提案に賛成する。他の生徒達もみんなで行動することに賛成した。


(とりあえず噴水広場までは安心か)


 異世界でひとりで行動することが不安だった冬雅も、皆についていくことに決める。そして生徒達十六人で大通りをしばらく歩いていくと、


「ん? 見られてる?」


 冬雅は、自分達が王都の人々の注目を集めていることに気付く。


「ああ、この制服のせいだ。それに上履きで外を歩くのも違和感がある」


 生徒達は高校の教室からこちらの世界に転移したので、ここにいる全員が上履きを履いて歩いていた。


「早くこの世界の服と靴を買って、着替えたほうがいい」


 冬雅は大通りを服屋を探しながら歩いていく。



 次回 ゲートオブアルカディア に続く

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